立見家武芸帖

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徳川権大納言家基

第77話徳川家基11

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「おめでとうございます」

「「「「「おめでとうございます」」」」」

「ありがとう、今日はよく集まってくれた。
 今日はとても目出度い席だから、身分の上下を取り払い無礼講とする。
 大いに飲み喰いしてくれ」

 非常に不本意な話だが、我は西ノ丸様の武芸指南役となった。
 御老中と白河公が絵図を書き、上様が承認された事を、一介の武芸者が覆す事など不可能だった。

 だが、御老中と白河公は、我の気性も分かってくださっていた。
 我が武芸を極めたいと思っているのを尊重してくださった。
 有難い話である。

 我は西ノ丸様の剣術指南役となったが、毎日登城する必要はなかった。
 書院番や小姓組番と同じように、交代制で色々な役目につく。
 まあ、両番が七日勤務して一日非番なのに対しして、我は一日勤務して七日非番なのだが、その間は剣術の修行をしている事になっている。
 将軍家剣術指南役の小野家のようなものである。
 いや、御老中は幕府の医師制度に準じたと言われていた。

「徳川幕府の医師」
典薬頭:奥医師たちの上席
   :半井家・一五〇〇石高
   :今大路家・一二〇〇石高
奥医師:医業に優れた人が奥医師に選ばれ法印に叙された。
   :二〇〇俵高で役料も二〇〇俵
   :本丸だけではなく西ノ丸に置かれる
番医師:殿中で不時の病人や怪我人が出た時に診察し投薬する
   :禄高二〇〇俵以下の者には役料一〇〇俵が与えられる
寄合医師:家業の医術に熟達した者が選ばれ、平時は登城せず急病の時に備えた
    :持高で役料はなし
御広敷見廻り:番医師や寄合医師の中から選ばれる
小普請医師:幕府の医師だが、武家や町方で治療しながら修行中している。
     :小普請組の支配下で三〇人扶持を与えられている。
養生所医師:小石川養生所に常勤し、囚人を治療する医師

 我は寄合医師のような役割らしい。
 まあ、御老中や白河公が整えてくださった建前はどうでもいい。
 どうしても御城勤めをしなければいけないのなら、登城する日数は少なければ少ない方がいい。
 八日に一度なら我慢するしかない。

 まあ、西ノ丸様に武芸指南が八日に一度なので、相良田沼家、白河松平家、古河土井家の武芸指南も八日に一度になった。
 もっとも、我が好んで稽古する分は自由だ。
 だがこれで我を拘束する条件が少し緩くなった有難い。

 我が西ノ丸様に武芸指南役選ばれた事を、一族一門が祝ってくれている。
 何といっても、不浄役人と旗本御家人から蔑まれていた立見家から、次期将軍の武芸指南役が現れ、知行二百石の旗本に取立てられたのだ。
 武士を捨てた者も含め、一族一門が全て集まってくれている

 それほどの人数が集まれば、相良田沼家で貸し与えられている武家長屋では、少々手狭である。
 本家の南町奉行所同心の屋敷は、大半を長屋にしており、這い領地が百二十坪会っても実際に建っている屋敷はいたって小さい。
 普通なら船宿や料亭を借るのだが、無駄遣いが嫌いなので、幕府から拝領した屋敷で祝うことにした。

 二百石の旗本なので、拝領する屋敷は六百坪もあり、今迄の武家長屋や実家の同心家とは雲泥の差だった。
 問題は無礼講となった宴会の終わり時である。
 正直に勝手向きに余裕があるから、精一杯ももてなさなければいけない。
 困ったものである。

『立見藤七郎の扶持』
徳川家基武芸指南役 :二百石高
相良田沼家武芸指南役:三十人扶持(百五十俵)物頭格
白河松平家武芸指南役:三十人扶持(百五十俵)物頭格
古河土井家武芸指南役:十人扶持(五十俵)馬廻格

「立見藤七郎が貸し与えられている長屋の住人」
旗本屋敷    :六百坪(麹町近く)
相良田沼家上屋敷:立見藤七郎・浅吉・おいよ・子供六人
相良田沼家中屋敷:伊之助・熊吉
白河松平家上屋敷:立見銀次郎
古河土井家中屋敷:立見虎次郎
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