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異世界 〜守り守られるはずなのに〜

貴方への想いの現状

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「雅人、貴方の話が聞きたいです」

「俺の話ですか?」

「ええ。貴方がここに来る前の話を、良ければ聞かせてください」

「でもつまらない話ですよ。特に変わりない日々でしたので」

「良いのです。私は貴方という人物が知りたい」


巫女様はいつものように微笑んで俺に顔を向ける。

俺は頭の中で何を話そうかと考えるけどウケる話なんてなかった。

学校の話なんてどうだろう?

しかしこの世界で通用する単語が無さすぎてちゃんと説明出来なそうだ。

教科書とか部活とか言ってもその後の解説が俺には難しい。

こんな時、頭の回転が速い美姫ちゃんが居ればスラスラ説明出来ていたのに。

悩む俺に巫女様は静かに笑った。


「勿論、身近な人の話でも構いません。例えば……貴方が1番想っている人の話とか」

「み、巫女様!?」

「ふふっ」


もしかして気付いているのか?

俺は巫女様の言葉にドキリと嫌な心臓の鳴り方をしてしまう。

それに釣られて顔が徐々に熱を帯びてきた。


「あの、想っているというのは?」

「雅人が1番わかるはずです」

「うう……」 


こんな反応で返せば想っている人が居ますと言っているのと同じだ。

俺は自分の反応がわかりやすいことに肩を落とした。

美姫ちゃんにも言われているけど、表情とか口調でわかってしまうほど俺の感情は真っ直ぐだ。

クール過ぎる人からしたら羨ましいのかもしれないけど、わかりやすいのもどうかと思う。


「巫女様は、いつからその事を気付いて…?」

「いつでしょう。でも貴方が美姫を見る目はとても優しく感じます」

「相手もバレてる……!」

「恥ずかしいことではありません。寧ろ、誰かを愛せる自分を誇ってください」

「でも、それがバレるのは俺には恥ずかく感じます…」

「大丈夫。どうせ結婚すれば皆の公に出るのですから」

「けっ、結婚!?いや、まだ俺にはその言葉は早すぎると言いますか!!」

「結婚は例えですよ」


穏やかな口調の巫女様に対して俺は顔を赤くさせながら結婚の言葉に両手を横に振る。

そんな様子も面白いようで巫女様は楽しそうに微笑んでいた。


「私は、ずっとここに1人で居ます。だから誰かとこんなたわいもない話をする事もないのです。今日だけは許してください」

「そ、そんな事言われたら…」

「ならば私の話も聞かせましょう。そうすればお互いに対等かと」

「……わかりました。そもそも巫女様のお願いを断ったら村の人達に怒られそうなので」

「ありがとう、雅人」


俺は巫女様に聞こえないくらいのため息を吐いてから自分の中で過去を遡った。


「いつから好きになっていたかはわからないです。俺と美姫ちゃんは小さい頃からずっと一緒にいたので。でも思い出せば頭の中に映る小さな俺には常に美姫ちゃんが隣に居ました。親同士も仲良しだったのでお互いの家を行き来して遊んでましたから。ずっと一緒に居れば居るほど好きが強くなってしまって……。実は、この世界に来る前に美姫ちゃんに自分の想いを伝えたんです。結果は、、ダメでした」

「そうですか……」

「そういう目では見てないって言われました。流石の俺もずっと温めてきた想いが簡単に終わっちゃったので1人で大泣きですよ」

「もう、想いは伝えないのですか?」

「……それが、昨日巫女様に相談した件に繋がります」

「というのは?」

「美姫ちゃんが無くしたと言った記憶の1部。それは俺が美姫ちゃんに2回目の想いを伝えた時のことです。その部分だけが消えていて。……俺からの告白は全部忘れられてしまっています……。1回目も、2回目も、忘れられて…」

「雅人……」

「ごめんなさい。悲しい感じになっちゃいました」

「良いんです。私が聞いたことなので。貴方も大変な想いをしたのですね」

「……今はもう想いを伝えようって考えは消えつつあります。一晩経てば忘れるから大丈夫っていう考えもありますけど、美姫ちゃんは俺を好きな人という目では見てくれない。もし元の世界に帰っても、俺は諦める予定です」


話せば話すほど自分の声の音色が沈んでいくのが丸わかりで逆に面白くなってくる。

巫女様は上半身だけゆっくりと体を上げた。


「巫女様、まだ体を起こすのはやめた方が…」

「雅人。貴方は帰りたいですか?」

「えっ?」

「元の世界に帰りたいですか?」

「それは……この世界も好きですけど、あっちの世界には自分の家族が居ます。それに美姫ちゃんだって」

「美姫のことは考えなくて良い。貴方が帰りたいと望むのであれば……」

「巫女様?」


俺の体が巫女様の腕の中に包まれる。

柔らかい感触が、巫女様の香りが、俺の全てを包み込むようだった。


「私と一緒に帰りましょう」


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