舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全

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6話

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「大丈夫でしたか、デイジー嬢」

「はい、大丈夫です、真金の騎士様。
 騎士様の治癒魔法のお陰で、舌が元通りになりました。
 痛みもなく、上手く話す事もできます」

 真金の騎士はとても満足そうだった。
 全身を鎧で固め、顔も面貌で覆われ、表情は全く分からない。
 声も面貌の奥から伝わるので、元の声から変わてしまっている。
 普通なら何の感情も読み取れないのだろうが、全身から発せられる雰囲気というか気配というか、何ともいえないモノが真金の騎士の喜びを伝えていた。

「本来ならダムラス王国にお連れすべきなのでしょうが、それではファーモイ王国とダムラス王国の戦争となってしまいます。
 そんな事になれば、どちらが勝つにしても多くの将兵が死傷してしまいます。
 そして戦争になれば、必ず略奪が始まり、民が苦しむことになります。
 両国の正規軍だけでなく、戦争に乗して、盗賊も現れ民を苦しめます。
 それにダムラス王国がファーモイ王国に攻め込めば、ファーモイ王国の多くの街や村が焼かれ、農地が荒れ果てることになります。
 そんな事はデイジー嬢も望まれていないでしょ?
 だから今日まで我慢されてきたのでしょ?」

「はい、私はそんな事は望んでいません。
 貞操を守り、静かに暮らせるのなら、それでいいのです。
 バンバリー公爵家を出ることになり、公爵令嬢の地位を失うことになっても、民を巻き込んだ戦争を引き起こす原因になるよりはいいです」

「では私に任せていただけませんか。
 デイジー嬢が心静かに暮らせる場所に案内しましょう。
 私が必ず御守りします。
 私が側にいられない時には、代わりの護衛を用意します。
 ファーモイ王家、いえ、今回の陰謀に加担した者への報復は、必ず私が果たしますから、我慢してくださいますか?」

 デイジーは真金の騎士を信じた。
 危急を助けてもらったというのもあるが、それだけではなかった。
 なぜか、本能がこの人は信じられると教えていた。
 そしてその本能をデイジーは信じた。
 そもそも真金の騎士がいなければ、誇りと貞操を守るために死んでいたのだ。

 そして真金の騎士が案内してくれた家は、本当に小さかった。
 だがそれは公爵令嬢のデイジーだから小さいと感じるだけだった。
 領地持ち騎士の小城に匹敵する大きさがあるのだ。
 古い時代からある由緒ある騎士家では、戦国時代には領民を城に収容して、一緒に敵と戦っていた。
 だからそれなりの広さと堅牢さを持っている。
 そして周囲には水田や畑が広がり、何ともいえない美し光景となっていた。
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