嫌われ伯爵令嬢の生涯

克全

文字の大きさ
3 / 19

2話

しおりを挟む
「セオドア!
 ダーシィ!
 お前達に親の資格はない。
 オリビアの親権を剥奪する!」

「それは横暴過ぎます、父上」
「そうですわ、義父上。
 オリビアは私が腹を痛めて生んだ子です」

「だったら何故虐待する。
 私が何も気づいていない愚か者だとでも思っていたか!」

「そ、そ、そんなことはありません。
 父上を愚か者だなんて、一瞬たりとも思ったことはありません!」
「そうですわ、義父上。
 これは誰かの讒言でございます。
 子を産めない石女の妬みによる讒言です!」

「黙れ腐れ女!
 それ以上腐った口を開けば、一族の当主として幽閉するぞ!」

 お爺様の怒りは激烈で本気でした。
 愚かな父も、極悪非道の母も、口もきけなくなるほどの気魄でした。
 性根が卑怯で憶病な父は、ガタガタと震えています。
 でも母は、蛇のように冷たく残虐な眼でお爺様を睨んでいます。
 お爺様に害が及ばなければいいのですが……

「オリビアに対する虐待は明らかだ。
 医師も診断書を出してくれた。
 文句はないな?」

「……はい」

 お爺様に言われて、父は小さく返事しました。
 もい逆らう勇気も気力もないでしょう。
 ですが母は……

「それは躾です。
 親が子供を躾するのは当然の事です。
 一族の当主であろうと、義父上に口出しされる覚えはありません。
 そですね、貴男?!」

「くっくっくっくっ。
 お前のような腐れ外道なら、そう言うと思っていたよ。
 入っていただけますか、ご典医メリッサ殿」

「はい、モンタギュー公爵様」

 父と母が驚いています。
 父などはこの世の終わりのような顔をしています。
 もう貴族としての人生が終わった事が分かったのでしょう。
 でも、母は、いえ、ダーシィは、この期に及んでまだお爺様を睨みつけています。
 ご典医のメリッサ殿を睨んでいます。

「国王陛下と貴族院への証明書を出していただけますね?」

「はい、今の発言。
 躾として自らやったという証言と共に、エミリーという者が詳細に記録した日記を添えて、国王陛下と貴族院に提出させていただきます」

 これで父と母の貴族としての人生は終わりました。
 お爺様の跡を継いで、公爵になるという野心も潰えます。
 それどころか、伯爵の爵位すら奪われるかもしれません。
 もともとマクリント伯爵位はモンタギュー公爵家の従属爵位です。
 お爺様と伯父様の好意で貸し与えられていただけです。

 それなのに、ダーシィはジュリア伯母様を虐め続けました。
 その言動は、私から見ても目に余るものがありました。
 それが許されてきたのは、伯父様と伯母様に御子がなく、モンタギュー公爵家の跡継ぎになるべき子供を生んだのが、ダーシィだけだったからです。

 でも私が伯父様と伯母様と養子になれば、全ては変わります。
 状況が天と地ほど入れ替わるのです。
 もう父と母、いえ、セオドアとダーシィの逆転の眼はありません。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

【完結】ロザリンダ嬢の憂鬱~手紙も来ない 婚約者 vs シスコン 熾烈な争い

buchi
恋愛
後ろ盾となる両親の死後、婚約者が冷たい……ロザリンダは婚約者の王太子殿下フィリップの変容に悩んでいた。手紙もプレゼントも来ない上、夜会に出れば、他の令嬢たちに取り囲まれている。弟からはもう、婚約など止めてはどうかと助言され…… 視点が話ごとに変わります。タイトルに誰の視点なのか入っています(入ってない場合もある)。話ごとの文字数が違うのは、場面が変わるから(言い訳)

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...