深愛なる君に。

高槻守

文字の大きさ
上 下
8 / 10

主題歌

しおりを挟む

『人を信じない。アンタも、他の奴も。』

『俺は君と一緒に居たい。絶対、離さない。俺だけを……信じてくれ。君を1人になんてしないから。』

『僕は…ッ!』

『儚い恋は月夜に照らされて。』
『5月3日夜9時スタート』

『『世界でたった一人、君だけを愛してる。』』


あれから数話撮り終えて、CMの収録が今終わったところだ。

朝日奈との関係はあんまり変わらない。
ドラマ撮影後にちょくちょく飯に誘われたりで連れ回されたくらいであまり恋人っぽい事は特にない。


有難いが、あまり連れ回されると色々大変だから辞めて欲しい。

高い店も朝日奈には辞めてくれと言ったらすぐ辞めてくれたので心持ちは楽なのだが何故かスッキリしない。

ただ、朝日奈相手だと胸が高鳴るのは美形過ぎる顔のせいだろう。

少し前にぶっちゃけ、これなら練習も要らなかった気がすると言ったらまた冷やかな目線を頂いてしまった。

……美形が怒るとめっちゃ怖い。怒らせるのやめよ…

なんて思った。だって、あの顔されると胃がキリキリするんだもんな。身体は大事にしないと。


「お疲れ様でした。日隠さん、初めてとは思えないくらい早く終わりましたね!」

聞いてた情報で多めに見積もっていたらしいスタッフが笑顔で駆け寄ってきたが、番宣自体の経験はゼロでは無いし今回は大分楽に出来た気がする。


「…前に見てましたから。それにしても、朝日奈は流石ですね。勉強になります。」

ドラマに出ない期が無い朝日奈は毎回主役級なので番宣経験やCMも多いからか楽にできた主な要因はソレだろう。

ニコニコしながらスタッフへの応対するアイツは信頼もされてるし実力もある。毎回、悔しいけど格の差を思い知らされる。


顔だけでなく、才能も本物。努力も惜しまない。

自分が若ければ相当嫉妬していたと思うけど30年も落ちこぼれていた日隠にとっては羨ましいとは思うが素直に尊敬してしまう。

「日隠さん、お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした。朝日奈はこの後仕事か?」

「撮影とラジオに明日朝イチ大阪で収録があって大分ヤバいですね…せっかく日隠さんと一緒の仕事の後なのに。」

素でこういう事を言ったりする朝日奈はタラシじゃないかと思ってしまう。

美形は発言も違うと言うことか。

「仕事貰えるうちが華だからな、無理しない程度にな。ちゃんと飯食えよ?」

朝日奈の憧れである結城さんは過労で倒れて亡くなったし、結城さんと朝日奈は似ている所がある。

昔は子供だったからわかんなかったけど、ここまで仲良くなった共演者がそんな事になれば耐えられない。

「母さんみたいな事言いますね…。それはこっちのセリフですけど。ちゃんと休んでます?」

目を逸らしていると、溜息を吐かれた。

「先週の予定は?」

……撮影以外はバイトだな……なんなら終わった後にも行ってる

「……身体は大事にして下さい。日隠さんもどうせこれから大変になるんですから。」

最近の朝日奈の口癖はこの仕事が僕らのアタリ役になる。という事で予想ではこれから先もっと忙しくなるらしいから、今のうちに休めと言われていた。

そんな感覚は微塵も無いからバイトも辞めてない日隠はそれを聞き流していた。

「ま、それはおいおいって事でね?ほら、急がないと間に合わないぞ。」
「……わかりました。また連絡しますね。」


朝日奈はそういうとバタバタと出ていった。
最近は朝日奈とチャットのやり取りを毎日するのが日課になった。

何食べた?とか他愛もない事だが共演者と仲良く出来るのは嬉しい事だ。そういう関係性が次の仕事を繋ぐ可能性もある。


そんな事を考えながら家に帰り、夜ご飯を食べつつテレビを見ているとあるニュースが目に入った。


予定では『儚恋』の主題歌を歌うはずの音楽バンドのボーカルが麻薬で捕まってしまったという衝撃的なものだった

『日隠さん、テレビ見ました?』
『見た。これ、大丈夫…じゃないよな?』
『ですね…グループの方もいっぱい来てます。』


ニュースを見た監督が大騒ぎしてるグループチャットを見ながら、頭を抱えた

どうなるんだよ…これ。
経験値が少ない日隠はまだしもこんな事は滅多に無いので朝日奈にも対応がどうなるかは未知数だった。

流れるグループチャットを見ていると夢原先生から電話が掛かってきて取ると思いもよらぬ相談をされた。


「夢原先生、お疲れ様です。ニュース見ました?これ大丈夫何でしょうか?」

心配しながら聞くと夢原はヘラヘラと笑いながらむしろ喜んでいるようにも聞こえて日隠は頭を傾げた。

『あー、それ、相談なんですけど…日隠さん、歌いません?主題歌。実は歌詞も既に作ってるんですよ。』


……はい?


「今なんと?」

僕の聞き間違いでなければドラマの大事な主題歌を落ちこぼれの僕に歌えと聞こえたんですけど。


『謙遜ですね。声優ならキャラソン歌うでしょう?その感覚でどうですか?』

「無理です!そもそも事務所通さないと分からないし、1人とか無理ですよ!」

『分かりました。事務所通すので待っててください。』

ブツリと電話が切れた数時間後、社長から電話の着信が来てしまった。

…取らなくても、わかる。

『という事で、主題歌は悠希も歌うから』

……?僕『も』?

『朝日奈と一緒にダブル主演で歌う形になるらしいよ。声質も合ってるし先方とも話は着いたよ。』

「わ、かりました…頑張ります。」


電話が切れるとチャットには夢原のドヤ顔と朝日奈の焦ったチャットで通知欄が埋まっていた。


有難いけど…そんな大事なものを声優とはいえ初心者に任せるなよ…夢原先生……

次の日から急遽普段の練習に歌の自主トレーニングが追加されたのは言うまでもない。





しおりを挟む

処理中です...