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9話

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「殺しますか?
 殺すなら手伝いますよ」

 あまりの事に、怒りで頭が沸騰してしまっています。
 最初は信じられませんでした。
 ですが、ティシュトリヤに閉鎖空間を作ってもらって、この目で確かめた以上、認めなければなりません。
 王太子が村の娘たちを嬲り者にしているのを!

 しかもただの嬲り方ではありません。
 恋人や夫の前で最初に自分が嬲り者にして、自分の欲望を満たした後で、兵士たちに輪姦させて、それを見て下劣な欲望を満たしているのです。
 なにも考えず、斬り込んで皆殺しにしてやりたかった。
 でも、私には実家があります。
 ここで王太子を殺せば、フェルナンデス公爵家が取り潰されてしまいます。

 父上が抵抗すれば王家との戦争になるでしょう。
 そんなことになったら、今目の前にあるような事が、フェルナンデス公爵家領のあちらこちらで起こることになります。
 いえ、フェルナンデス公爵家が攻め込んだ場所でも起こるでしょう。
 父上はそんな事はしないと信じたいですが、全ての兵士を父上が監視する事など不可能です。

「そんな心配はいりませんよ。
 マリーア嬢の姿を消してあげましょう。
 姿が見えなければ、誰がやったか分からないですよ」

 確かにその通りです。
 ですが、王太子たちは私を探しに来たのです。
 その途中で殺されたとなったら、私が疑われるのは当然です。
 いえ、フェルナンデス公爵家に難癖をつけるために、私が王太子を殺したという噂を広めて、私が殺したことにしてしまうかもしれません。

「大丈夫ですよ。
 いくらでも方法はありますよ。
 私に任せてください。
 それに、そもそもマリーア嬢は何のために家を出たんですか?」

 そう、でした!
 私は自分の手で世の中をよくしたくて家を出たんです。
 ここで王太子の凶行を見逃しては何の意味もなくなります。

 私は、ティシュトリヤの力を借りて王太子と側近と兵士を殺しました。
 中にはそれなりに強い騎士もいましたが、私の姿が全く見えないので戦いようがなかったのです。
 恐怖から、めったやたらに、無茶苦茶剣を振り回す相手には困りましたが、そんな奴は疲れるまで後回しにすれば、勝手に剣を持ち上げられないくらい疲れてくれますから、それから殺しました。

 後はティシュトリヤとインキタトゥスが相談してやってくれました。
 私を探して各地を回っている王太子軍に、王太子たちが国境の大山賊団に誘拐されたという噂を流したのです。
 それを信じた王太子軍が大山賊団の根城を包囲したのに合わせて、私が殺した王太子たちの遺体を、大山賊団の根城に放り込んだのです。
 王太子軍の周囲に、王太子の側近と兵士の遺体を放置して、王太子軍に大山賊団を攻撃しなければいけないように誘導までしたのです。

「マリーア嬢。
 これからとっておきの魔境に案内しますよ。
 自分を鍛え直すには最適の場所ですよ」

 インキタトゥスが私を試すように話しかけます。
 いいでしょう!
 やってあげます!
 この世をよくするには、自分が強くなくてはいけません。
 いつまでも馬たちに頼ってばかりではいけないのです!
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