上 下
17 / 34

16話

しおりを挟む
 とても困ったことになってしまいました。
 独身の騎士や騎士長全員が、私の騎士団への転属を希望したのです。
 将来の団長候補と目されていた有能な若手も全員です。
 幸いだったのが、ジョージを除く百騎長以上が全員妻帯者であった事と、騎士長の半数が壮年で妻帯者であったことです。
 そうでなかったら今頃どうなっていた事か……
 ジョージの顔つきが変わっています。

 単なる出世のためならいいのです。
 部屋住や牢人、冒険者にとっては、徒士に採用されるチャンスです。
 いえ、従士に大抜擢される可能性だってあります。
 現役従士には、一度に五百もの騎士位が新たにできるのです。
 このような機会は二度とないと思います。
 騎士も同じです。
 騎士長の席が五十席も新規で生まれるのです。

 ですが、目の前にいる者たちの顔は、単なる出世争いの顔ではないです。
 面はゆい事ですが、私を渇望しているように見えます。
 女性として喜ぶべき事なのかもしれませんが、今の私には戸惑いしかありません。
 ジョージが怖い顔をしているのも心配です。

「ガァアァアァアァアアア!」
「ガァアァアァアァアアア!」

 その場の空気が一変しました!
 戦場のような、いえ、私は戦場を知りませんから、たやすく戦場などと口にしてはいけませんね。
 実際に戦場に出て戦ってこられた方々に失礼すぎます。
 狩場の雰囲気です。
 亜竜を前にした時と同じ雰囲気です。

 アカだけが私の側を離れました。
 アオは私の側に残って護衛してくれています。
 アカが騎士団員や新規召し抱え希望者の間をのし歩きます。
 間といっても人間同士の間隔など狭いモノです。
 人間を押しのけで列を崩してのし歩いています。

「ガァアァアァアァアアア!」

 ああ、腰を抜かしてしまいました。
 でも仕方ないですね。
 頭をアカに咥えられたのです。
 そのまま喰い殺されると思って腰を抜かして当然です。
 あ、そう言う事ですか。

「ジョージ。
 アカが密偵だといっています。
 あの男は王太子が放った密偵のようです。
 捕まえてください。
 あ!
 動かないで!
 逃げたら喰い殺されますよ!」

「動くな!
 死にたくなければ動くんじゃない!
 亜竜種でも逃げられないのは知っているだろうが!
 動けば命の保証はないぞ!」

 危ないところでした。
 王太子の放った密偵以外にも、多くの密偵が入り込んでいるようです。
 残念な事ですが、マクリントック公爵家譜代家臣の中にも裏切者がいたようです。
 将来他家に召し抱えられることを条件に、部屋住が密偵役になっていました。
 哀しい話ですが、厳罰に処さなければいけません。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

妹に婚約者を寝取られた悪役令嬢の言い分

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1,577

浮気夫に平手打ち

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,239

処理中です...