男爵令嬢は伯爵令息に婚約破棄されましたが王太子に求婚されました。

克全

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5話ディラン王太子視点

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 許せなかった。
 怒りが湧きあがり、激情でこの身が焼かれるかと思った。
 だから情け容赦なく怒りを叩きつけた。
 法も論もなかった。
 ただ怒りと憎しみだけで政治を行った。

 自分の中に、こんな身勝手で汚い所があるとは思っていなかった。
 自分はもっと理性的で知的だと思っていた。
 自分なら、将来の王に相応しい、知的で公平な行動をとれると思っていた。
 だが違っていた。
 自分は激情の人だった。

 初めてエミリーと会ったのは、エミリーとダニエルの婚約が内諾された時だった。
 内諾とはいえ、貴族家同士の婚約だ。
 王族が見届けなければいけない。
 リヴァン男爵家と同格の家が内諾披露をするのなら、時と場合によれば王族ではなく寄り親だけが来賓の場合もある。

 だがあの時は、一方がヘイスティングズ伯爵家だった。
 没落寸前とはいえ、伯爵家は上級貴族だから、王族が見届けなければならない。
 だが自分が来賓になったのは偶然でしかなかった。
 普通なら伯爵家と男爵家の内諾ならば、傍系の王族が行くのだが、たまたま予定が空いていたのだ。

 王太子の義務としてだけで参加した舞踏会だったが、エミリーを一目見て全身を衝撃が駆け巡った!
 心臓が早鐘のようにうち、血液が沸騰したように熱くなった。
 一瞬なにも分からなくなった!

 正気を取り戻すまで、どれくらい放心状態だったかもわからない。
 身体中の理性と胆力を搔き集め、必死で平静を取り繕った。
 それでも顔が火照るのを止められなかった。
 震える手足を抑えるために、足を床に押し付けるようにして、手は強く握った。
 タイミングを見計らって、一目惚れしたエミリーの名を聞こうとした。

 だが、聞く前に紹介されてしまったのだ!
 ヘイスティングズ伯爵から、息子ダニエルの婚約者エミリーだと!
 今度は絶望が全身を駆け巡った!
 眼の前が真っ暗になった!
 その場に崩れ落ちそうになる足に叱咤激励し、平静を装った!

 その日から、毎夜夢の中にエミリーが出てくるのだ。
 破廉恥な夢を見るのだ!
 いけないと自分を戒めてもどうにもならなかった!
 逆に自分を戒めるほど、エミリーに破廉恥な行いをする夢を見てしまう。
 寝不足で白昼夢にエミリーが現れるほどだった!

 恋の狂気に囚われて、王太子の権力でエミリーを奪うことまで考えた。
 心の暴走を抑えるためには、理性を総動員しなければいけなかった。
 王太子の義務と責任を考えても暴れだしそうになるエミリーへの想いを、必死で抑えてきたのだ。
 
 それを、あの腐れ外道どもは、平気で踏みにじった。
 よき王太子であろう、よき主君であろうと抑えてきた想いを、単なる損得や銭金で踏みにじったのだ!
 もう王太子の面目や主君としての帝王学など知った事か!
 自分の欲望を忠実に生きるのだ!
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