転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全

文字の大きさ
74 / 87
第三章

第74話:促成栽培

しおりを挟む
「これか、この樹に美味しい酒を造る実が生るのか?」

 炎竜が俺を脅して東竜山脈の果樹園に案内させました。
 村に戻っている人達が怖がるので、案内したくなかったのですが、炎竜を怒らせるわけにはいかないので、仕方がないのです。

「はい、元々生えていた木々の根に、外から持って来た果樹を接ぎ木して、俺の魔法で甘く美味しくなるように念じました」

「ほう、そのような方法で美味しい果実が実るようになるのか?」

「誰がやってもできるかどうかは分かりません。
 人神が俺に授けてくれた魔法ではできるようです」

 大嘘だが、こう言っておいた方が良いでしょう。
 本当は前世の知識を前提に、アニメやラノベでやっていた事を、創造力と魔力で無理矢理実現させているだけです。

「はん、人がごときにできる事なら、俺様にもできるはずだ」

「では試してみられますか?
 ここに自生していた木々の根と俺が品種改良した果樹の苗があります。
 この二つを接ぎ木で合わせるのです」

「それがやれたら、お前が言っていた以上の早さで酒が造れるのだな?」

「実が生るまで数年かかりますから、直ぐとは言えません」

「なんだ、つまらん、それでは試す気にもならん」

「でもやってみて成功させなければ、何時までも少しの酒しか造れませんよ」

「うっ、それは駄目だ、もっと早く大量の酒を造れるようになれ!」

「それなら実が生るまでに数年かかろうと、やってもらわなければいけません」

「くっ、仕方がない、やってやろうではないか。
 余の酒のために一瞬で実れ!
 美味しい酒が造れる実をつけろ!
 さもなければ焼き払うぞ!」

 炎竜の言葉と共に、大量の魔力が放たれました。
 俺が本気で魔力を放った時ほどではありませんが、かなりの量です。
 僅か一本の接ぎ木のためには多過ぎる魔力です。

「おおおおお、これはどうなっている?
 周りの木々にも実が生っているではないか!」

「炎竜様、もしかしてこの一帯全てに実る想像をされて魔力を放たれました?」

「ああ、そうだ、大量の実が生ったら酒が造れると思って放ったぞ」

「これはその影響だと思います。
 炎竜様の魔力量が膨大なお陰でしょう。
 これだけあれば、炎竜様の望まれる酒造りが始められます」

「おお、そうか、そうか、だったら今直ぐ造れ。
 早く造れ、直ぐ造れ、どれくらいでできるのだ?」

「そうですね、早い物で七日ですが、この季節だと十五日くらい見てください」

「そんなに待たなければいけないのか?!」

「五千年も眠っていた方がよく言われますね。
 何ならもう少し眠られてください」

「もう十分眠った、これ以上眠る気はない」

「でしたら、炎竜様の御力で、無理矢理実らせた果樹から離れた場所に、新し果樹園を造ってくださいませんか?
 今実らせた果樹はとても疲れていますし、大地の力も無くなっていますから、この果樹を魔力で無理矢理実らせるのは難しいと思います。
 ですが大地の力が残っている場所なら、同じ様に果樹を実らせる事ができます。
 それを十五日も続ければ、大量の実りが得られて、酒も大量に造れます」

「なに、酒がそんなに造れるのか?!
 だったら幾らでもやってやる!」

「では自生の木々の種と果樹の種を持って移動しましょう」

「そうか、何所に果樹園を作るのだ?」

「この高さが一番合っていますので、ここから徐々に東に移動しましょう。
 あ、分かるのなら地下水脈の上にしてください。」

「そうか、地下水脈の上だな、分かった、行くぞ」

 俺は大量の種を持って東に移動しました。
 身体強化魔術がありますから、炎竜の飛行速度に置いて行かれる事はありません。
 
 最初に自生種の木々を種から促成成長させてもらいました。
 促成成長させた自生種を根だけ残して伐採し、液肥にして果樹園予定地に沁み込ませました。

 できるかどうか分からなかった、切り株の上に果樹の種を置き、切り株と融合させる魔術が成功しました。

 炎竜だけができるのか、俺にもやれるのか、今度試したいです。
 次に融合に成功した果樹が実る所まで促成栽培してもらいました。

「成功しました、流石炎竜様です。
 ですが今日はここまでです。
 実った果実を採取するだけに人手がありません」

「なんだと、人手もないのにやらせたのか!」

「これはやれるかどうかの試験です。
 試験が成功したら、次は実る手前まで成長させればいいのです。
 そうしておけば、何時でも果実が手に入るようになります。
 人手が確保でき次第、酒造りが始められます」

「人間など掃いて捨てるほどいるではないか!
 そこら辺の人間を掻き集めて来て、酒を造らせろ!」

「美味しい酒を造るのは、とても難しいのです。
 王都や他の場所で飲んだような不味い酒でもいいのですか?」

「お前は果実が不味いから酒も不味いと言っていたではないか!
 この果実さえあれば、美味しい酒が造れるのであろう?」

「材料が違うと、造り方も変わるかもしれません。
 もしかしたら失敗して腐ってしまうかもしれません。
 腐らないまでも、酢になってしまうかもしれません」

「しれません、しれません、しれませんと五月蠅い奴だ!
 失敗したらまた一から実らせればいいのだ。
 さっさと酒が造れる連中を集めて来い!」

「では、私がここを見張っていますから、食糧になる肉を取って来てください。
 人を働かせるには食糧が必要です。
 飛竜山脈や地竜森林に入って争われては人族が滅んでしまいます。
 遠く離れた海から鯨か鮫を狩って来て下さい」

「鯨を狩ってきたら酒を造るのだな?
 嘘ではないな?!」

「炎竜様に嘘など言いません。
 必ず人手を集めてきます」

「だったらそこで余の果実を盗む者がいないか見張っていろ!」

 炎竜はそう言い捨てると南の空に飛び立って行きました。
 俺は炎竜が鯨を狩ってくるのを確信していますから、帰ってくる前に本領各村にゲートをつなぎ、国民を集めて果実、リンゴの取入れを始めました。

 三千を超える魔術融合リンゴが生える果樹園です。
 摘果をせずに魔術で無理矢理実らせていますから、一本の木に千は実っています。
 三百万個のリンゴを収穫しようと思えば大変です。

「ほう、かんしん、かんしん、余がいない間に人手を集めていたか。
 これなら大量の酒が飲めそうだな」

 脚の爪に一頭の巨大な鯨を鷲掴みにした炎竜が、空中に静止した状態で話しかけてきますが、全く風を感じません。

「その鯨は捌ける人間のいる所に運んでもらいます。
 それと、今集まっているのは林檎を収穫する人達です。
 酒造りは特殊な技術ですから、一緒に造れる人間を探しに行ってもらいますよ」

 これまで我が家の酒造りは自家製の技術に留まっていました。
 連邦に広大な領地と多数の民を得ましたから、時間をかけて探せば本格的な醸造家がいるかもしれませんが、探している時間がありません。

 それに、探して醸造家がいなければ時間の無駄です。
 それよりは、王家が自分のために酒造りをさせている醸造家を強制徴募すれば、我が家の醸造技術が格段に高くなります。

「なに、酒を造れる者がいないだと?!
 せっかく余が褒めてやったと言うのに、台無しだ」

「炎竜様、卑小な人間に期待されないでください。
 身体の大きさも魔力量も比べ物にならないでしょう?」

「ふん、嘘をつくな嘘を!
 お前の魔力量が余の知る人間とは全く違う事、気付いていないとでも思ったか?」

 そうですか、そうですよね。
 俺にできて炎竜にできない訳ないですよね。
 俺の魔力量を知っていて放置するのは自信の表れなのでしょうか?
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー。男はずっと我慢の人生を歩んできた。先天的なファロー四徴症という心疾患によって、物心つく前に大手術をしなければいけなかった。手術は成功したものの、術後の遺残症や続発症により厳しい運動制限や生活習慣制限を課せられる人生だった。激しい運動どころか、体育の授業すら見学するしかなかった。大好きな犬や猫を飼いたくても、「人獣共通感染症」や怪我が怖くてペットが飼えなかった。その分勉強に打ち込み、色々な資格を散り、知識も蓄えることはできた。それでも、自分が本当に欲しいものは全て諦めなければいいけない人生だった。だが、気が付けば異世界に転生していた。代償のような異世界の人生を思いっきり楽しもうと考えながら7年の月日が過ぎて……

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...