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3章 反社会政府編 〜後悔〜

31話 偽りない事実

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「とりあえず全員揃っているなら訓練室に行くぞ。今から任務の奴は?」

「先程確認して皆さん今のところ任務は入っていないようです」

「なら授業だ。俺は職員室に寄るから先に行っていてくれ」

「別に着いてこなくても良いっすよ」

「カナトの情報を全く知らないから聞きに行くだけだ」

「そうっすか」


俺は少し冷たい態度で話せばカナトは面白くなさそうな顔で唇を尖らせる。もう一度レオンの様子を確認すると強く握られていた拳は軽く開いていて怒りの頂点は過ぎたと見た。それに少し安心つつ俺は教室を出て行く。遅れてカナトも俺の後ろに着いてきた。


「シンリンさん怒ってます?」

「よくわからん」

「僕には怒っているように見えるので怒ってるっすね」

「そうか」


出会って10分の仲だけど俺はもうこいつを嫌いになりそうだ。カナト自身はヒマワリの穴埋めと宣言しているが、実際そうだとしても彼女の席を譲る気はさらさら無い。

俺とレオンに注意されながらも平然としているカナトは本当に掴みどころがない人間だ。俺の機嫌が斜めと言うこともあって職員室に着くまで向こうからは何も話してこなかったし、勿論俺からも話さなかった。

比較的Aクラスは職員室に近いので有難いなと軽い感謝をした俺は横開きの扉を開ける。


「センリはいるか?」

「ここにおるじゃよ」

ヌルッと机と机の間から出てきたセンリ。一体何をしていたのだろうか。俺の呼び声に応じたセンリは縮めていた背中を伸ばしながらこちらへやって来た。


「聞きたいことがある。でもその前にこいつの話が先だ」

「センリ先生、Aクラス用の机と椅子ってありますか?」

「カナトか。なるほど、シンリンの聞きたいこともこいつの件についてじゃな」

「ああ」

「とりあえずカナト。お前はKクラスで使っていた机と椅子を持ってくれば良いじゃろう。頭を使え頭を」

「シンリンさんが用意してくれるって言ってたっす。それに僕は時と場合によって色々と分けたい派なんすよね」

「贅沢言うな馬鹿者。運動ついでに持ってこい」

「相変わらずのトゲトゲっすねセンリ先生」

「こんなに優しい女性のどこがトゲじゃ?」

「ハハッ、そうですね。失礼しました」


カナトは伝える事を言うと職員室から出て行く。俺はその背中に「机は後にして訓練室へ行け」と投げかければ適当な返事が返ってきた。

それにしても一方的に謝って会話を終わらせればセンリの愚痴を聞かずに済むのか…。でも謝らなくても良い状況で俺がセンリに頭を下げるのは何だか癪だ。

性格が自己中なカナトにしか出来ない方法だろう。カナトが職員室の扉をしめて完全に居なくなった状態で俺はセンリに向き直った。


「で?話してくれ」

「お前スマホみたいな連絡手段持ってないじゃろ。だから報告が遅くなったんじゃよ」

「ということはカナトがAクラスに入るのは本当なんだな?」

「偽りない事実じゃよ」

「ヒマワリの穴埋め生徒ということか?」

「確かにそれもある。けれども1番の理由はカナト自身が元々在籍していたKクラスで上手く出来てなかったことが大きい」

「他のクラスでも良かっただろう。何故Aクラスにした?」

「Aクラスの生徒達の性格とカナトの性格の相性が他のクラスよりも良かったからじゃ。これはリコン学長の指示。従うしかあるまい」

「……はぁ、また面倒事が増えたな」

「あいつはまだ14歳じゃから面倒臭い性格のお年頃なんじゃよ。それにアカデミーにいる奴らの大半は面倒臭い人間しかおらん」

「センリもその1人だな」

「失礼!お前本当失礼!!」

「授業があるからここで終わりにしよう」

「ちょっと待たれよ!!説教してやるわい!!」


騒ぐ子供のように口を開き出したセンリを見て俺は颯爽とセンリの前から消えた。やはり一方的に終わらせる方法は良いな。何かと理由を考えなくてはいけない手間があるけど、長々と説教を聞かされるよりはマシだ。

悔しいけどこれからもセンリに関してはカナトの行動を採用してみよう。職員室から出ても少しだけセンリの怒鳴り声と、それを宥める座学の教師達の焦った声が聞こえた。

見知らぬ教師よ、あのババアの相手を頼んだぞ。俺は振り返る事なく授業を行う訓練室へと進んで行った。
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