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異世界 〜片想い〜

魔除けと村

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「オレは難しいことはわからねぇけど、ひとまず村へ案内するよ!お前達の状況なら巫女様だって会ってくれるはずだから!」



カルイは立ち上がって魚の骨を袋にしまいながら意気込む。

捨てないのかなと思って見ていると俺達に手を差し出してきた。



「骨!」

「あ、魚の?」

「そうそう!これは武器の装飾品に使われるんだ!だからみんな取っておく!捨てるなんて勿体ない!」

「こんな細い骨を装飾品にするんですか?」

「魚や動物の骨は魔除けに役立つんだ。人間も恐ろしいけど、魔だって恐ろしいからな!」

「魔除けか。…はい」

「魚、美味しかったです」

「へへっ!良かった!」



カルイは腰に着けている皮袋のようなものに魚の骨を大事にしまった。

こんな風習は東京にも、いや日本には無い。

やっぱり違う世界なのだろうか。

と言っても外国とかではなさそうだ。

カルイは日本語をペラペラと喋っている。

こんな時に理解力が良ければ頭が痛くならずに済むのにな。

俺は自分の頭の悪さに今更悩み始めた。



「それじゃ出発しようぜ!」

「うん」

「案内お願いします」

「おう!」



俺達は座っていた石から立ち上がる。

カルイは焚き火を川の水で消していた。

完全に火が消えると森に指を差す。



「こっち!」



俺達は前を歩いて案内するカルイの後ろをくっ付いて行った。

今まで辿ってきた所を引き返すわけではないみたいなので俺達の苦労は一応無駄ではなかったらしい。

でもここに来たからこそ、カルイに会えたのだ。

どっちにしろ無駄にはならなかった。



「カルイは上、何も着てなくて寒く無いんですか?」

「だって今日は魚取りに来たからな!どうせ濡れるんだったら着ない方がいいだろ!」

「確かに」

「お前達の服は随分と珍しい感じだな。雅人は冬に着る服みたいで、美姫は偉い人が着るやつみたいだ!」



カルイは顔だけ振り返りながらそう言う。

俺達は改めて自分の格好を確認するけど特に目新しいものは着てなかった。

俺は長ズボンに半袖のTシャツ、その上に薄めのアウター。

美姫ちゃんは水色のワンピースを着ていた。

対してカルイは上半身は裸だけど、下半身は長めの半ズボンといった格好。

ベージュ色の半ズボンは少し汚れが付いているのできっと魚取り以外にもなにかしているのだろうと思われる。



「村で1番凄い服着てるのは巫女様なんだぜ!きっと見ればびっくりするよ!」

「どんな服なの?」

「なんて言うかわからん!」

「そ、そっか」



どんだけ派手な服を着ているのか。

ちょくちょく会話に出てくる巫女様は俺の中で派手な人の方向に行っている。

でも巫女と言われるだけあって村では偉い人に入るのかもしれない。

でなきゃ『様』なんて人に付けないから。

俺達はそのまま森を歩いて行く。

木の根っこを跨いだり、草を掻き分けたりと東京じゃ考えられない道を歩きながら村へ向かって行った。



「あれだ!」



少し日が差し込んできた場所に着くとカルイは止まって教えてくれる。

そこには少し高い場所にある大きめの集落だった。



「凄い…」

「見た目は弥生時代的な村だね」

「あの家の名前なんて言うんだっけ…?藁が被ってるやつ」

「竪穴式住居」

「それって縄文時代じゃなくて?」

「弥生時代にも引き継がれてあるよ。小学生の頃やったでしょ…」

「抜けてる部分があるな…」



美姫ちゃんはため息、俺は苦笑いした。



「にしても高い場所にあるんだな。しかも集落の奥には森が広がってる」

「それはこの村に霊獣様がいらっしゃるからだ!あの森の奥にいるらしいぜ!」

「らしいって事はあったことないのか?」

「当たり前だろ!霊獣様に会える人は巫女様だけだ!」

「霊獣様って言われるほどだからじゃない?日本だって天皇陛下は中々お目にかかれないじゃん」

「そう言われれば…」



俺達が小声で日本の事を話していると、カルイは「行くぞ!」と言ってまた歩き出した。

集落に行くには長い階段を登るらしい。

足は結構疲れているのに最後に階段が来るなんて苦痛だ。

でも着いて行かなきゃ行く場所がない。

足に鞭を打って俺は無理矢理歩いた。

長い階段を登り終えると大きな木の門が俺達を出迎えてくれる。

カルイは着いた途端に大声で叫び出した。



「ただいまーー!客人連れて来たぞーー!」



そんなに大きな声で言わなくてもと思い俺はカルイに近寄ると家からゾロゾロと人が出始めた。

お年寄りから子供まで俺と美姫ちゃんを珍しい目で見る。

美姫ちゃんは恥ずかしいのか少し目を逸らしていた。



「カルイ、この人達はどうした?」

「変な格好!」

「こいつらは森で拾ったんだ!雅人と美姫!みんな仲良くしてくれ!」



俺達はカルイに拾われたのか…。

ツッコむ余裕もなくて村人達の話はどんどん進んで行く。

色んな人達に囲まれて俺と美姫ちゃんは質問攻めされた。



「どこから来たの?」

「と、東京から…」

「知らないねぇ~」

「あんたら番いか?」

「違います!!」

「つがいって何……?」

「雅人は黙ってて!」

「は、はい!」

「仲が良いこと!私と父ちゃんの若き日を思い出すわ~」

「今じゃ殴り合いの毎日だからな!」

「全くあんたのせいでしょ!」



村人達は大笑いする。

俺は着いていけなくて引き攣るような笑い方になってしまった。

そういえばカルイはどこに行ったのだろう。

さっきからあの元気な声はしない。



「あの、カルイは?」

「村長連れて来てるんだべ。…ほら」

「おーい!お待たせ!ばあちゃん、あれが雅人と美姫だよ!」

「よくぞお越しくださいました。道中カルイから聞いてます。なんでも異界から来た人達だど…」



杖をついて腰が曲がっているおばあちゃんは長い前髪から目を覗かせ俺と美姫ちゃんを見る。

少し鋭い目と合って体が強張った。

村人達はおばあちゃんの言葉でざわつき始める。

きっと異界という言葉で驚いているのだろう。



「おとぎ話じゃないのか?」

「でも村長が言ってるし…」

「あの2人が霊獣様に?」

「……静かにせぇ!!!」

「「「ひっ!」」」



村人達、加えて俺達はおばあちゃんの大声で一気に静かになる。

ここに居る者の息が聞こえるくらいに。

おばあちゃんは1回咳払いすると俺と美姫ちゃんの前に来てお辞儀をした。



「申し訳ありません。今から巫女様の所へ案内いたします。きっと巫女様なら貴方達の正体を表してくれるはず……」

「それじゃあオレも着いてく!ばあちゃんが心配だし!」

「カルイ、ありがとう。それではワシの杖になっておくれ」

「よし!任せてくれ!」



カルイはおばあちゃんの手を取ると一緒に歩き出した。



「雅人、美姫!こっち!」

「わかった」

「それじゃあ失礼します」



美姫ちゃんは村人達にペコペコと頭を下げながらカルイとおばあちゃんが通った道を歩いて行く。

俺も真似して村人に一礼した。

すると村人達は慌ただしく家へ戻って行く。

なんだろうと思いながらも俺は巫女様の元へと案内してもらった。



「巫女様は村人でも、村長のワシでも滅多に会うことは出来ません。ただ、子供が生まれ、その子が物事を正確に覚えられる年になると突然森から現れてとある読み聞かせをしてくれます」

「それが別の世界から来るってやつですか?」

「そうでございます。この儀式は絶えることなく、今でも続いております」

「オレも6つの時に初めて巫女様に会ったんだぜ!その時は小さい俺を膝の上に乗せてくれて本を読んでくれたんだ!」

「そうなんですね。巫女様は優しい人なんですか?」

「ええ、それは勿論。会う機会も少ないため、お会いする時はお互いに敬意を込めて接しています」

「お互いに敬うのは良いことだね」

「ええ、本当にお優しい方です…」



カルイ曰く美人で服装が凄くて、おばあちゃん曰く優しい人…。

外見は想像が出来ないけど、優しいのなら安心だ。

怖い人で話が通じなかったらどうなるかわからないし。

隣を歩く美姫ちゃんもホッとした顔でカルイ達の話に相槌を打っていた。


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