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第二章櫻井龍騎視点

25話

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 長崎教官が絶句して固まっている。
 他の教官も何も言えずに固まっている。
 やはり縁者に宮城を砲撃した腐れ外道がいるのだろう。
 絶対に許せない。
 今までは勝てば官軍で好き放題やってきたのだろうが、もう長州っぽの好き勝手にはさせない!

「謀叛人を拘束しろ!
 今上陛下を御守りするのだ!」

「逆賊を許すな!
 我ら長州こそが正義だ!
 会津が卑怯者なのだ!
 宮城を砲撃したのは会津が悪いからだ!
 会津に誑かされていた孝明天皇が愚かだったのだ!
 我ら長州が正しいのだ!」

 やった!
 言質をとったぞ!
 これだけの大人数の前で、孝明天皇陛下を罵り、長州の身勝手を露呈した。
 もう言い逃れはさせん!

「孝明天皇陛下を悪しざまに罵ったぞ!
 やはり長州は、自分達の意のままにならない孝明天皇陛下を殺すつもりで、宮城を砲撃したのだ!
 叛乱軍は長州だったのだ!
 長州が孝明天皇陛下を毒殺し、勅命を捏造していたのだ!」

 戸田が更に檄を飛ばしたことで、生徒の大半が味方してくれた。
 一部長州系の生徒は動くに動けないでいたが、教官団に味方するような事はなく、井上教官以外はあまり抵抗しなかったので、直ぐに教官達を捕縛できた。

 戸田の指示に従って役割が決められ、戸田と仲がいい佐藤と鈴木が教官団を見張る指揮を執り、戸田を筆頭にした長州閥以外の華族系生徒に何故か俺が加わり、宮城に事件の全容と報告に赴いた。

 その時に俺がいる事で、宮城警護の近衛師団や近衛騎兵連隊に顔が利き、幕閥系と薩州閥の侍従に取り次いでもらう事ができた。
 御陰で長州閥の侍従や政治家に邪魔されることなく、今上陛下に事件の全容を内々にお伝えする事ができた。

 今上陛下は相も変らぬ長州閥の専横に激怒され、首相と陸軍大臣を呼び出し厳しく叱責されたそうだ。
 我々は陸軍士官学校で教官団を人質にして立て籠もっていたので、後に人伝に聞いただけだが、その怒りは誰にも抑えられない激しさだったそうだ。

 それは当然だと思う。
 蛤御門の変の砲撃が長州の謀叛で、自分の父親を愚か者と罵り殺そうとした凶行だと耳にされたのだ。
 今上陛下は、今まで事あるごとに忠功を誇る長州っぽに、言動を掣肘されてこられたが、時と場合によれば、父親の孝明天皇陛下のように長州っぽに謀殺されていたかもしれないのだ。

 今上陛下は井上をはじめとする教官団を全員罷免された。
 校長も責任を取らされて罷免された。
 いや、陸軍士官学校教官団の罷免だけではすまなかった。
 長州閥の侍従と女官が全員罷免された。
 その時に今上陛下が口にされたのが、孝明天皇のように毒殺されたくないと言う御言葉だったと言う。

 長州閥の貴族院議員も今上陛下との謁見が許可されなくなった。
 焦った彼らは井上達に責任を取らせた。
 自死を強要したのだ。
 いや、汚い長州っぽの事だ、殺しておいて自死に偽装したのかもしれない。
 だがこの事件があって、陸軍士官学校は大変革された。
 長州閥が排除され、必ず幕閥から校長が選ばれ、校長が選抜した教官が教鞭をとることになった。
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