六度目の転生は異世界で

克全

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第一章

第33話:予言王

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教会歴五六三年十一月(十四歳)

 俺はアントニオ叔父上とロアマ人商人達の案内で、中部の都市や村を次々と降伏させていった。
 叔父達が事前に降伏勧告をしてくれていた効果もあるが、俺が天然痘の予防法を神から啓示された予言者であるという評判が効果的だった。
 しかもその予言者が、民を飢えから救う食糧を運んできたというのだから、ロアマ人に奴隷にされていた者はもちろん、下層ロアマ人も進んで奴隷になった。

 今までの俺は、ロアマ人貴族やロアマ人富裕層の家財所有を認めてきた。
 急な方針転換は混乱を呼ぶので、今回も認める心算だった。
 分家や戦士はもちろん、従属民も奴隷も俺の方針に逆らわなかった。
 だが、ロアマ人貴族や富裕層に虐げられていた人々は、俺が都市や村に近づくと、一斉に蜂起して今までの恨みを晴らしたのだ。
 俺が到着した時には、ロアマ人貴族や富裕層は虐殺された後だった。

「俺が都市や村を支配下に置くまでの間に起こった戦いは関知しない。
 無慈悲な支配から逃れるために蜂起した者を処罰しない。
 だからといって、我々に反抗していいと言っているわけではない。
 弱い者が強い者に逆らえば罰せられ殺される事もある。
 我らに逆らう時は殺される覚悟でやれ、いいな」

「神の予言者であられるレオナルド様に逆らう気などありません。
 それに、主人としての責任を果たしてくださる方には喜んで仕えます。
 ですが、この都市の貴族や金持ちは主人の義務を果たしませんでした。
 レオナルド様が神から啓示を受けられた疫病の予防法があるのに、貴族や神官や金持ちはローマの神の教えに反すると取り入れず、多くの者を殺しました。
 しかも少ない食糧を独占して、我らを飢えさせ、弱い女子供を死なせました。
 だからその報復として貴族や神官や金持ちを殺しただけです。
 レオナルド様達ランゴバルドの方々が、我々を病や敵から護ってくださり、飢えさせることがないのなら、決して逆らいません、誠心誠意お仕えさせていただきます」

 ロアマ人貴族や神官や金持ちに叛乱を起こした連中の代表が滔々と答えた。
 なかなか弁の経つ男だが、本当に信頼できるかどうかは、これから実際に行う事を見て判断するしかない。
 だが少なくとも、この男達が俺達ランゴバルド人を裏切ってロアマ人に寝返る事だけはない。
 今回の件でロアマ人がこの男達を受け入れる事がなくなったからだ。

「そうか、ではその言葉が本当か確かめさせてもらう。
 貴族や金持ちから奪った家や金銀財宝を渡せとは言わない。
 だが、生き残った貴族や金持ちの女子供を奴隷として所有する事は許さない。
 それに、都市内外の農地は我々ランゴバルド人のものだ。
 これは今まで降伏してきたロアマ人貴族や金持ちと同じ待遇だ、異議はないな」

「ございません、貴族や金持ちを同じ待遇にしていただけた事を心から感謝します」

 このような騒動は、俺が直接の乗り込んだ主要都市だけでなく、分家や戦士に任せた小都市や村でも同じだった。
 ロアマ人下層民や他民族の奴隷の多くが、ローマの教会が神と崇めるモノの存在を疑い、一斉に信心を捨てた。
 旧の神をゴミクズのように捨てて、天然痘の死から人々を救ったランゴバルドの神を信じる者が大半だった。

 そんな棄教者や離教者が、新たに心から信じたのは予言者である俺だった
 奪うだけで現世的になにも与えなかったローマの神官達に比べれば、俺は貧しき者や弱き者を救うために身銭を切って炊き出しを行っている。
 しかも俺の教え通りにすれば、今までの数倍の麦が実り収穫できるのだ。
 一度でも麦を育てた者から見れば奇跡としか思えない成果だ。
 そのやり方をランゴバルドの神から啓示されたと聞けば、苦しい状況で生きている者ほど、以前の神を捨ててランゴバルドの神を信じるようになる。

 全てが順調に進んでいるように見えるが、心配していた事もあった。
 俺の外征に合わせて、オーク王国、ロアマ帝国、サージャ魔帝国、イーラ魔教国、ジェノバ公国、ランゴバルド諸公国が攻めてくる事も考えていたのだ。
 可能性はとても低いと思っていたが、一応対策は考えていた。
 だが予想通り、どこも攻め込んでは来なかった。
 どこの国も天然痘による被害が多過ぎて、国外に討ってでる余力などなかった。

 特にロアマ帝国は悲惨な状況になっていた。
 ロアマ帝国領に攻め込んだ者達が数多くいたのだ。
 俺が追い払ったランゴバルド系難民騎馬部族の襲撃だけではなかった。
 アヴァール騎馬王国を筆頭に、幼い頃から牛馬の世話をして、知らず知らずのうちに天然痘の免疫を持っていた、騎馬民族が全く損害を受けていなかった。
 そんな国や部族が、弱ったロアマ帝国領に怒涛の勢いで侵略したのだ。

 ロアマ帝国は最初戦って領地を守ろうとしたが、全く相手にならなかった。
 それでなくても怠惰になったロアマ人に騎馬民族と戦う力などない。
 しかも天然痘で大被害を受けているのだから、鎧袖一触で負けた。
 そこでロアマ帝国は、騎馬民族以外の領外諸部族に官職を与え、ロアマ領内に領地を与える条件で騎馬民族と戦うように依頼した。

 だがそのような策はまったく無意味だった。
 騎馬民族以外の遠方部族は、いまだ天然痘被害の真っ最中だった。
 だからどれほど有利な条件をだそうと、応じる遠方の部族はいなかった。
 次にロアマ帝国が使った策は、広大な帝国領の各方面を襲ってくる騎馬王国や騎馬民族に宝物を与え、他の騎馬王国や騎馬民族と戦ってもらう事だった。
 以前ランゴバルド人を傭兵としてイタリアで戦わせたのと同じ方法だ。

 だが、そのような策が通じるほど騎馬民族は馬鹿ではなかった。
 強敵の騎馬民族どうして争うよりは、著しく弱体化したロアマ帝国領に侵攻して略奪の限りを尽くした方が、手に入る富も多ければ損害も少ない。
 むしろそのような策を弄した事で、ロアマ帝国に戦う力がない事を全ての騎馬民族に教えてしまう事になった。

 打つ手を失ったロアマ帝国は、ランゴバルド王国に助けを求めてきた。
 以前我々を使って一度はイタリアを奪還できたことを思い出したのだろう。
 今我らが占領している土地の所有権を認め、ロアマ帝国と対等の同盟国とみとめるので、残るイタリア領を攻めずに騎馬民族の領地を奪ってくれていう、信じられないくらい身勝手でロアマ帝国側に都合のいい条件だった。

 そんな不利な条件で精強な騎馬王国や騎馬民族と戦う必要など全くない。
 だから使者には条件が悪すぎると言って追い返した。
 アルボイーノ王なら怒りのあまり使者を殺していたかもしれないが、俺はそんな事をせず、条件闘争に持ち込んだ。
 損害に見合う報酬を前渡ししてくれるのなら、喜んで受ける。
 争うことなく追い出した氏族長がたくさんいるのだから。
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