転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全

文字の大きさ
82 / 87
第三章

第82話:無理難題

しおりを挟む
 蒸留酒は父上と母上に好評でした。
 父上は氷を入れてゆっくり飲むのを好まれました。
 母上は、そのまま煽るように飲まれますが、平然とされています。

 家宰のフラヴィオは、酒精の強い酒の方が、輸送費が少なく済むと喜んでいます。
 家臣筆頭として、俺がいなくなる未来の事まで考えれば、ゲートやテレポート無しの交易を前提にしなければいけません。

 だったら最初から俺が輸送しなければいいのです。
 家臣領民を餓死や凍死させないための輸送以外でゲートなどは使わない。
 競争力のある商品は馬車や牛車で輸送しましょう。

 冬の間、炎竜の相手だけをしていたわけではありません。
 炎竜が泥酔している間に、多くの蒸留場を造りました。
 有り余る魔力を無駄にしないように、西竜山脈に果樹園と酒蔵を造りました。

 そこに連邦貧民を労働者として移住させました。
 強欲な侯王の圧政に苦しむ民は掃いて捨てるほどいました。

 いえ、侯王が強欲でなくても、大凶作が二年も続いたら、一族が生き延びるために民を虐げるしかない状況なのです。

 炎竜が巨大な鯨を狩って来てくれましたので、干物や塩蔵で良ければ有り余るほどの肉があります。
 俺が魔法で促成栽培しましたので、果物もとんでもない量が余っています。

 凶作で人口が激減しているのが今の連邦です。
 俺が支援しなければ、今年も人口が半減してしまうでしょう。
 
 領主達は、この冬の間に多くの民が死ぬと思っていたはずですから、十万人以上移住させても問題ないです。

 そう考えて、炎竜に造らせた果樹園に、栗や胡桃、カシューナッツやアーモンドといった、比較的長期保存ができる樹木を魔術合成して増やしました。

 果樹園を管理する住民の数を百人から五百人前後に増やして、餓死するはずだった十万人を受け入れられるようにしました。

 炎竜が文句を言うかもしれないと身構えていましたが、自分用の酒蔵で働く人間が五倍になっても全く気にしませんでした。
 酒さえ飲めれば人間の事など歯牙にもかけないようです。

 まだ春とまでは言えませんが、連邦は兎も角、ゲヌキウス王国の南部は徐々に冬の寒さが緩んできた頃、炎竜に記憶力がある事が分かりました。

「おい、そろそろ自然発酵させている酒ができるのではないか?
 約束通りに飲ませろ。
 美味しければ余の専用酒にするから、人間には飲ませんぞ!」

 酒精に脳をやられて、俺との会話など全部忘れているかと思いましたが、ちゃんと覚えていました。

「そろそろできていると思いますが、確認しなければ断言できません。
 発酵していなければ、もうしばらくお待ちいただく事になります」

「そんな事は言われなくても分かっている、さっさと行くぞ!」

 炎竜は俺を置いて行く勢いで酒蔵に向かおうとしました。

「待ってください、私が一緒に行かないと酒造りの人間が怖がります。
 怖がるくらいなら良いですが、ショック死したら一大事です」

「ガタガタとうるさい奴だ、さっさとしろ!」

 炎竜に急かされながら酒蔵を巡る事になりました。

「ほう、なかなか美味いではないか!
 お前が魔法で造った酒には僅かに劣るが、どの果物から造られた酒も、これまで飲んだ酒の中では二番目に美味い!
 このような酒を人間に飲ますのは勿体なさ過ぎる!」

「ではこの酒も炎竜様専用にいたしましょう。
 ですがそれでは人間が飢え死にしてしまいます。
 人間は肉だけでは生きていけません。
 野菜や穀物も必要になります。
 俺は百年以内に必ず死にますから、魔法で酒を造れる者がいなくなります。
 フルーツワインを炎竜様専用にするのでしたら、畑も造ってください」

「本当にガタガタと五月蠅い奴だな!
 穀物と野菜の畑を造ればいいのだろう?!
 西竜山脈に造ってやるから待っていろ!」

「西竜山脈には俺が人間用の果樹園と酒蔵を造りました。
 俺が造ったのですから、あそこは人間専用です」

「なんだと、誰が造ろうが果物から造った酒は余の物だ。
 お前が造った果樹園であろうと関係ない!」

「それは余りにも身勝手で理不尽でしょう。
 炎竜様ともあろう者が、何も与えず奪うだけとは、竜の名誉と誇りが泣きますよ」

「くっ、人間の分際で調子に乗りおって!
 だったら山のような金瓶財宝をくれてやる、それで文句ないだろう」

「いえ、金銀財宝など食べられません。
 食べられなければ死ぬだけです。
 俺が欲しいのは農地です。
 この炎竜砂漠を農地にしてください。
 果樹園の収穫量に匹敵する農地をいただけなければ、酒が造れません」

「くっ、お前が死んだら魔法で酒が造れなくなるのだな」

「はい、そうなれば、どんなに早くても酒ができるまでに三カ月掛かります。
 今の果樹園と酒蔵の数では、炎竜様が魔法で果樹を促成栽培させても、毎日同じ量の酒は飲めなくなります」

「あ、そうだ、ふん、余を誰だと思っているのだ、天下無双の炎竜様だぞ。
 人間ごときが使う魔法くらい再現してみせる」

 強がっているのか?
 それとも、単に泥酔していたのではなく、酒を魔法発酵させられるくらい完璧に味を覚えていたのか?

「おお、それができるのでしたら、何の心配もありません。
 二番目に美味しい酒など、我々人間にくれてやればいいではありませんか」

 だが、酒で頭がやられているのは間違いない。
 魔法で俺の酒を再現できるのなら、人間が自然発酵を利用して造る酒など不要だ。

「……その通りだが、風味の違う酒を飲みたくなる事もある」

「そうかもしれませんね。
 ですが、まだ試した事がないのでしょう?
 俺が死んだ後でやろうとしてできなかったら大変ですよ。
 一度試してみてはいかがですか?
 炎竜様の手で俺と同じ酒を造れたら、これまで通りでいい。
 万が一できなければ、三カ月かけて発酵させても、炎竜様が毎日酒を飲める体制を、俺が死ぬまでに整えなければいけません」

「何時も何時も忌々しい事を言いおって!
 万が一にも、余が人間ごときの魔法を使えないと思う事が不遜だ!
 いいだろう、余の偉大さを卑小な人間に見せてやる!」

 何だかんだと言いながら俺の言う通り試すのは、万が一にも酒が飲めなくなる事を恐れているのだろう。

 本当にできるようなら、平身低頭謝って持ち上げないといけない。
 最悪の場合は、保険で造っておいた蒸留酒を飲ませるしかないな。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...