賢帝は皇妃と実弟に謀殺され復讐を誓って逆行転生する

克全

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第1章

第23話:交渉

「フェル、リチャ、お母さん、お父さんに会えることになったの。
 でも、申し訳ないのだけれど、2人は会えないの、ごめんね」

 ブラウン男爵の所から戻った母上が哀しそうに言った。
 心優しい母上は、クソ親父の事を疑っている自分自身を責めている。
 だが母上が悪いのではない、全部俺の責任だ、いやクソ親父が悪い。

 本来のクソ親父は、今直ぐぶち殺したくなるくらい卑怯下劣だ。
 母上に暴力を振るわないのも、売春を強要しないのも、俺が操っているからだ。
 母上が罪悪感を持つのは、クソ親父に悪事を働かせない俺の責任なのだ。

 母上は、クソ親父が俺とフェルを愛していると信じたいのだ。
 俺とフェルがクソ親父を慕っていると思いたいのだ。
 だからクソ親父に会わせられないのを謝るのだが、母上は何も悪くない。

「あわなくてもいい、ははうえだいすき」

 謝る母上に、フェルが何とも思っていないように平気で答える
 クソ親父を嫌うように、俺が何かした訳ではないのに嫌っている。
 本能的にクソ親父の卑怯下劣な性格を見抜いているのかもしれない。

「だんしゃくかっかにあわせて」

 母上の罪悪感を少しでも軽くするのが俺の役目だ。
 母上を幸せにするためなら何でもすると誓ってこの世界に来たのだ。
 今回もやれるだけやる、母上を幸せにするために全力を注ぐ。

「またそんなこと言って、無理よ、今駄目と言われたばかりなのよ」

「だいじょうぶ、だんしゃくかっかにあわせて」

 俺は何度も母上に言った。
 俺たちを溺愛してくれている母上は、何度も頼むと折れてくださる。
 どれほど無理難題でも、ちゃんと説明したら頑張ってかなえてくださる。

「おともだちにまもってもらう」

「お友達、オオカミさんが守ってくれるの?」

「うん、おおかみさんがまもってくれる、だいじょうぶ」

「また100頭のオオカミさんが守ってくれるのね?」

「うん、おおかみさんがまもってくれる」

 オオカミ100頭が守ってくれると聞いて、母上の気持ちが願望に傾いた。
 心の奥底ではクソ親父を信じていないのに、信じたいと思う気持ちに傾いた。
 親子4人の家族団欒に憧れる気持ちが、内心の疑いを押しのけたのだろう。

 母上はその日の内にブラウン男爵に謁見願を出した。
 子供たちをクソ親父に会すな、と命じられた1時間後に謁見願を出した。

 普通ならブラウン男爵も機嫌が悪くなるだろう。
 だが母上から、俺がオオカミに護衛させると言っていると聞かされた。
 俺を取り込もうとしている男爵は邪険にできない。

 血の繋がった親兄弟でも心から信じられない戦国乱世だ。
 婿養子に迎えたいと思っている幼い子供に、嫌われるような事はできない。
 そう判断して翌日早朝の謁見を認めた。

 フェルと2人、母上に手を引かれてブラウン男爵と謁見した。
 誰に何を言われても母上の側から離れる気はない。
 少なくとも、一瞬で駆け付けられる距離しか離れない!

 転移魔術が使えるから、どれほど離れていても大丈夫だなんて言わせない。
 魔術阻害魔法陣の罠に嵌った己の愚かさは生まれ変わっても忘れない!

「父親のコルスと会うのに、オオカミを護衛にすると言うのは本当か?」

「ほんとう、たくさんのおおかみがまもってくれる」

「たくさん、100頭ではないのか?」

「もっとたくさん」

「オオカミの友達が100頭よりも増えたと言うのか?!」

「ふえた、おおかみのともだちがふえた」

「……分かった、この前みたいに私に見せてみろ。
 安心できるだけのオオカミがいるのなら認めてやる。
 この前のように、防壁の外に集めるだけでは駄目だぞ。
 男爵領の防壁を乗り越えられるオオカミが200頭いたら認めてやる」

「やくそく」

「ああ、約束だ、余は約束を破らない」

「「「「「オォオオオオオン」」」」」

 ブラウン男爵が口約束した直後に、眷属のオオカミに遠吠えさせた。
 前もって領都近くの森に潜ませていた、オオカミたちに遠吠えさせた。
 ブラウン男爵は僅かに眉をひそめたが、堂々を振舞っている。

 ブラウン男爵が毎日少しずつ空壕を深くし、防壁も強化している領都だ。
 そう簡単にはオオカミたちが入れないと思ったのだろう。
 だが、俺の血と魔力を与えた眷属はとんでもなく強大だ。

 オオカミたちは、領都の防壁を守る警備兵に見つかる事なく軽々と飛び越えた。
 城の城壁も、警備兵を無視して軽々と飛び越えた。

 だが、完全に扉を閉めている城の中に入るには、扉を壊さないといけない。
 扉を守っている警備兵を蹴散らさないといけない。

「「「「「ウァアアアアア」」」」」

 警備兵たちが断末魔のような悲鳴をあげて腰を抜かす。
 俺の言う事を良く聞いてくれる眷属たちは、警備兵を殺すことなく入ってきた。
 城の扉を粉々に破壊して謁見室にまで入ってきた。

 狭い謁見室に200頭ものオオカミが全頭入れるわけがない。
 狭いとは言っても貴族の城だ、平民のボロ屋とは違う。
 ロバ並みのオオカミでも200頭くらいなら楽々入れる。

「分かった、認めよう、口約束でも約束は約束だ、守ろう。
 だが、本当に分かっているのだろうな?
 母親のイリナはお前たちを愛しているが、コルスは愛していないのだぞ?」

「ははうえだいすき、あいつきらい」
「ぼくも、ははうえだいすき、あいつきらい」

 俺は内心の強い思いをブラウン男爵にぶつけた。
 強制した訳ではないのに、フェルも同じように言った。

「くっ、くっ、くっ、くつ、子供はよく見ているという事か。
 分かった、それなら安心して一緒に行かせられる。
 リチャード、何があってもイリナを守れるな?」

 ブラウン男爵は心底愉快そうに笑いだした。
 だが直ぐに笑いを治めて、厳しい目で優しく問う。

「ははうえまもる、なにがあっても、ははうえまもる」

 ブラウン男爵は、まだ幼い俺にクソ親父を殺してでも母上を守るのかと聞いた。
 心優しい母上が気付かないような、視線とイントネーションで聞いた。

 俺は一瞬の迷いもなく、幼い子供言葉で守ると言い切った。
 母上を守るためなら、クソ親父を殺すという覚悟を込めて言い切った。

「イリア、リチャードと相談してからコルスの所に行け。
 リチャードが駄目だと言ったらコルスの所に行ってはいかん」

 ブラウン男爵は俺の出したサインを分かってくれた。
 幼い俺が大人顔負けのサインを出した事に、最初ブラウン男爵は驚いていた。
 だが直ぐに飲み込んでくれて、俺に決定権を預けてくれた。

「はい、約束します、リチャードと相談してコルスの所に行きます。
 リチャードが危ないと言ったら行かないようにします」

 母上も俺が決定権を持つ事を認めてくれた。

「リチャード、オオカミたちはどうやって生きている?
 オオカミたちは人間を襲わないのか?」

「おそわない、ぼくがいわないかぎりおそわない」

「リチャードが襲えと言えば人間を襲うのか?」

「おそう」

「この地を襲って来た敵を殺せと言っておけば、人間を殺すのか?」

「しらないひとをおそえといえばおそう、あのひとをおそえといえばおそう」

「ああ、そうか、そうだな、オオカミに敵味方を正確に見抜くのは無理だな。
 だったらこう言えばどうだ、この森に入ってきた人間を襲えといえば分かるか?」

「ここからここまでといえばわかる」

「なるほど、森の範囲を言い聞かせればいいのだな?」

「うん」

「コルスに会って戻ったら、オオカミたちに森を与える。
 その中に入ってきた人間を襲って殺してもらう、できるな?」

「できる」

 ブラウン男爵との話は俺にも有意義な物だった。
 俺が今の状態でもブラウン男爵の役に立つと伝えられた。
 何より、城の中にいる状態で役に立つ事を伝えられた。

 ブラウン男爵は家臣との約束を守る男だった。
 些細な事でも、家臣との約束を必ず守る事で信用を積み重ねていく。
 それが君臣の信頼関係、忠誠心につながる事を知っていた。
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