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第二章
第19話:駆け引き
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マーガデール男爵は捕まえましたが、城壁の中にはマーガデール男爵家の家族が立て籠もっています。
マーガデール男爵家の一族衆だけでなく、騎士や徒士といった家臣もいれば、直轄領の民もいます。
彼ら全員に心から負けたと思わせなければ、何時背後から攻撃されるか分からず、安心して領地を離れる事ができません。
マーガデール男爵に仕えているような騎士や徒士ですから、大半が志など全く無い、盗賊同然の連中です。
志がないだけでなく、騎士や徒士を名乗るのに相応しい武力もないでしょう。
実際に戦ったわけではありませんが、気配で分かるのです。
まあ、我が家の基準が高すぎるのは分かっています。
奇跡の傭兵団と呼ばれた部隊を率いられた父上達が、手塩にかけて育てた元孤児達が主力になっているのが、我が家の家臣団なのですから。
「何をしている、憶病者共!
当主を捕らわれたと言うのに、マーガデール男爵家の誇りにかけて取り返そうとするものが一人もいないのか?
男爵を名乗る者が、家臣領民を前にして、恐ろしさのあまり大小便を垂れ流したと言うのに、誇りを取り戻そうとする者が、ただの一人もいないのか?!」
俺は何度もマーガデール男爵家を罵って家族を引き摺り出そうとしましたが、全く何の反応もありませんでした。
恐れおののいて城壁の中に隠れ潜めば、捕らわれないと思い込んでいるようです。
俺は、敵が勇気を発揮するのに待ちくたびれたので、木製の城壁を軽々と飛び越えて敵を捕らえる事にしました。
木製の城壁の中は、よくある下級貴族の造りでした。
中心には、この国でドンジョンと呼ばれる領主館があります。
俺の基準だと内郭とか本丸という役割でしょうか。
領主館の外側で城壁の内側、俺の感覚で二ノ丸と思える場所が、男爵家直属の家臣領民が住む場所になっています。
城、領主館と言っても築城技術の未発達なこの世界の事です。
石造りの立派な西洋の城館ではありません。
中国式でもアラブ式でも日本式でもありません。
森から切り出した丸太で組み上げた建物の外側に、石と土を積み上げて、敵の火攻めから木製の城を守ろうとしています。
素早く周囲にも目をやり、領都と呼ばれる二ノ丸内を確認します。
本丸の側には礼拝堂と厩があります。
礼拝堂に男爵一族が隠れているかもしれません。
煙を出している建物は鍛冶場のようです。
腕の良い鍛冶職人がいるのなら、絶対に捕らえなければいけません。
他に大した建物はありません。
地竜森林から切り出した材木で建てらえた家が密集しているだけです。
多少マシそうに見える建物は、領地をもらえない騎士や徒士の家でしょう。
この規模の領都では、元から大した戦力は常駐していなかったと思われます。
「死にたくなければ領主一族が隠れている場所を教えなさい。
騎士や徒士を恐れる事はありません。
彼らの隠れ家も教えたら、捕虜にして一緒に連れて行きます。
そうなれば、もうお前達は男爵達に搾取される事がなくなります。
地竜森林で狩った物が、全て自分達の物になるのですよ」
俺が軽く誘導するだけで、全ての領民が領主一族と家臣の隠れ家を教えてくれたので、誰一人逃がすことなく捕らえる事ができました。
「おのれ、これでも喰らえ!」
騎士や徒士の大半が、追い詰められて初めて攻撃を仕掛けてきました。
ですが、あくびがでるほど遅い斬撃です。
こんな攻撃では、ロバ一匹殺せません。
と言うのは流石に言い過ぎですが、とても我が家の家臣は務まりません。
地竜森林に連れて行けるレベルではありません。
独りで竜種を狩れとまでは言いませんが、魔獣ではない猪や山犬くらいは独りで狩れないと、我が家では徒士扱いしてもらえないのです。
いえ、猪や山犬を独りで狩れる程度では、猟師として地竜森林に入る資格が与えられるだけです。
せめて牙猪や灰色狼くらいは単独で狩ってくれないと、徒士にはできません。
「はい、はい、御苦労様です」
俺はかかって来る奴全ての両肩を外しました。
竜爪街道北砦に襲い掛かって来た盗賊達と同じ扱いです。
俺の目が届かない所で、戦う術のない者を襲うような事があってはいけません。
犯罪者や捕虜の待遇を良くするために、何の罪もない女子供の危険を高めるなど、狂気の沙汰だと思っています。
「さっさと歩いてください。
逃げようとしたら殺しますよ」
領都にいたマーガデール男爵の一族は、老若男女合わせて十三人でした。
他の貴族家に養子に入る事も嫁ぐこともできなかった一族は、家臣の騎士家に養子に入るか降嫁しているそうです。
そんな騎士家は、家臣の中でも領地持ちなので、ここにはいません。
後々マーガデール男爵の後継者を名乗るかもしれませんが、その時は、また捕らえればいいだけの事です。
捕らえたマーガデール男爵の一族と家臣を、我が領地に移動させなければいけないのですが、抵抗できないように、肩の関節は外したままです。
でもそれだと、支えがないので、常時激痛に苦しむ事になります。
そこで、古着で両腕を縛って、腕の重みが肩関節にかからないようにします。
三角巾で脱臼した腕を支える形ですね。
これだとゆっくり歩く程度なら痛みを抑えられますが、逃げようとして走ったりすると、激痛に苦しめられる事になります。
「私は男爵夫人ですよ!
その私に口で食事をしろというのですか!?
それでも男爵家の後継者ですか?
恥を知りなさい、恥を!」
心の醜さがモロ顔に現れている女が、俺の事を口汚く罵ります。
「他領の民を攫ってきて盗賊にするような腐れ外道にそのように言われると、黙っている訳にはいかなくなります。
そのような恥知らずな事を口にする舌は、斬りとって豚の餌にでもしなければ、マクネイア男爵家の名誉にかかわりますね」
俺がそう言うと、荷役の一人がナイフをもって男爵夫人に近づきました。
「ヒィイイイイイ、やめなさい、やめるのです、やめないとゆるしませんよ!
ぐぅがぁああ、ひゅりゅすて、ひゅりして、ひゅるしてくらない!
フィイイイイイ!」
家の荷役が男爵夫人の舌を指でつまみだして、ナイフで舌を斬り落とすマネをしたところで、泣きわめいていた男爵夫人が気を失いました。
「これは、とても仲の良い、似た者夫婦だったのですね。
マーガデール男爵に続いて夫人まで大小便を垂れ流されましたね。
仲の良い事を咎めようとは思いませんが、お世話はしませよ。
自分の粗相は自分で始末してください」
少し意地悪な事をしている自覚はあります。
両肩関節を脱臼させられ、整復する事なく固定しているのです。
自分はもちろん同行者も、粗相の後始末をする事などできません。
男爵夫人ともあろう者が、大小垂れ流しの状況で居続けなければいけません。
自分の家の家臣領民だけでなく、我が家の家臣領民にも見続けられます。
直接罵られる事はなくても、蔑みの視線をひしひしと感じ続ける事になります。
「俺達をどうする心算だ?!」
父親に続いて母親まで大恥をかかされたので、黙っていられなかったのでしょう。
本人は名乗りませんでしたが、領民がマーガデール男爵の次男だと教えてくれた男が、意を決して質問をしてきました。
無視してもいいのですが、できれば証人に仕立て上げたいので、親切にしてやることにしました。
「貴族を襲う者の処罰がどれほど厳しいのかは、貴族家の端に連なる者なら誰でも知っているだろう?
それは平民だけに適用されるのではありません。
貴族という誇りと責任のある立場の者は、更に厳しい処罰が適用されます。
他領の民を攫って野盗に仕立て上げ、我が領地を襲わせた者は、貴族を襲った者として厳罰に処します」
「何を言っている?
同じ貴族を勝手に処罰できるとでも思っているのか?!」
「俺は決闘で勝ったのですよ、敗者を好きに処分できるのです。
決闘などしていないと言うのなら、戦争で勝った事にしてあげましょうか?
勝者が敗者を奴隷にするのはよくある話でしょう?
そもそも、当主の留守を狙って、野盗に偽装して襲ってくるような者を、同じ貴族だと思えと言うのですか?
よくそのような恥知らずな事を口にできますね。
まあ、いいでしょう、どうせ我が家は何時でも独立を宣言できるのです。
その前にウェストベリー侯爵への警告として、貴方達を竜の餌にして差し上げますから、誇りに思ってください」
マーガデール男爵家の一族衆だけでなく、騎士や徒士といった家臣もいれば、直轄領の民もいます。
彼ら全員に心から負けたと思わせなければ、何時背後から攻撃されるか分からず、安心して領地を離れる事ができません。
マーガデール男爵に仕えているような騎士や徒士ですから、大半が志など全く無い、盗賊同然の連中です。
志がないだけでなく、騎士や徒士を名乗るのに相応しい武力もないでしょう。
実際に戦ったわけではありませんが、気配で分かるのです。
まあ、我が家の基準が高すぎるのは分かっています。
奇跡の傭兵団と呼ばれた部隊を率いられた父上達が、手塩にかけて育てた元孤児達が主力になっているのが、我が家の家臣団なのですから。
「何をしている、憶病者共!
当主を捕らわれたと言うのに、マーガデール男爵家の誇りにかけて取り返そうとするものが一人もいないのか?
男爵を名乗る者が、家臣領民を前にして、恐ろしさのあまり大小便を垂れ流したと言うのに、誇りを取り戻そうとする者が、ただの一人もいないのか?!」
俺は何度もマーガデール男爵家を罵って家族を引き摺り出そうとしましたが、全く何の反応もありませんでした。
恐れおののいて城壁の中に隠れ潜めば、捕らわれないと思い込んでいるようです。
俺は、敵が勇気を発揮するのに待ちくたびれたので、木製の城壁を軽々と飛び越えて敵を捕らえる事にしました。
木製の城壁の中は、よくある下級貴族の造りでした。
中心には、この国でドンジョンと呼ばれる領主館があります。
俺の基準だと内郭とか本丸という役割でしょうか。
領主館の外側で城壁の内側、俺の感覚で二ノ丸と思える場所が、男爵家直属の家臣領民が住む場所になっています。
城、領主館と言っても築城技術の未発達なこの世界の事です。
石造りの立派な西洋の城館ではありません。
中国式でもアラブ式でも日本式でもありません。
森から切り出した丸太で組み上げた建物の外側に、石と土を積み上げて、敵の火攻めから木製の城を守ろうとしています。
素早く周囲にも目をやり、領都と呼ばれる二ノ丸内を確認します。
本丸の側には礼拝堂と厩があります。
礼拝堂に男爵一族が隠れているかもしれません。
煙を出している建物は鍛冶場のようです。
腕の良い鍛冶職人がいるのなら、絶対に捕らえなければいけません。
他に大した建物はありません。
地竜森林から切り出した材木で建てらえた家が密集しているだけです。
多少マシそうに見える建物は、領地をもらえない騎士や徒士の家でしょう。
この規模の領都では、元から大した戦力は常駐していなかったと思われます。
「死にたくなければ領主一族が隠れている場所を教えなさい。
騎士や徒士を恐れる事はありません。
彼らの隠れ家も教えたら、捕虜にして一緒に連れて行きます。
そうなれば、もうお前達は男爵達に搾取される事がなくなります。
地竜森林で狩った物が、全て自分達の物になるのですよ」
俺が軽く誘導するだけで、全ての領民が領主一族と家臣の隠れ家を教えてくれたので、誰一人逃がすことなく捕らえる事ができました。
「おのれ、これでも喰らえ!」
騎士や徒士の大半が、追い詰められて初めて攻撃を仕掛けてきました。
ですが、あくびがでるほど遅い斬撃です。
こんな攻撃では、ロバ一匹殺せません。
と言うのは流石に言い過ぎですが、とても我が家の家臣は務まりません。
地竜森林に連れて行けるレベルではありません。
独りで竜種を狩れとまでは言いませんが、魔獣ではない猪や山犬くらいは独りで狩れないと、我が家では徒士扱いしてもらえないのです。
いえ、猪や山犬を独りで狩れる程度では、猟師として地竜森林に入る資格が与えられるだけです。
せめて牙猪や灰色狼くらいは単独で狩ってくれないと、徒士にはできません。
「はい、はい、御苦労様です」
俺はかかって来る奴全ての両肩を外しました。
竜爪街道北砦に襲い掛かって来た盗賊達と同じ扱いです。
俺の目が届かない所で、戦う術のない者を襲うような事があってはいけません。
犯罪者や捕虜の待遇を良くするために、何の罪もない女子供の危険を高めるなど、狂気の沙汰だと思っています。
「さっさと歩いてください。
逃げようとしたら殺しますよ」
領都にいたマーガデール男爵の一族は、老若男女合わせて十三人でした。
他の貴族家に養子に入る事も嫁ぐこともできなかった一族は、家臣の騎士家に養子に入るか降嫁しているそうです。
そんな騎士家は、家臣の中でも領地持ちなので、ここにはいません。
後々マーガデール男爵の後継者を名乗るかもしれませんが、その時は、また捕らえればいいだけの事です。
捕らえたマーガデール男爵の一族と家臣を、我が領地に移動させなければいけないのですが、抵抗できないように、肩の関節は外したままです。
でもそれだと、支えがないので、常時激痛に苦しむ事になります。
そこで、古着で両腕を縛って、腕の重みが肩関節にかからないようにします。
三角巾で脱臼した腕を支える形ですね。
これだとゆっくり歩く程度なら痛みを抑えられますが、逃げようとして走ったりすると、激痛に苦しめられる事になります。
「私は男爵夫人ですよ!
その私に口で食事をしろというのですか!?
それでも男爵家の後継者ですか?
恥を知りなさい、恥を!」
心の醜さがモロ顔に現れている女が、俺の事を口汚く罵ります。
「他領の民を攫ってきて盗賊にするような腐れ外道にそのように言われると、黙っている訳にはいかなくなります。
そのような恥知らずな事を口にする舌は、斬りとって豚の餌にでもしなければ、マクネイア男爵家の名誉にかかわりますね」
俺がそう言うと、荷役の一人がナイフをもって男爵夫人に近づきました。
「ヒィイイイイイ、やめなさい、やめるのです、やめないとゆるしませんよ!
ぐぅがぁああ、ひゅりゅすて、ひゅりして、ひゅるしてくらない!
フィイイイイイ!」
家の荷役が男爵夫人の舌を指でつまみだして、ナイフで舌を斬り落とすマネをしたところで、泣きわめいていた男爵夫人が気を失いました。
「これは、とても仲の良い、似た者夫婦だったのですね。
マーガデール男爵に続いて夫人まで大小便を垂れ流されましたね。
仲の良い事を咎めようとは思いませんが、お世話はしませよ。
自分の粗相は自分で始末してください」
少し意地悪な事をしている自覚はあります。
両肩関節を脱臼させられ、整復する事なく固定しているのです。
自分はもちろん同行者も、粗相の後始末をする事などできません。
男爵夫人ともあろう者が、大小垂れ流しの状況で居続けなければいけません。
自分の家の家臣領民だけでなく、我が家の家臣領民にも見続けられます。
直接罵られる事はなくても、蔑みの視線をひしひしと感じ続ける事になります。
「俺達をどうする心算だ?!」
父親に続いて母親まで大恥をかかされたので、黙っていられなかったのでしょう。
本人は名乗りませんでしたが、領民がマーガデール男爵の次男だと教えてくれた男が、意を決して質問をしてきました。
無視してもいいのですが、できれば証人に仕立て上げたいので、親切にしてやることにしました。
「貴族を襲う者の処罰がどれほど厳しいのかは、貴族家の端に連なる者なら誰でも知っているだろう?
それは平民だけに適用されるのではありません。
貴族という誇りと責任のある立場の者は、更に厳しい処罰が適用されます。
他領の民を攫って野盗に仕立て上げ、我が領地を襲わせた者は、貴族を襲った者として厳罰に処します」
「何を言っている?
同じ貴族を勝手に処罰できるとでも思っているのか?!」
「俺は決闘で勝ったのですよ、敗者を好きに処分できるのです。
決闘などしていないと言うのなら、戦争で勝った事にしてあげましょうか?
勝者が敗者を奴隷にするのはよくある話でしょう?
そもそも、当主の留守を狙って、野盗に偽装して襲ってくるような者を、同じ貴族だと思えと言うのですか?
よくそのような恥知らずな事を口にできますね。
まあ、いいでしょう、どうせ我が家は何時でも独立を宣言できるのです。
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