勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全

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第一章

第28話:第9馬上槍試合

 聖歴1216年4月5日:エドゥアル視点

「第9試合、選手入場」

 第1試合で想定外の大事件が引き起こされたので、予定が大幅に狂っている。
 普通なら大会が中止されるほどの大事件だったのだが、国王が俺に土下座して詫びたので、そのまま大会を続ける事になった。
 まあ、今の国王や国に、俺が続けろと言った大会を中止する事などできない。
 俺は馬上槍試合など中止してもいいのだが、娘に公爵位を譲りたいアキテーヌ公爵が継続を望んだのだ。

「真の勇者の弟子、アン様」

 いよいよ俺の本当の弟子、孤児院の子供が大闘技場に入城してきた。
 俺の事を心から恐れている新しい審判役が、俺の弟子に様をつけしている。
 第1試合の審判役は、凶行が行われた時に失禁脱糞していたようで、大恥をかいて大闘技場から逃げ出しているからな。
 代わりに審判役をさせられている者は、俺を怒らせたくないのだろう。

「デギュイヨン公爵家騎士団長ゴンザーガ」

 俺を恐れるあまりなのか、審判役が対戦相手を呼び捨てにした。
 公爵家で騎士団長を務めるのだから、最低でも騎士に叙任されている。
 平民の子供に様をつけているのに、騎士を呼び捨てにする。
 後で色々と問題になるだろうが、俺の知った事ではない。

 グッワッシャーン

 デギュイヨン公爵家騎士団長ゴンザーガがアンに吹き飛ばされた。
 正確には、アンを手助けしている慈母竜に吹き飛ばされたのだ。
 アンも訓練を頑張っていたが、10歳にも満たない幼い女の子が、とても重いランスを持てるわけがない。
 慈母竜が触手を使ってアンが持っているように見せかけているのだ。

「勝者、真の勇者の弟子、アン様」

 俺が悪質な違反をさせているように見えるが、これが正しい馬上槍試合なのだ。
 人馬一体という言葉があるように、竜と人が一緒になって戦うのは正義だ。
 人間を蔑み忌み嫌う竜を従える事ができるだけで、この世界で稀有な戦士なのだ。
 竜が手助けしてくれるのは、竜に愛される魅力という力がアンにあるからだ。
 それを証明するように、アンと慈母竜は抱き合って勝利をよろこんでいる。

「第9試合、選手入場」

 どんどんと馬上槍試合が続くが、まだ弟子同士の対戦はない。
 国中の名のある騎士や戦士が集まった大会には、512人が出場している。
 俺の弟子は2人の公爵令嬢を入れて32人が参加している。
 俺が対戦の組み合わせを決めたから、4回戦まで弟子同士が対戦する事はない。
 ベスト32になった5回戦から、弟子同士の潰し合いが始まってしまう。

「第17試合、選手入場」

「「「「「ウォオオオオオ」」」」」

 普段偉そうにしている騎士が、平民の子供にぶちのめされる所が見たいのだろう。
 大闘技場中から大歓声が沸き起こる。
 注意深く見ると真っ青になっている者がいる。
 俺の弟子ではなく、騎士に金を賭けた奴かもしれない。
 
「真の勇者の弟子、エマ様」

 2人目の弟子が入場してきたが、対戦相手が現れない。

「マントヴァ公爵家騎士団長シャルルは急病により参加辞退。
 不戦勝で、真の勇者の弟子、エマ様の勝ち」

「ひきょうもの、騎士ともあろう者が、平民の子供を恐れて逃げたのか?!」
「それでも騎士か、恥を知れ恥を」
「腰抜け騎士、マントヴァ公爵の恥知らず」
「かねかえせぇ、腰抜けのせいで破産だ」
「こんな賭けは無効だ、いかさまだ、国王の陰謀だ」

 大闘技場中が逃げだしたシャルルとマントヴァ公爵を非難している。
 大闘技場での賭けが成立しているのは、敗者が死ぬからだ。
 この馬上槍試合では実際に死ぬわけではないが、騎士として絶対に失えない名誉をなくし、貴族社会で死んだも同然なので、わざと負けないと信じられていたからだ。
 出場辞退で賭けが成立してしまえば、もう誰も賭けが公平だとは思わない。

 聖歴1216年4月6日:エドゥアル視点

「第128試合、選手入場」

 馬上槍試合の勝負は一瞬でつくのだが、それでも512人が参加する大会だ。
 1回戦だけで256試合も組まれている。
 初日にすべての1回戦を終わらせる事など不可能だ。
 まして出場辞退者続出して賭けが不成立になるような前代未聞の事件があったので、俺の組んだ試合日程が狂ってもしかたがない。

「「「「「ウォオオオオオ」」」」」
 
 会場中が俺の弟子たちの試合に負けないくらいの大歓声にわいている
 元勇者のガブリエルが現れたからだ。
 勇者のスキルと称号を失ったガブリエルが相手なら、孤児たちでも勝てると思うのだが、万が一の事を考えて4回戦まで当たらないように組み合わせた。
 1回戦2回戦3回戦と確認してから、弟子たちと戦わせるかどうかを決める。

「自称、勇者ガブリエル」

 俺が怖いのだろう、審判役がガブリエルの事を勇者とは認めない呼び方をした。
 勇者である事に異常なほど執着していたガブリエルが審判役をにらみつけている。
 その表情と眼つきは、今にも審判役に斬りつけそうなほどだ。
 審判役もそれが分かったのだろう、武器が届く範囲から逃げ出した。

「ヴァランティノワ公爵家騎士団長オノレ」

 この国でそれなりの勢力を持っているヴァランティノワ公爵家も、この馬上槍試合には代表を送りだしている。
 王家に従うにしても、敵対して領地を広げるにしても、名声があるないとでは使える手段がまったく違ってくる。
 
「両人とも卑怯なまねは絶対にしないように。
 騎士らしく誇りを持って正々堂々と戦うのだ、いいな」

 審判役がガブリエルとオノレの両人に注意するが、ガブリエルは未だに勇者だと認められなかった事を根に持っているのか、まだ審判役をにらみつけている。
 審判役を恨むよりも、対戦相手に集中する方がいいと思うのだが、根に持つ性格のガブリエルには何を言ってもムダだったことを思い出す。

「勇者である俺様を侮辱する奴は死にやがれ」

 俺はガブリエルが負けると思っていた。
 俺の見立てでは、ヴァランティノワ公爵家騎士団長オノレの方が強いはずだった。
 実際にオノレの槍の方が先にガブリエルの盾に届いていた。
 それなのに、ガブリエルは落馬する事なく自分の槍を突き出したのだ。
 しかも、対戦相手の身体を突きぬけて瞬殺したのだ。

「「「「「ウォオオオオオ」」」」」

 ガブリエルの非常識な勝ち方を見て、大闘技場中が再び大歓声につつまれた。
 負けると思っていたガブリエルが勝った事で、賭けが番狂わせになり、勝者と敗者が大声を出しているのも影響しているだろう。

「信じられない、あの切れ味はどうなっているのだ。
 エドゥアル、あの槍は何でできているのだ。
 あんな槍を相手にして、ペトロニーユは勝てるのか?」

 俺の弟子枠で最初にガブリエルと対戦するのは、アキテーヌ公爵ギヨームの次女であるペトロニーユだ。
 俺はアキテーヌ公爵の娘たちよりも孤児たちが大切なので、常識では測れない、神の加護があるかもしれないガブリエルとの対戦は、ペトロニーユが先になるのだ。
 
「今はまだ勝てるかどうか断言できない。
 だが、あの槍だけに関しては、それほど心配しなくてもいい。
 俺はミスリルもオリハルコンも持っている。
 オリハルコンの盾と鎧で護れば、あの槍に貫かれる事はない。
 オリハルコンの槍があれば、あの程度の盾は簡単に貫ける」

 まだ心配なようだが、ひとまずギヨームは黙った。
 そう、ガブリエルがあの槍と盾と鎧をそのまま使うなら、何の問題もない。
 心配なのは、今使っている以上の武器や防具を持っている場合だ。
 その可能性を完全に否定できない場合は、弟子たちは出場させない。
 馬上槍試合は出場を辞退させる。

「ギヨーム、そんなに心配ならば、アリエノールとペトロニーユは、もう十分勇気と強さを証明したから、4回戦以降は出場を辞退させればいい。
 2人が出場を辞退する前に、勇猛果敢で名声を得ていた連中が先に逃げている。
 3人もの有名な騎士を倒した後なら、4回戦を辞退しても公爵位は継げる」

「そうだな、もうこれ以上アリエノールとペトロニーユに無理をさせる必要はない。
 わかった、助言通り出場を辞退させよう」

 アリエノールとペトロニーユはそれでいい。
 問題は俺がどうするかだ。
 神がまた介入しているかもしれないガブリエルを優勝させるわけにはいかないのに、俺は試合に登録していない。
 こんな事なら俺も馬上槍試合に出場しておくべきだった。
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