転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全

文字の大きさ
56 / 87
第二章

第56話:緑化11と蕪料理

しおりを挟む
「ディド、無理をする事はないのよ。
 もう貴男は十分以上の事をやってくれているわ」

「いえ、別に無理をしている訳ではありません。
 これくらいの魔力なら、使った事も分からないくらいです」

 鉱山村の周囲に果樹園を作っている俺を心配した母上が、声をかけてくれます。
 もう敵に襲われる心配がないので、村と村の間を長くする必要が無くなりました。
 敵が補給できないように、井戸や畑を作らない方針を完全撤廃したのです。

 下に村がない、まだ利用していなかった地下水脈で果樹を育てます。
 接ぎ木の台木には地下深くまで根を伸ばす固有種を使います。
 更に魔術で品種改良して、葉に塩分を含むようにしてあります。

 もちろん実には普通の桃や柿、林檎や梨が実ります。
 塩の葉と甘い果実が実る、現実離れしたハイブリッド果樹です。

 他にも植えたい木、品種改良に使いたい木が有りました。
 塩の木とも呼ばれるヌルデ、白膠木を探してもらっていたのですが、残念ながら見つからなかったのです。

 ヌルデは房状の実の成る木なのですが、干からびると白い粉状のもの、リンゴ酸カルシウムが表面に現れるのです。

 リンゴ酸カルシウムは吸収されやすいカルシウムなのですが、塩辛いのに塩分が含まれていないのです。

 大量の塩を作れるようになった我が領では、以前の塩欠乏時代の反動もあって、塩分を摂取し過ぎる傾向があるのです。

 そこで、塩分を含まないのに塩辛い実が成るヌルデを探させていたのです。
 もし実の塩辛さが塩の代用に受け入れならなかったとしても、蝋の材料になるので手に入れたかったのです。

 他にも使い道があって、鉄漿に使う事はありませんが、薬や染料に使えますし、給水しにくい性質の材木は、色々な用途に使えます。

 他にも探させている草木は沢山ありますが、手元にない物を嘆いていても仕方がないので、今手に入っている草木を使って品種改良をするしかありません。

 普通に考えると、一番効率的直は、美味しい葉物野菜と根菜を組み合わせる方法なのですが、これが意外と難しいのです。

 令和平成の日本人常識で測ると大きな間違いを犯します。
 現代では食べていなかった根菜の葉は、昭和の中頃までは食べていたのです。

 蕪や大根、人参の葉は普通に美味しく食べられます。
 塩が大量に手に入るようになったので、塩漬けにして保存食にできます。

 この世界の野菜は、品種改良された日本の野菜より苦みやえぐみがありますが、この世界の人達にとってはそれが普通で、とても美味しくいただけるのです。

 ただし、野菜の中には葉や茎に毒を含む物があります。
 よく知られている代表がジャガイモですね。
 ジャガイモの芽に毒が含まれているのを知っている人は多いでしょう。

 同じように、ナス、トマト、ピーマン、パプリカは毒を含んでいます。
 そうなのです、ナス科の植物は毒を含む事が多いのです。
 それで大失敗をしてしまっていたのです。

 トマトの葉や茎に毒を含んでいる事を知らずに、塩葉を作ってしまったのです。
 最初に危険がないか家畜で試してよかったです。
 一部の家畜だけでしたが、食中毒を起こしたのです。

 それからは塩トマトは塩害駆除にだけ使いました。
 葉や茎は地竜森林か東竜山脈の魔境に捨てる事にしました。

 魔獣や亜竜なら少々の毒でも大丈夫でしょう。
 少し魔獣や亜竜を狩り過ぎている気がするので、少しでも餌が多い方が良いかもしれません。

 品種改良前に、葉や茎に毒を持つ野菜がないか試作しました。
 もちろん最初に人間に食べさせたりしません。
 山羊や羊などの家畜に食べさせて試しました。

 ピーマン、パプリカ、ナスに毒が有る事が分かりました。
 お陰で無駄な魔力を品種改良に使わなくてすみました。

「今日はディドが料理をしてくれるのね。
 最近ディドの料理が食べられなかったからうれしいわ」

 品種改良に成功した新蕪と以前のままの旧蕪。
 どちらが美味しいか食べ比べしてもらおうと料理をしたのですが、こんな風に母上に喜んでもらえると、少し胸が痛みます。

「申し訳ありません」

「連邦にいる事が多くなってしまいましたから、仕方がないわ。
 でも、毎日品種改良や調教に戻っているのですから、料理はしなくてもいいので、顔だけは見せて欲しいわ」

「毎日という訳にはいきませんが、できるだけ顔を出すようにします」

 そう言う話をしながら、自分の手で料理を作り振るまいました。
 最初に食べてもらったのは、蕪の葉と鳥のスープです。

 最近は畑の野菜や穀物、果樹の実を狙って鳥がやって来るようになりました。
 以前は全く見なかった渡り鳥や小鳥が結構な数やってくるのです。

 害鳥なので狩らなければいけませんが、どうせ狩るのなら美味しく食べる方が良いと、焼鳥やフライドチキンで食べて美味しいか、試作と試食を繰り返していました。

 今回は鳩くらいの大きさの害鳥を使いました。
 内臓は抜いて奇麗に洗っていますから、灰汁は少ないです。
 骨付きのまま使っていますから、それなりの出汁がでています。

1:内臓を取って奇麗に洗った鳥をぶつ切りにして鍋に入れる。
2:食べやすい大きさに切った茸と蕪の葉と水を加えて強火で煮る。
3:好みの香草を加え、塩胡椒で味を調えて完成です。

「10人分材料」
蕪の葉  :500g
鳩サイズ鳥:2羽
茸    :10個
香草   :適量
塩    :適量
水    :1500ml

「ディドのためになる事だから、正直に言うわね。
 どちらも美味しいけれど、私は昔のままの蕪の方が美味しいわ。
 独特の風味、苦みがないと物足らないのよ」

「えええええ、私は新しい方が好きよ」

「ファニ!
 何度言ったらちゃんと話せるようになるの!」

「あ、ごめんなさい。
 でも、母上が苦い方が好きだなんて言うから驚いてしまったの。
 父上だって驚いたでしょう?」

「ふむ、俺も苦い方が美味しいと思うぞ」

「えええええ、嘘でしょう?
 あ、父上は母上が怖くて嘘をついているのでしょう!」

「ファニ!」

「あ、ごめんなさい、でも、嘘をつく父上が悪いのよ」

「ファニ!
 今度マナーの悪い言動をしたら食事抜きですからね!」

「ごめんなさ、ごめんなさい、ごめんなさい、食事抜きだけは許して。
 フェルディナンド殿下の料理だけは最後まで食べさせて、お願い!」

 ファニ姉上が可哀想だから、助け船を出してあげましょう。

「貴重なご意見ありがとうございます。
 多くの人に話を聞いて、どれくらいの割合にするか決めます」

「そうしてちょうだいね。
 幼い子、子供達は苦みがない方が好きだと思いますから」

「はい、ありがとうございます。
 次の料理も食べ比べてもらえますか?」

 俺が次に出した料理は鹿肉と蕪の塩香草炒めです。

1:脂身の多い鹿バラ肉と蕪を食べやすい大きさの薄切りにする。
2:蕪の葉はざく切りにする。
3:香草をみじん切りにする。
4:中火で熱したフライパンに鹿脂を敷きます。
5:先に蕪を入れて良い色がつくまで炒めます。
6:鹿バラ肉を入れて塩を振り炒めます。
7:蕪の葉と香草を加えてしんなりするまで炒めて完成です。

「10人前材料」
鹿バラ肉:1000g
蕪   :大10個
香草  :適量
塩   :適量

「これもとても美味しいわ。
 此方の方も品種改良前の蕪の方が好きだわ」

「私、母上と違って品種改良後の蕪の方が食べやすくて好きですわ」

 ファニ姉上が丁寧な言葉遣いで反対意見を言いだしました。
 しっぺ返しに行儀作法の勉強をさせられても知りませんよ。

「子供にこの美味しさは分からんよ、なあ、パトリ」

「そうですわね、ファニは行儀作法も満足にできないお子様だから、大人の味が分からなくても仕方がないわ」

 そんな悔しそうな顔をするなら、最初から喧嘩を売らなければいいのに。
 反抗期なのかもしれませんが、父上と母上に勝てる訳がないでしょう。

 それにしても、塩と香草だけでは味の再現に限界があります。
 オイスターソースは無理でも、大豆醤油か肉醤油は再現したいですね。

 塩と砂糖で甘辛い料理を再現したいとは思いませんが、砂糖と醤油を使った甘辛さを再現したいです。

 鹿肉と蕪の塩香草炒めも、最後の仕上げに砂糖醤油を使えたら、鹿肉と蕪の甘辛炒めという、全く違う料理にできたはずです。

 美味しくなるかどうかは分かりませんが、メイプルシロップと塩で甘辛炒めにしたら、全く新しい美味しい料理が完成するのでしょうか?
 時間がないし、試食するのが怖いから、料理人に頑張ってもらいましょう。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...