上 下
4 / 6

3話

しおりを挟む
 コボルト族、ハーピー族、ヒヒ族は恐れおののいていた。
 麗鬼の言葉と鬼族の憤死は、まともな神経で耐えられるものではなかった。
 だが桃太郎は満面の笑みを浮かべて、死屍累々の城内を、血の海となった城内を探しまくり、鬼族の秘宝を探し出した。
 隠れ蓑、隠れ笠、打ち出の小槌、延命袋に金銀財宝。

 隠れ蓑と隠れ笠は、自分の姿を隠すことができるので、報復に現れるだろう龍鬼を返り討ちにするには、絶対に必要だった。
 使用者の願い通りの宝物を創り出す打ち出の小槌も、龍鬼を殺せるほどの武器を手に入れるのには絶対に必要だった。
 鬼族の長命を妬み羨んでいた桃太郎にとって、命を伸ばしてくれる延命袋もどうしても必要なモノだった。

 金銀財宝などはどうでもよかった。
 どれほど莫大な金銀財宝を得たとしても、龍鬼に殺されては意味がない。
 そもそも、金銀財宝の全てを三族に与えるという約束で、コボルト族、ハーピー族、ヒヒ族を味方につけたのだ。
 だから勝手に分け取りさせた。
 どちらかと言えば、争って殺しあってくれればいいのにとまで思っていた。

 この間に、薙子は深雪を抱えて逃げていた。
 桃太郎が殺人の欲望に満たされ、快楽に溺れている間に、逃げ出したのだ。
 鬼族を滅ぼしたら深雪を殺す。
 桃太郎なら間違いなくそうする。
 薙子はそう確信していたので、重症の深雪に負担がかかることを承知で逃げた。

 いや、薙子だけではなかった。
 コボルト族、ハーピー族、ヒヒ族の多くが後悔していた。
 麗鬼の遺言が瞬く間に大陸中に広まるのは確実だ。
 箝口令を敷いても、人の口に戸は立てられない。
 噂が広まれば、鬼族を滅ぼした四族は忌み嫌われ襲われる。
 三族は分ける金銀財宝の多寡にはこだわらなかった。
 一刻でも早くこの場から逃げ出そうとした。

 それは人族も同じだった。
 少なくない数の人族が、自分たちのしでかしたことを恥じた。
 だが今回の件の主犯は桃太郎であり人族だ。
 もう後戻りはできない。
 戦って戦って戦い抜いて、勝つしか方法がない。
 そう決意して、桃太郎についていこうとしていた。
 だが同時に、何時でも逃げ出せる準備を整える事も忘れなかった。

 桃太郎に騙され、遠く離れたリザードマン族と融和の話をしていた龍鬼のもとに、鬼族滅亡の話が届いたのは三十日後だった。
 最初その話を頑なに信じなかった龍鬼だが、第二報第三報が届くに至り、血の涙を流して慟哭した。
 その場にいたリザードマン達が見たのは、輝くような銀の髪が、どす黒い、まるで血のような暗赤色に染まっていく龍鬼の髪だった。
 いや、髪だけではない。
 銀色だった瞳が、これも地のような暗赤色に染まったのだ。

「俺は天に誓う!
 人族を絶対に許さない!
 必ず皆殺しにする!
 いや、人族だけではない!
 コボルト族、ハーピー族、ヒヒ族を族滅させる!」
しおりを挟む

処理中です...