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12話

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「ありがとうございます。
 お陰様で命拾いしました。
 これはお約束していたお礼の金貨二千枚です。
 お確かめください」

 万能薬で助かったバルナベが、私の事を女神を見るような眼で見ています。
 心から感謝してくれているのが明らかです。
 後ろで微笑んでいるアルバンが怖いです。
 アルバンの眼は完全に大商人のモノに戻っています。
 私の事を金を生むガチョウのように見ているのかもしれません。

 ですが、大商人だけあって、口約束でも約束は守ってくれます。
 仕入れか支払いのための大切なお金でしょうに、手持ち金貨の大半を、なんの躊躇もせず支払ってくれました。

 ただ同時に、大商人らしく、手に入れた万能薬を高く売るための方策を考えているようで、近隣の村に手紙を出しています。
 この時も約束を守って、護衛はこの村に止めて、この村の猟師に手紙を届けさせる気の使いようでした。
 たぶんですが、私の機嫌を損ねないためでしょう。
 私に全く戦闘力がないのか、それなりの戦闘力を持っているのか確かめるまでは、敵対しないようにしているのだと思います。

「レオルナ様。
 私が売っていただいたエリクサーは、他にもあるのでしょうか?
 手持ちのエリクサーが全部売れたら、新たに売っていただく事はできるのでしょうか?」

 ここまで来たら、拒否してもまったく意味がありませんね。
 ここは素直に売ってあげてもいいでしょう。
 ただ、お互いのためにも言っておかなければいけない事がありますね。

「ええ、大丈夫ですよ。
 ただ作るのに結構時間がかかってしまいます。
 使う素材にも珍しいものが必要ですし、季節が限定される素材もあります。
 ただ一番問題なのは、効果が現れない国があるという事です」

「え?!
 エリクサーなのに、国によって効果が現れないなんて事があるのですか?!」

「この薬は、私に加護を与えてくださった神の恩恵で成り立っています。
 素材や作り方も大切ですが、神の加護が加わってこそ効果があるのです。
 私に加護を与えてくださった神から憎まれている国では、効果が現れないのです。
 それだけは絶対に忘れないでください。
 それを言い忘れて売ったりすると、商人としての信用を失ってしまいますよ」

 アルバンが真剣に考えています。
 バルナベも思案顔です。
 確かに商品として売るなら、神の加護で有無で左右される薬は売り難いでしょう。
 一個金貨二百枚で仕入れた薬ですから、蘇生の奇跡がない国や最高治癒術のない国で、金貨二千枚で売るつもりだったのかもしれません。
 でも、こんな条件が付いてしまったら、売値が低くなってしまいますね。
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