ドラゴン&ローグの異世界バディ物語

克全

文字の大きさ
9 / 30
第二章

第9話:辺境の村

しおりを挟む
「今度こそ、きれいな女がいてくれたらいいのになぁ」

 ローグが遠くに見えてきた村の防壁を見てまた何時もの言葉を吐いた。
 何処の村に行っても女漁りに熱心な奴だ。

「こんな辺境の村に、お前好みの女がいるとは限らないぞ」

 ローグは、口では色々言うが、ちゃんと自分なりのルールを持っている。
 手を出すのは、酒場の玄人女か寡婦だけだ。
 後で困るような素人娘に手を出した事は一度もない。

 徐々に近づいてくる村は、辺境によくある開拓村のようだ。
 猛獣が住む深い森を切り開いて造るので、太く丈夫で長い丸太を地面に突き刺して並べ、村を囲む防壁として使っている。

 今も門は厳しく閉められていて、外に番兵が立っていない。
 城門を開いて番兵を立てていられないくらい、猛獣被害が多いのだろう。
 外を見張るのは、門の内側に建てられた物見やぐらからだ。

「お前達はなにもんだ!?」

 村に近づくと、物見やぐらの上にいた番兵が誰何した。
 辺境の村とはいえ、言葉使いが悪すぎる。

 盗賊団の引き込みを警戒するのは当然だが、それにしても人相も態度も悪い。
 ガラの悪い奴でないと、危険な見張りなどできないのかもしれない。

 それにしても、俺も随分と変わったな。
 以前の俺なら、物見やぐらの上にいる人間の姿を見る事はできなかった。
 だが今の俺なら、ほくろの数まで正確に数えられる。

「旅の吟遊詩人コンビだ」

 ローグが答えてくれる。
 いつの間にかできた俺とローグの役割分担だ。

「はん、こんな貧乏村に、吟遊詩人に金を払う余裕などねぇよ!」

 この村に全く愛着がないような言い方だな。

「いえ、いえ、辺境の村で金儲けしようなんて思っていないですよ。
 領主様の宴に招待されて喝采を浴び、持ちきれないほど褒美を頂きました。
 ここまで来れば領主様の耳にも入らないと思うので、羽目を外そうと思っていたのですが、残念です」

 ローグが何時もの不遜な態度を隠している。
 揶揄うような話し方も完全に隠している。
 嫌だ、嫌だ、できる事なら、もっと静かに暮らしたい。

「こぅっら!
 見張りの分際で、何勝手な事言ってやがる!
 家の村は全ての旅人を親切に迎える仕来りだろうがぁ!
 さっさと城門を開けて入っていただけぇや!」

 そんな濁声で怒声をあげておいて、よく親切な村と言えるな。

「へぇい!
 申し訳ありません!
 ですがぁ、二人とも剣を持っていますが、よろしいんですか?」

 辺境の村が旅人の武装を気にするのは当然だ。
 そいつが引き込みだと、深夜に城門を開けて盗賊団を招き入れる。
 
 だが、旅人も村人の態度には凄く敏感なのだ。
 村ぐるみで旅人を殺して持ち物を奪う事がある。
 中には全ての旅人を奴隷にするような村まであるのだ。

「俺様が言っているんだぞ、良いに決まっているだろうがぁ!
 さっさと門を開けやがれぇや!」

 もう少しくらい演技するべきだろう。
 これでは自分達が盗賊だと大声で言触らしているのと同じだぞ。
 頭が悪すぎるのか、もう逃がさない自信が有るのか?

 ギィイイイイイ!

 この村の門は外側に観音開きになるように造られていた。
 最近は手入れを怠っていたのだろう。
 耳障りな音を立てて外側に開かれていく。

「ギャッハハハハハ。
 もう逃がさねぇぞ!
 ブチ殺して有り金全部奪ってやる!」

 門が完全に開き切る前から、中にいる連中の姿が見えていた。
 いかにも山賊という服装の連中が待ち構えている。
 いや、逃げようとする俺達を追いかけて殺す気なのだろう。

「うっしゃあ、これでまた賞金が稼げるぜ!」

 さっきまで隠していたローグの不遜な態度が戻っている。
 言葉使いも何時もの人を挑発するような口調だ。

「少しでも多く稼ぎたいのなら、無暗に殺すなよ」

 念のために注意しておく。

「分かっているよ、誇り高き自由騎士ドラゴンさん」

「余計な事を言っていていいのか?
 向こうは本気で殺しにかかってくるぞ」

「望む所だぜ。
 最近暴れていなかったから、腕がなるぜ!」

 ローグの本心は分かっている。
 俺とは全く基準が違うが、ローグなりの義憤があり、仁義は通す男だ。
 誰に言われても決して認めない、むしろムキになって悪ぶる子供っぽい奴だ。

「バカが、この期に及んでまだ騙されたのに気がついていないのか。
 者共、ぶち殺してこい!」

「「「「「おう!」」」」」

「全員麻痺させるから、ローグは縛ってくれ。
 善良な村人を苦しめる悪人に耐え難い全員の痛みと麻痺を与えたくれ。
 フルボディ・ペイン・ ナァンナァス」

 俺は一切の手心を加えずに魔術を放った。
 これで盗賊だけでなく、盗賊に味方していた村人にも罰を与えられる。
 表向き村人側についていたとしてもだ。

「おい、おい、おい、少しは俺の出番も残しておいてくれよ」

「ローグには村人との交渉を任せる。
 俺の感覚がこの世界とずれているのは嫌というほど味わった」

「だったら縄で縛るのはドラゴンがやってくれよ」

「俺は村周りで薬草を集めてくる。
 結構な数の薬を分け与える事になりそうだからな」

 無暗に正義感が強い俺は、盗賊連中を殺さずに我慢するのが難しい。
 特に女子供の涙を見てしまうと、無意識に魔力が漏れてしまうかもしれない。

 良くも悪くも、修羅場を掻い潜った数が多いローグの方が冷静に考え動ける。
 村を立て直し、女子供のこれからの生活を成り立たせるのは、俺の正義感ではなくローグの現実的で冷静な対処法だ。

「分かったよ、しゃあねぇなぁ。
 異世界育ちのドラゴンに、この世界で生きる者の強さは分からんからな。
 後の事は任せて薬草を頼む。
 ああ、この村の連中がこいつらを半殺しにしても怒るなよ。
 売る時には治してやってくれ。
 ケガをしていると値段が下がるからな」

「分かっているよ。
 そういう魔力なら惜しんだりしない」

 イライラして勝手に魔力がもれる前にここから離れよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...