【完結】異世界先生 〜異世界で死んだ和風皇子は日本で先生となり平和へと導きます〜

雪村

文字の大きさ
47 / 77
5章 反社会政府編 〜差し伸べる手〜

47話 君の名前は夏の華

しおりを挟む
「シンリン先生、大丈夫ですか?」

「問題ない」

「私の分のヨーグルトもどうぞ。…付き合わせちゃってすみません」

「俺が付き合わせたんだ。でもこれは遠慮なく頂こう」


テーブルの上にある料理達は全て俺とアサガイ委員長が平らげて空っぽの器になっていた。ただこれだけ食べると流石に舌も唇も炎を宿しているかのように熱くなってしまって、アサガイ委員長のアドバイス通り乳製品を食べる羽目になってしまう。

何でも辛い物を食べた後に乳製品を摂ると治るらしい。俺は自分の分として頼んだヨーグルトを平らげてアサガイ委員長の分のヨーグルトに口を付けた。


「それで?スッキリしたか?」

「はい。まさかアカデミーの激辛料理を1日で制覇出来る日が来るなんて思ってませんでした。シンリン先生ありがとうございます」

「良いんだ。俺も興味があったから」


あれだけ食べてもなお平然としているアサガイ委員長の舌の状態を疑ってしまうが、今は無視しておこう。また一口ヨーグルトを食べて辛みを抑える俺。そろそろ聞いても良いのだろうか。少し固めのヨーグルトが口の中で液状になり飲み込むと同時に俺はアサガイ委員長の目を見た。


「言いたくないのであれば言わなくても良い。でも俺はアサガイ委員長が深刻そうにしている理由の目星はある程度ついている。別に誰かにそれを話すことは一切ない。良ければ聞かせてくれないか?」

「………」


本題に移れば激辛料理によって温められた空気が冷え始める。簡単には口を開いてくれるはずなんてないのは最初からわかっていた。それでも俺は聞かなければならない。生徒の悩みを削るのであれば。


「私は、別に何も」


やっと小さな声で答えてくれたと思えば呆れてしまう返答。今は俺と2人なのに、それでも真面目面をするのか。

きっとアサガイ委員長の性格からして自分なんかの悩みに俺を付き合わせたくないなんて考えているのだ。普段は良い真面目さが現在は悪い面として出ている。俺は半分まで食べ進めたヨーグルトをテーブルに置いて自分の腕を組んだ。


「まぁ気持ちは分からなくない」

「え?」

「俺もカムイ王都に居た時、弱音なんて吐くことは出来なかった。涙や苦しみを見せるなんて皇子として恥ずかしい事だと教わったからだ。いずれカムイ王都の1番上の地位を継ぐ者として強くなくてはならなかった」


思い返せば甘えるなんてしたことなかったな。例え孤立したとしても上に立つ強さを求められ、常にカムイ王都の民に強い胸を貸してやれる威厳を求められ…。カムイ王都に居た頃の俺は無自覚に重い鎖を体に巻き付けていた。


「でも討伐アカデミーに来て、俺は初めてその鎖を手放したんだ。今思えばヒマワリの腕が千切れた瞬間が始まりではなかった。確かにその時に鎖が全て落ちたが……最初にアサガイ委員長に指導者になってほしいと言われた時、ゆっくりと鎖が剥がれていってくれたのだと思う」


きっとここに来なかったら、死ななかったら気付けなかった事実。カムイ王都に戻りたい気持ちが無いわけじゃない。

けれどもここに来て良かったという気持ちがあるのは偽りない本当の感情だ。それを聞いたアサガイ委員長は何とも言えない顔になって唇をキュッと強く結ぶ。


「何が言いたいのかって言うと、今は委員長としてのアサガイじゃなくてどこにでもいる普通のアサガイになれば良いんじゃないか?他の生徒達が居ないこの場では俺もアサガイ委員長とは呼ばないようにする」

「シンリン先生…」

「そういえばアサガイの下の名前は何だ?もしかして名がアサガイか?以前ヒマワリとレオンの姓名を聞いていて生徒達の姓名が気になっているところなんだ」

「私は、朝街夏華(あさがい なつか)です。夏の華と書きます」

「夏華。美しい名前だ」

「……不思議です。シンリン先生に自分の名前を呼ばれると心が温かくなります。あの人とは大違い」

「あの人…他のクラスの奴らか。3人のうち1人は妙にお前に対して突っかかっていたな」


カナトとハルサキが居た時、1人の男子生徒が呼んだ名前である夏華はアサガイの名前だったのか。

しかしAクラスでアサガイと姓で呼ばれているのにも関わらず下の名前で呼ぶと言うことは長い縁の持ち主と考えられる。それでも彼女は全く嬉しそうではない。寧ろそいつに名前を呼ばれるのが嫌なように見える。


「私はここに来る前にあの人に告白されたんです」

「ここに来る前と言ったらまだ子供の歳だろう。随分とませているのだな」

「まぁ、恋愛に興味を持ち始める年頃でもありますからね。私はそういうのに関心がなくてあの人からの告白を断ったんです」

「無理して恋人になる必要はないからな」

「はい。でも私が断ったことによってあの人から嫌がらせを受けるようになりました」


断られたからその腹いせなのか?全く理解できない思考だ。俺は生きている人生で1度も恋したことないからわからないけど、好きだからこそ大切にしたい気持ちが芽生えると思っている。

でもそいつは違ったらしい。悔しかったか、寂しかったかのどちらかだろう。


「付き纏いされたり、すれ違い様に体の一部を触られたり…。怖くてしょうがなかった」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

処理中です...