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第三章「レゼンタック」
第五十七話「羞恥」
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「距骨、踵骨、腓骨は粉砕……、アキレス腱断裂……」
「肋骨、胸骨、鎖骨も粉砕……」
「ヘマトクリット値は20%、脾結節が内臓に癒着していることから原因は脾臓の損傷によるもの……」
トレバーさんは俺の身体にかざした手を、足から胸にかけてゆっくりと動かしていき、絶えず何かを呟いている。
よく分からないが、骨がいっぱい折れているようだ。
「……俺って大丈夫ですか?」
トレバーさんの手が俺の口元まできたとき、思わず聞いてしまった。
「失礼します」
トレバーさんはそう言うと、俺の質問には答えずに俺の口と鼻を薄い手で覆った。
やばッ
息ができ……る?
「ゆっくり深呼吸してください」
俺はトレバーさんに言われた通り、大きく息を吸い込む。
マイナスイオン的な味を感じるのは多分、気のせいじゃない。
「応急処置として体内に酸素と痛み止めを送りました」
「帰ったら一か月ほど自宅で安静にしていてください」
「病院とか行かなくて大丈夫ですか?」
俺がトレバーさんの手の中で質問すると、トレバーさんの顔が少し曇る。
「アレンさんは名も知らない医者と私、どちらを信じますか?」
「……もちろん、トレバーさんです」
トレバーさんは何も言わずに俺の口から手を外すと、頭に手をかざす。
なにか地雷を踏んでしまったか?
ズシュッ
トレバーさんが身体の近くに足を引き寄せたせいで、俺の喉元に泥がかかる。
もう少し気を付けてほしい。
「……アレンさん」
「あなたはなぜレゼンタックに?」
「なぜ……、なぜ……、お金を稼ぐため?」
突然の質問だな……
「なぜ、お金が必要なんですか?」
「なぜって、人間、生きるためにはお金が必要だからですよ」
「……あ、あと旅に行きたいです」
「……帰りましょうか」
トレバーさんは俺の脇の下に手を通して身体を持ち上げると、お姫様抱っこする。
俺にはトレバーさんの身体にしがみつく力が残っていないから仕方がない。
「そういえば、なんでトレバーさんがきたんですか?」
「ノアがくるかと思ってました」
「ノアさんなら一晩中、走り回って疲れたのか、自分の椅子でぐっすり眠っていますよ」
「それに、このような場合は私の方が適任ですから」
トレバーさんはそういうと、南に向かって走り始めた。
「アレンさん、着きましたよ」
「そんな大きな声で名前、呼ばないでください……」
俺はトレバーさんにお姫様抱っこされながら、総合受付にあるソファーにゆっくりと降ろされる。
こんな姿を同僚に見られるとは思わなかった。
明日から陰でクスクス笑われる……
もうお嫁に行けない……
「それでは私は失礼します」
「壊した通信機や失くした備品の分は給料から引いておきますね」
「え?」
トレバーさんは俺が呼び止める前に、姿を消してしまった。
……俺はこれからどうやってヒナコの宿に帰ればいいんだ?
「アレン君!お疲れ!」
「じゃ、いこっか!」
首をぐっと曲げて声の方に目を向けると、アメリアさんがニコニコしながら立っていた。
「……まじですか?」
「しょうがないじゃない」
「ヒナコちゃんの宿の場所を知ってるの私ぐらいだから」
アメリアさんはそう言うと、俺をお姫様抱っこする。
「……早歩きでお願いします」
ぜったいトレバーさんも知ってるだろ……
「じゃあ私もう行くね」
「アレン君、お大事にね」
アメリアさんはそう言うと、小さく手を振りながら俺の部屋から出ていく。
「はぁ……」
ヒナコとケイは外出中で部屋まで送ってもらってしまった。
涙の再開を期待していたわけではないが、ほんちょっと寂しい。
俺は部屋の端に転がっている白い花を手に取る。
花びらが十枚散った。
よくやったな俺。
えらいぞ俺。
今日はもう寝よう。
「肋骨、胸骨、鎖骨も粉砕……」
「ヘマトクリット値は20%、脾結節が内臓に癒着していることから原因は脾臓の損傷によるもの……」
トレバーさんは俺の身体にかざした手を、足から胸にかけてゆっくりと動かしていき、絶えず何かを呟いている。
よく分からないが、骨がいっぱい折れているようだ。
「……俺って大丈夫ですか?」
トレバーさんの手が俺の口元まできたとき、思わず聞いてしまった。
「失礼します」
トレバーさんはそう言うと、俺の質問には答えずに俺の口と鼻を薄い手で覆った。
やばッ
息ができ……る?
「ゆっくり深呼吸してください」
俺はトレバーさんに言われた通り、大きく息を吸い込む。
マイナスイオン的な味を感じるのは多分、気のせいじゃない。
「応急処置として体内に酸素と痛み止めを送りました」
「帰ったら一か月ほど自宅で安静にしていてください」
「病院とか行かなくて大丈夫ですか?」
俺がトレバーさんの手の中で質問すると、トレバーさんの顔が少し曇る。
「アレンさんは名も知らない医者と私、どちらを信じますか?」
「……もちろん、トレバーさんです」
トレバーさんは何も言わずに俺の口から手を外すと、頭に手をかざす。
なにか地雷を踏んでしまったか?
ズシュッ
トレバーさんが身体の近くに足を引き寄せたせいで、俺の喉元に泥がかかる。
もう少し気を付けてほしい。
「……アレンさん」
「あなたはなぜレゼンタックに?」
「なぜ……、なぜ……、お金を稼ぐため?」
突然の質問だな……
「なぜ、お金が必要なんですか?」
「なぜって、人間、生きるためにはお金が必要だからですよ」
「……あ、あと旅に行きたいです」
「……帰りましょうか」
トレバーさんは俺の脇の下に手を通して身体を持ち上げると、お姫様抱っこする。
俺にはトレバーさんの身体にしがみつく力が残っていないから仕方がない。
「そういえば、なんでトレバーさんがきたんですか?」
「ノアがくるかと思ってました」
「ノアさんなら一晩中、走り回って疲れたのか、自分の椅子でぐっすり眠っていますよ」
「それに、このような場合は私の方が適任ですから」
トレバーさんはそういうと、南に向かって走り始めた。
「アレンさん、着きましたよ」
「そんな大きな声で名前、呼ばないでください……」
俺はトレバーさんにお姫様抱っこされながら、総合受付にあるソファーにゆっくりと降ろされる。
こんな姿を同僚に見られるとは思わなかった。
明日から陰でクスクス笑われる……
もうお嫁に行けない……
「それでは私は失礼します」
「壊した通信機や失くした備品の分は給料から引いておきますね」
「え?」
トレバーさんは俺が呼び止める前に、姿を消してしまった。
……俺はこれからどうやってヒナコの宿に帰ればいいんだ?
「アレン君!お疲れ!」
「じゃ、いこっか!」
首をぐっと曲げて声の方に目を向けると、アメリアさんがニコニコしながら立っていた。
「……まじですか?」
「しょうがないじゃない」
「ヒナコちゃんの宿の場所を知ってるの私ぐらいだから」
アメリアさんはそう言うと、俺をお姫様抱っこする。
「……早歩きでお願いします」
ぜったいトレバーさんも知ってるだろ……
「じゃあ私もう行くね」
「アレン君、お大事にね」
アメリアさんはそう言うと、小さく手を振りながら俺の部屋から出ていく。
「はぁ……」
ヒナコとケイは外出中で部屋まで送ってもらってしまった。
涙の再開を期待していたわけではないが、ほんちょっと寂しい。
俺は部屋の端に転がっている白い花を手に取る。
花びらが十枚散った。
よくやったな俺。
えらいぞ俺。
今日はもう寝よう。
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