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1章 生徒との出会い
5話 強制的に指導者に…
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「変な黒い人間を倒したことは別にどうだっていい。俺は人を探しているんだ」
「人、ですか?」
「父上と母上。それに俺の使用人達を探している」
「まぁなんと古風な呼び方…。シンリンさんは名家ご出身?」
「名家以上だ。代々カムイ王都を統べていた者達の血が俺には流れている」
「…………?」
「どうした?」
「ごめんなさい。からかいは要らないの。カゲルを倒してくれたのには感謝しているけど、流石についていけないわ」
「からかってなどいない!」
俺は前のめりになってリコン学長の机を両手で叩く。しかしそれにビビることなくリコン学長は自分の膝の上で手を組んだ。
「…そう。それは失礼したわね」
「全くだ。それで?探してくれるのか?」
「情報が入り次第お知らせすることを約束します。ご両親のお名前は?」
「知らん」
「……へ?」
「あんた自分の親の名前も知らねぇのか!?流石に幼稚園生でもわかるぞ!?」
「何だそれは。知らんと言ったら知らん!カムイ王都の王家は最高地位に座ると同時に名前を捨てる。俺は生まれた時から父上と母上は最高地位に立っていた。だから知らん!」
口を軽く開けて驚いたようにする俺以外の3人は次第に呆れたような顔付きになった。でも俺はその表情の意味がわからない。首を傾げているとアサガイ委員長が俺の隣へやって来た。
「とりあえず捜索の話は置いといて……」
「何故だ?」
「私からシンリンさんと学長に提案があるんです。聞いてくれますか?」
「ええ。聞きましょう」
「……構わん」
「ありがとうございます。あの、シンリンさん。私達と一緒の討伐部隊に入りませんか?」
「は?何を言ってる?討伐ってあの黒い人間を?」
「そうです。貴方ほどの戦力があれば討伐もスムーズになるはず。そしてここからが私の我儘になるのですが……」
「勧誘だけでも十分な我儘だぜ?委員長」
「ふふっ。アサガイ、言ってみなさい」
「はい。シンリンさんには指導者として入って欲しいという我儘です」
「……俺が、指導者…?」
次に口を軽く開けるのは俺の方だった。指導者という言葉は勿論知っている。しかし生まれてこの方指導される側しか経験してない。
カムイ王都の将来の為の座学や武術、人との接し方などをそれぞれの教師に教えてもらっていたのだ。
そんな俺が指導者?隣に立つアサガイ委員長の目を見てみるけど、これは冗談で言っているわけじゃない。そんなアサガイ委員長の我儘を聞いたリコン学長は何度も深く頷いた。
「許可します」
「嘘だろ!?」
即答で答えたリコン学長に俺はより前のめりになる。それでもビビることなく微笑んでいるリコン学長に俺はなんだか恐怖を感じた。
「お、俺は指導なんて出来ない!そもそも父上と母上を探している最中だ!誰かを導く暇があったら探したいんだが!?」
「ここにいて生活した方がいち早く情報が入手出来ますよ?」
「そうかもしれないが俺は出来ない!」
「それではアサガイ、リンガネ。教室へ案内してあげなさい。討伐アカデミーの説明は任せました。私は手続きをしましょう」
「学長、ありがとうございます!」
「スゲェ!だからあの時委員長が遊ぶ機会があるって言ってたのか!」
「学長なら受け入れてくれると思っていたので」
「まて!まだ俺は…!」
「貴方達は私の、その、趣味を受け入れてくれてますからね…。それくらいの我儘は聞き入れますよ」
「流石学長!かっこいい~」
「だから俺は……」
リコン学長の机に手を置きながら左右にいるアサガイ委員長とリンガネにやりたくないという意思を伝えようとするけど盛り上がっている2人には通じない。
目の前に座るリコン学長は何故か顔を赤くして照れている様子だった。
「俺の、意見は…?」
「それではアカデミーの中を案内します。道中説明もしますので安心してください」
「あたしもついて行く!行こうぜ!」
「ちょっと待て!引っ張るな!」
リンガネに片腕を強く掴まれた俺は後ろに引っ張られてリコン学長からどんどん遠ざかっていく。誰にも助けを求められないこの状況で俺に味方はいなかった。
そのまま先程使った個室に押し込まれて、扉が閉められる。最後扉が閉まりきる前に見たリコン学長は笑いながら俺に手を振っていた。
「嘘だろ……」
「早くAクラスのみんなに紹介してぇな~」
「たぶん皆さん揃っていると思いますよ」
「ってことはこれからはシンリン先生って呼ばなきゃいけないのか…」
「そうですね。初めて私達Aクラスに担任が出来ます。敬意を込めて呼ばなければ」
「委員長は真面目だなぁ。軽く呼べば良いんだよ。センセーって」
「指導者は目上の存在です。それが例えコスプレイヤーの方でも」
「ハハッ、ディスってるのか敬意込めてるのかわからねぇ」
2人は楽しそうに話しているが、俺は捕えられたように真っ白になる。実際リンガネに捕らえられているのだが。
真面目そうなアサガイ委員長は提案者だから俺の敵。リンガネもそれに乗っかって騒いでいるから俺の敵。リコン学長は許可したから俺の敵。
そしたら俺の味方は?
……あの静かな男にかけるしかないな。
個室の扉が開くのを待つ俺の心の中にはこの建物からの脱獄計画会議が開かれていた。頼む、ハルサキ。俺を解放してくれ……。
「人、ですか?」
「父上と母上。それに俺の使用人達を探している」
「まぁなんと古風な呼び方…。シンリンさんは名家ご出身?」
「名家以上だ。代々カムイ王都を統べていた者達の血が俺には流れている」
「…………?」
「どうした?」
「ごめんなさい。からかいは要らないの。カゲルを倒してくれたのには感謝しているけど、流石についていけないわ」
「からかってなどいない!」
俺は前のめりになってリコン学長の机を両手で叩く。しかしそれにビビることなくリコン学長は自分の膝の上で手を組んだ。
「…そう。それは失礼したわね」
「全くだ。それで?探してくれるのか?」
「情報が入り次第お知らせすることを約束します。ご両親のお名前は?」
「知らん」
「……へ?」
「あんた自分の親の名前も知らねぇのか!?流石に幼稚園生でもわかるぞ!?」
「何だそれは。知らんと言ったら知らん!カムイ王都の王家は最高地位に座ると同時に名前を捨てる。俺は生まれた時から父上と母上は最高地位に立っていた。だから知らん!」
口を軽く開けて驚いたようにする俺以外の3人は次第に呆れたような顔付きになった。でも俺はその表情の意味がわからない。首を傾げているとアサガイ委員長が俺の隣へやって来た。
「とりあえず捜索の話は置いといて……」
「何故だ?」
「私からシンリンさんと学長に提案があるんです。聞いてくれますか?」
「ええ。聞きましょう」
「……構わん」
「ありがとうございます。あの、シンリンさん。私達と一緒の討伐部隊に入りませんか?」
「は?何を言ってる?討伐ってあの黒い人間を?」
「そうです。貴方ほどの戦力があれば討伐もスムーズになるはず。そしてここからが私の我儘になるのですが……」
「勧誘だけでも十分な我儘だぜ?委員長」
「ふふっ。アサガイ、言ってみなさい」
「はい。シンリンさんには指導者として入って欲しいという我儘です」
「……俺が、指導者…?」
次に口を軽く開けるのは俺の方だった。指導者という言葉は勿論知っている。しかし生まれてこの方指導される側しか経験してない。
カムイ王都の将来の為の座学や武術、人との接し方などをそれぞれの教師に教えてもらっていたのだ。
そんな俺が指導者?隣に立つアサガイ委員長の目を見てみるけど、これは冗談で言っているわけじゃない。そんなアサガイ委員長の我儘を聞いたリコン学長は何度も深く頷いた。
「許可します」
「嘘だろ!?」
即答で答えたリコン学長に俺はより前のめりになる。それでもビビることなく微笑んでいるリコン学長に俺はなんだか恐怖を感じた。
「お、俺は指導なんて出来ない!そもそも父上と母上を探している最中だ!誰かを導く暇があったら探したいんだが!?」
「ここにいて生活した方がいち早く情報が入手出来ますよ?」
「そうかもしれないが俺は出来ない!」
「それではアサガイ、リンガネ。教室へ案内してあげなさい。討伐アカデミーの説明は任せました。私は手続きをしましょう」
「学長、ありがとうございます!」
「スゲェ!だからあの時委員長が遊ぶ機会があるって言ってたのか!」
「学長なら受け入れてくれると思っていたので」
「まて!まだ俺は…!」
「貴方達は私の、その、趣味を受け入れてくれてますからね…。それくらいの我儘は聞き入れますよ」
「流石学長!かっこいい~」
「だから俺は……」
リコン学長の机に手を置きながら左右にいるアサガイ委員長とリンガネにやりたくないという意思を伝えようとするけど盛り上がっている2人には通じない。
目の前に座るリコン学長は何故か顔を赤くして照れている様子だった。
「俺の、意見は…?」
「それではアカデミーの中を案内します。道中説明もしますので安心してください」
「あたしもついて行く!行こうぜ!」
「ちょっと待て!引っ張るな!」
リンガネに片腕を強く掴まれた俺は後ろに引っ張られてリコン学長からどんどん遠ざかっていく。誰にも助けを求められないこの状況で俺に味方はいなかった。
そのまま先程使った個室に押し込まれて、扉が閉められる。最後扉が閉まりきる前に見たリコン学長は笑いながら俺に手を振っていた。
「嘘だろ……」
「早くAクラスのみんなに紹介してぇな~」
「たぶん皆さん揃っていると思いますよ」
「ってことはこれからはシンリン先生って呼ばなきゃいけないのか…」
「そうですね。初めて私達Aクラスに担任が出来ます。敬意を込めて呼ばなければ」
「委員長は真面目だなぁ。軽く呼べば良いんだよ。センセーって」
「指導者は目上の存在です。それが例えコスプレイヤーの方でも」
「ハハッ、ディスってるのか敬意込めてるのかわからねぇ」
2人は楽しそうに話しているが、俺は捕えられたように真っ白になる。実際リンガネに捕らえられているのだが。
真面目そうなアサガイ委員長は提案者だから俺の敵。リンガネもそれに乗っかって騒いでいるから俺の敵。リコン学長は許可したから俺の敵。
そしたら俺の味方は?
……あの静かな男にかけるしかないな。
個室の扉が開くのを待つ俺の心の中にはこの建物からの脱獄計画会議が開かれていた。頼む、ハルサキ。俺を解放してくれ……。
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