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第三章「レゼンタック」

第六十六話「お散歩」

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「ねぇ、アレン」
「お散歩いこ」

 ヒナコは頬を赤らめながら上目遣いでこちらを見てくる。


 まてまてまて……
 『お散歩』の意味が分からない。
 遠回しに誘ってるのか?

 まずその首輪はどこから出てきた?
 ペット用の首輪なんてこの国に売っているはずもないし、サイズからしてもおそらく人間用。
 ヒナコはそれをいつから持っているんだ?
 俺がこの宿に来てから、それともずっと前から?


「ねぇ、これ持って?」

 いつの間にか俺のつま先の前に忍び寄っていたヒナコは俺の手に首輪から繋がるリードを持たせる。

 俺はもう一度ドアノブに手を伸ばしたが、鍵は閉まったままだ。
 落ち着こうと深呼吸しようにも、女の香りが充満しているこの部屋ではただ吐き気が増すばかりだ。

「……どこを散歩するの?」

「このお部屋の中」

 ヒナコは膝と両手を床に付き、頬を俺の足に擦りつける。

「……外に行こう」
「いいでしょ?」

「……着替えてもいい?」

「ダメ、今すぐ」
「恥ずかしいの?」

「……わかった」

 カチャンッ

 鍵の開く音がした瞬間、俺はあらかじめ手をかけていたドアノブを勢いよく捻り勢いよく部屋を後にして階段を駆け上がりトイレに入ると、便座の前にうずくまる。

「……はぁ」

 便座の裏まで綺麗に磨かれている……
 吐かなくてよかった。


 俺はトイレを出ると階段から一階を覗き込み、人の気配がないことを確認してから自分の部屋に戻った。


 ケイが寝ている横に置いてあった水が無くなっている。

「……今日はもう寝よう」



 ピピピピピピピピ……

 意識の外で目覚ましの音が聞こえる。

「アレン!朝ご飯!」

 俺はケイののしかかり攻撃が来る前に身体を起こし、目覚ましを止める。

「……アレン」

「ん?」

「アレンって性欲ないの?」

「あぁ……、うん……、え?」

「ヒナコちゃんがそう言ってた」

「いや、無くはないよ」
「アメリアさんとか綺麗だと思ってるし」

 そういえば、あの白い髪の女の人また会いたいな……

「私は?」

「ケイ?」
「うーん、よく分からないけど目の前で着替えするのはこっちが恥ずかしいからやめて欲しいかな」

「ふーん、じゃあいいや」
「早く降りてきてね!」

 ケイはそう言い残すとドタバタしながら部屋を後にした。


 朝からなんだったんだ……

 ケイの機嫌も良くなってるし。
 昨日の号泣のおかげか?

 というか昨日のヒナコはなんだったんだ?


「……うぅ」

 少し寒気がする。
 風邪でも引いたかな?


 とりあえず一階に降りて味噌汁を飲もう。
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