32 / 45
第一章
第32話:準備
しおりを挟む
「カーツ様、やりました、大成功です、カーツ様。
レッド・ビッグ・マジシャン・モスの繭から私の魔力あった糸がつむげました。
ビッグ・マジシャン・スパイダーの糸袋からつむいだ糸もよく染まりました」
義姉さんがとてもうれしそうに報告してくれる。
1カ月かけた研究の成果なのだから、それも当然だろう。
本当なら魔宝石に溜めなければいけない魔力を使って研究しているのだ。
義姉さん性格だと、なんの成果もあげられなかったら気に病んでしまう。
全ての責任は、成功できるか分からない、無茶な事を頼んだ俺にあるのにだ。
「よく発見してくれましたね、義姉さん。
義姉さんのお陰で魔族が攻め込んできても安心できます。
これまで以上の負担をかけてしまうでしょうが、魔法陣の刺繍をお願いします」
だからこそ、成功した時には思いっきり褒めてあげないといけない。
義姉さんにデレデレされるのは困るのだが、こういう時は特別だ。
頭を撫でてあげて、ハグもしてあげる。
抱きしめたと誤解さてはいけないから、力加減にはとても気をつかう。
それに周りに人がいない時には絶対にしない。
今日も家族がそろっているから特別にやったのだ。
「うれしです、カーツ様。
カーツ様は魔族対策だと言ってくれていますが、本当は私の事を心配してやってくれたことだと分かっています。
魔族と戦わなければいけない私のために、防御力を高めてくれたのですよね。
自分の評判を下げる事になっても、強制的に魔核を集めてくださいました。
すべて私の安全のためですよね、分かっています。
カーツ様のお優しさは、小さい頃から身に染みて理解しております」
義姉さんは半泣きでそう言うと、思いっきり抱きしめかえしてくる。
それではハグにならないではないか。
イザベルさんに目を向けて助けを求めたが、にこにこと笑っているだけだ。
メイソンはなにをしていいのか分からないようで、オロオロしている。
アーロやローラに至っては、羨ましそうな表情を浮かべている。
「分かった、分かったから離れてくれ、義姉さん。
この歳になって義姉さんに抱きしめられるのは恥ずかしすぎます」
「嫌です、絶対に嫌です。
カーツ様が抱きしめてくださる機会など、もうないかもしれません。
絶対に放しませんからね」
俺も愛情のこもった抱擁を無理矢理振りほどけるほど薄情ではない。
それに、振りほどこうとしたとしても、身体強化まで覚えている中級魔術師の義姉さんを、魔術師ではない俺が振りほどけるはずもない。
だからと言って、徐々に本気で泣き出す義姉さんに、いつまでも家族の前で抱きつかれているのは恥ずかし過ぎる、これではまるで拷問ではないか。
「伯爵、マティルダはこのまま抱きつかせてやってください。
伯爵に喜んでいただこうと、寝る間も惜しんで実験を繰り返していたのです。
それよりも今後の事を家族で話し合わせてください」
「家族で話し合うというのなら、伯爵ではなくカーツと呼んでください」
「ではカーツ殿、魔石から魔宝石や魔晶石に魔力の移し替えられたという事ですが、本当に魔族が攻め寄せてくるのですか」
イザベルさんの言葉に、メイソンたちが真剣な表情になった。
幼い子たちは正確な意味を分かっていないだろうが、雰囲気を感じているのだ。
義姉さんは相変わらず泣きながら抱きついている。
でもこの件に関しては俺も断言する事などできない。
俺が行動を起こしたのは、単なる勘、不安でしかなかったのだから。
「それに関しては私の勘、不安から対応していただいています。
証拠や情報があるわけではないので、あまり心配しなくてもいいと思います。
ただ万が一の時に義姉さんに危険が及ばないように、余裕がある範囲で備えているだけですから、安心されてください」
「だから魔力回復薬をマティルダに使わせていないのですね。
情報や証拠があるのなら、魔力回復薬を使ってでも魔力を蓄えますものね」
確かに、本当に必要なら、魔力回復薬を義姉さんに使ってもらっている。
色々な効果の魔力回復薬があるが、どれも安全だと言われている。
身体を悪くする事は絶対にないと言われている。
常習性もなければ禁断症状もないと言われている。
だが俺は、不必要に薬を服用するのは嫌なのだ。
自分の事ならともなく、義姉さんに服用させるのは絶対に嫌なのだ。
「ええ、そうですね、どうしても必要ならそうしています。
ですがあくまでも私の不安から来た勘だけでやっている事です。
無理をする事もなければ、必要以上に不安を感じる事もありません」
「そうですね、だったら子供たちにも不安がらないようにしましょう」
そう言いながら、イザベルさんは意味ありげな視線を向けてくる。
小さい頃の俺が、どこからともなく表れて、口や手を出さない方法で、義姉さんやメイソンを虐める連中を、コテンパンに言い負かした事を言いたいのだろう。
だがそれは別に特別勘がよかったからできたわけではない。
前世の頃の経験、日本人独特の人の心を読んで生活する習慣があったからだ。
「イザベラさんには義姉さんが無理をしないように見てあげて欲しいのです」
「分かりました、気をつけておきますね」
その後も細々とした事を話し合った。
特にエドワーズ子爵代理を務めてくれるメイソンと話し合った。
無理をしていないか、疑問に思ったことはないか確かめた。
義理とはいえ兄弟で、俺は同母弟妹と別れて暮らすようになったから、今一番身近な家族と言える存在だ。
ささいな誤解や行き違いで、争う関係になるわけにはいかない。
そんな話をしている間に、俺に抱きついていた義姉さんが寝てしまった。
泣きつかれて寝てしまったのか、安心して寝てしまったのか。
義弟としては安心できたから眠ったと思いたいな。
熟睡した義姉さんをイザベラさんに任せた。
魔糸の研究で寝不足になっていたのだろう、ごめんな義姉さん。
役割を押し付けた俺の責任だから、俺も睡眠時間を削って政務に励むべきだ。
★★★★★★
「カーツ様、私が強くなる方法を隠していますね。
私に危険があると考えて、研究すらさせない気ですね。
そのような気遣いは無用です、カーツ様が寝る間も惜しんで領民のために働いておられるのに、私だけが安穏と生活していられません。
どうか私にもすべてを教えてください。
私にカーツ様の背負われた重荷の一部でも肩代わりさせてください」
誰にもなにも話していないのに、どうやって気が付いたのだろう。
「私はずっとカーツ様を見てきました。
憧れと尊敬と愛情を持って見続けてきたのです。
カーツ様が何を考えておられるかくらいわかります。
どうか私にすべて教えてください。
教えてくださらないのなら、魔力回復薬を飲み続けて魔力を蓄えますよ」
本気、だな、困った事に、こうなった義姉さんには法も論も通じない。
できるだけ危険が少ないと思われる方法から小出しにするしかないか。
レッド・ビッグ・マジシャン・モスの繭から私の魔力あった糸がつむげました。
ビッグ・マジシャン・スパイダーの糸袋からつむいだ糸もよく染まりました」
義姉さんがとてもうれしそうに報告してくれる。
1カ月かけた研究の成果なのだから、それも当然だろう。
本当なら魔宝石に溜めなければいけない魔力を使って研究しているのだ。
義姉さん性格だと、なんの成果もあげられなかったら気に病んでしまう。
全ての責任は、成功できるか分からない、無茶な事を頼んだ俺にあるのにだ。
「よく発見してくれましたね、義姉さん。
義姉さんのお陰で魔族が攻め込んできても安心できます。
これまで以上の負担をかけてしまうでしょうが、魔法陣の刺繍をお願いします」
だからこそ、成功した時には思いっきり褒めてあげないといけない。
義姉さんにデレデレされるのは困るのだが、こういう時は特別だ。
頭を撫でてあげて、ハグもしてあげる。
抱きしめたと誤解さてはいけないから、力加減にはとても気をつかう。
それに周りに人がいない時には絶対にしない。
今日も家族がそろっているから特別にやったのだ。
「うれしです、カーツ様。
カーツ様は魔族対策だと言ってくれていますが、本当は私の事を心配してやってくれたことだと分かっています。
魔族と戦わなければいけない私のために、防御力を高めてくれたのですよね。
自分の評判を下げる事になっても、強制的に魔核を集めてくださいました。
すべて私の安全のためですよね、分かっています。
カーツ様のお優しさは、小さい頃から身に染みて理解しております」
義姉さんは半泣きでそう言うと、思いっきり抱きしめかえしてくる。
それではハグにならないではないか。
イザベルさんに目を向けて助けを求めたが、にこにこと笑っているだけだ。
メイソンはなにをしていいのか分からないようで、オロオロしている。
アーロやローラに至っては、羨ましそうな表情を浮かべている。
「分かった、分かったから離れてくれ、義姉さん。
この歳になって義姉さんに抱きしめられるのは恥ずかしすぎます」
「嫌です、絶対に嫌です。
カーツ様が抱きしめてくださる機会など、もうないかもしれません。
絶対に放しませんからね」
俺も愛情のこもった抱擁を無理矢理振りほどけるほど薄情ではない。
それに、振りほどこうとしたとしても、身体強化まで覚えている中級魔術師の義姉さんを、魔術師ではない俺が振りほどけるはずもない。
だからと言って、徐々に本気で泣き出す義姉さんに、いつまでも家族の前で抱きつかれているのは恥ずかし過ぎる、これではまるで拷問ではないか。
「伯爵、マティルダはこのまま抱きつかせてやってください。
伯爵に喜んでいただこうと、寝る間も惜しんで実験を繰り返していたのです。
それよりも今後の事を家族で話し合わせてください」
「家族で話し合うというのなら、伯爵ではなくカーツと呼んでください」
「ではカーツ殿、魔石から魔宝石や魔晶石に魔力の移し替えられたという事ですが、本当に魔族が攻め寄せてくるのですか」
イザベルさんの言葉に、メイソンたちが真剣な表情になった。
幼い子たちは正確な意味を分かっていないだろうが、雰囲気を感じているのだ。
義姉さんは相変わらず泣きながら抱きついている。
でもこの件に関しては俺も断言する事などできない。
俺が行動を起こしたのは、単なる勘、不安でしかなかったのだから。
「それに関しては私の勘、不安から対応していただいています。
証拠や情報があるわけではないので、あまり心配しなくてもいいと思います。
ただ万が一の時に義姉さんに危険が及ばないように、余裕がある範囲で備えているだけですから、安心されてください」
「だから魔力回復薬をマティルダに使わせていないのですね。
情報や証拠があるのなら、魔力回復薬を使ってでも魔力を蓄えますものね」
確かに、本当に必要なら、魔力回復薬を義姉さんに使ってもらっている。
色々な効果の魔力回復薬があるが、どれも安全だと言われている。
身体を悪くする事は絶対にないと言われている。
常習性もなければ禁断症状もないと言われている。
だが俺は、不必要に薬を服用するのは嫌なのだ。
自分の事ならともなく、義姉さんに服用させるのは絶対に嫌なのだ。
「ええ、そうですね、どうしても必要ならそうしています。
ですがあくまでも私の不安から来た勘だけでやっている事です。
無理をする事もなければ、必要以上に不安を感じる事もありません」
「そうですね、だったら子供たちにも不安がらないようにしましょう」
そう言いながら、イザベルさんは意味ありげな視線を向けてくる。
小さい頃の俺が、どこからともなく表れて、口や手を出さない方法で、義姉さんやメイソンを虐める連中を、コテンパンに言い負かした事を言いたいのだろう。
だがそれは別に特別勘がよかったからできたわけではない。
前世の頃の経験、日本人独特の人の心を読んで生活する習慣があったからだ。
「イザベラさんには義姉さんが無理をしないように見てあげて欲しいのです」
「分かりました、気をつけておきますね」
その後も細々とした事を話し合った。
特にエドワーズ子爵代理を務めてくれるメイソンと話し合った。
無理をしていないか、疑問に思ったことはないか確かめた。
義理とはいえ兄弟で、俺は同母弟妹と別れて暮らすようになったから、今一番身近な家族と言える存在だ。
ささいな誤解や行き違いで、争う関係になるわけにはいかない。
そんな話をしている間に、俺に抱きついていた義姉さんが寝てしまった。
泣きつかれて寝てしまったのか、安心して寝てしまったのか。
義弟としては安心できたから眠ったと思いたいな。
熟睡した義姉さんをイザベラさんに任せた。
魔糸の研究で寝不足になっていたのだろう、ごめんな義姉さん。
役割を押し付けた俺の責任だから、俺も睡眠時間を削って政務に励むべきだ。
★★★★★★
「カーツ様、私が強くなる方法を隠していますね。
私に危険があると考えて、研究すらさせない気ですね。
そのような気遣いは無用です、カーツ様が寝る間も惜しんで領民のために働いておられるのに、私だけが安穏と生活していられません。
どうか私にもすべてを教えてください。
私にカーツ様の背負われた重荷の一部でも肩代わりさせてください」
誰にもなにも話していないのに、どうやって気が付いたのだろう。
「私はずっとカーツ様を見てきました。
憧れと尊敬と愛情を持って見続けてきたのです。
カーツ様が何を考えておられるかくらいわかります。
どうか私にすべて教えてください。
教えてくださらないのなら、魔力回復薬を飲み続けて魔力を蓄えますよ」
本気、だな、困った事に、こうなった義姉さんには法も論も通じない。
できるだけ危険が少ないと思われる方法から小出しにするしかないか。
31
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活
アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。
妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。
貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。
しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。
小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。
【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~
九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】
【HOTランキング1位獲得!】
とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。
花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?
1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました
竹桜
ファンタジー
誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。
その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。
男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。
自らの憧れを叶える為に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる