華国後宮物語

第一章

第4話：真実

　皇帝陛下の命で父上が裁きの場に連れてこられました。
　ですが母上や弟妹は呼び出されませんでした。
　この状況なら姜謝公台様も家族に手を出せません。
　そんな事をすれば皇帝陛下の逆鱗に触れてしまいます。
　第一皇子に軍を動員して姜謝公台様を討ち取る大義名分を与えてしまいます。
　ここは誰もが事の成り行きを見守るしかありません。

「姚袁燿、真実を話せ。
　姚袁微は誰の娘だ」

「御答えさせていただきます皇帝陛下。
　姚袁微は姚孫子高殿の家に生まれましたが、今は私の娘でございます」

「それは姚孫武の娘を養女にもらったという事であろう」

「そうみる方もおられるでしょうが、正確には平民に落とされ姚孫家を追放された可哀想な娘を、私が養女にしたのでございます」

　父上は皇帝陛下の詰問に恐れることなく堂々と答えられます。
　それにしても全て初めて聞く話です。
　私はずっと父上の実子だと思っていました。
　それが養女だったとは青天の霹靂です。
　しかも実の父は左中書令の姚孫子高様だというのですから。

「言い逃れを聞く耳はない。
　仲徳はこれでも姚袁燿と姚孫武を庇うのか」

「皇帝陛下、私は姚袁燿も姚孫武も庇う気はありません。
　私が気にしているのはひとえに皇帝陛下の仁道だけでございます。
　弱者婦女子に仁道を示され、後世に悪評を残す事のないようにと思っております。
　ただ、何故姚孫子高殿が娘を平民に落として家を追放したのかは気になります」

　仲徳殿下は私や母、妹達を助けてくださる気です。
　父上や姚孫子高様、弟達は厳罰処分にされてしまうのでしょうね。

「ふむ、外戚排除の根本法を破ったのは明白、今更理由など聞く必要があるのか」

「皇帝陛下が全てをお聞きになった上で、情状酌量の余地なしと処分を決められる。
　仁道を大切になされた建国皇帝陛下の後継者として正しい行いだと愚行致します」

「ふむ、仕方がないな、理由を申せ、姚袁燿」

「理由は悋気でございます。
　微は姚孫子高殿が嬪に四女として生ませた娘でございます。
　ところが夫人がそれに嫉妬し、嬪と微を殺そうとしました。
　嬪は微を庇って殺されてしまいました。
　姚孫子高殿は夫人に「微は殺すよりも平民に落とした方が苦しむ」と言って捨てましたが、流石に自分の行いを恥じたのでしょう。
　私の養女にして欲しいと言ってまいりました。
　私は微を庇って死んだ母の心を哀れとも天晴とも想い、実子にする事にしました」

　父の態度は武人らしく堂々とした立派なものです。
　太和殿の雰囲気も一気に変わりました。　
　父上と姚孫子高様を非難する雰囲気から、父上を称え姚孫子高様を蔑む雰囲気になっています。

　特に皇帝陛下の目つきが柔らかくなっています。
　ですが油断はできません。
　本当はまだ猜疑心を持っているかもしれません。
　後宮に入る時に父上からも母上からも強く言われています。
　皇族の言葉や態度に騙されてはいけないと。

「仲徳、そなたはどう思う」