奴隷魔法使い

克全

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王都編

草梁倭館・和人奴婢

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 『朝鮮・草梁倭館』

 「大和次席大臣閣下・大和次席大臣添役閣下、遠路遥々このような異国の地に足を運んでいただき感謝いたします。」

 「いやいや、対馬伯爵直々に朝鮮国と交渉してくれたと聞きました。御蔭でこのような早期に競売が開催出来た事、感謝に耐えません。」

 「お褒めに預かり恐悦至極でございます。最初は異論も多くございましたが、両閣下が長崎で競売為された海魔獣・海魔竜の評判が清国内で著しく高く、朝鮮国内で競売出来ればよいと言う意見が大勢を占める様になりました。」

 俺と彩が長崎で初めて海魔獣・海魔竜を競売してから10日後に、清国商人と琉球国商人が長崎に大集結し、恐らく世界初の品種が前回・前々回の競売に掛けられたのだろう、多くの商人達が再度の競売を長崎奉行所・長崎会所に願い出た為に、俺と彩が佐渡島沖で獲物を狩って再度出品したのだ。

 翌日に開催された第3回に海魔獣・海魔竜長崎競売も大盛況で、第1・2回を超える最高値を記録して落札された。落札した商人達は風魔法を使って、誰が1番に首都・北京に商品を持ち込むかを争い、目端の利く商人は南蛮人の拠点に運び高値で売り払おうと急いだ。

 3回の競売で大量の品が輸出され、清国・南蛮諸国の東インド会社で大評判となり、値崩れを起こすどころか高値を更新し、更なる商品を求めて商人が長崎に訪れるようになった。そして商人達は揃って競売の定期開催を長崎奉行所・長崎会所に願い出た。

 俺と彩が全権責任者として5日毎の競売の開催を約束し為、長崎の盛況は史上初の勢いで、異国商人達が莫大な商品を持ち込んだ為、今まで高値を付けていた異国商品が暴落し、異国商人達は海魔獣・海魔竜を落札する為に莫大な金銀財宝を我が国にもたらした。

 この評判が対馬伯爵家と朝鮮国を動かしたのだろう。最初に朝鮮国に草梁倭館での競売を打診してから30日後に許可が下りた。和館内で朝鮮・清・南蛮商人を集めて開催された第1回草梁倭館競売は大盛況で、1割の手数料収入が有った対馬伯爵家は困窮していた財政が一気に改善された。

 「あの者達は何なのだ!?」

 俺は怒りが抑えられずに強い口調で対馬義方伯爵に訊ねてしまった。彩も面前の光景を心から嫌悪している。

 「あれは朝鮮の貴族である両班やんばんが、奴婢のびを懲罰しているのです。」

 義方伯爵が一切の感情を表に表さず、朝鮮国内での身分差による正当な行いだと簡潔に説明するが、我が国との余りの違いに心が納得しない。

 「しかし公衆の面前で下半身を露わにして、人の尻を打擲ちょうちゃくするなど真面まともな人間が行う事では無い!」

 「大和次席大臣閣下、声が高いですぞ! ここは和館内とは言え朝鮮国内にあるのです。朝鮮の風俗を全て排除する事は出来ないのです。」

 確かに我が国と朝鮮では風俗が違う、郷に入れば郷に従えと言うのは正しいのかもしれない、だが少なくとも彩の目にこのような下劣な光景を写すわけにはいかない。

 「大和次席大臣閣下、御金は十分有るのですからこのような下劣な地に無理に訪れる必要は無いのではありませんか。」

 彩が内心の怒りを抑えながら、添役として和館での競売を取り止める事を静かな言葉使いで提案して来た。他人が聞いても彩の怒りを感じることは出来ないだろうが、彩がこれほど積極的に献策する事など過去に無かった事だ、面前の光景にどれほどの憤りと怒りを覚えているかが分かる。

 「そうだね、このような下劣な行いが横行する様なら、和館自体を廃止する方がいいかもしれない。」

 「添役閣下、次席大臣閣下、和館は我が国と朝鮮国が長年に渡って交流して来た場です、軽々に廃止していいものでは無いでしょう。」

 対馬伯爵は必至で抗弁してきた。対馬家にとって和館は財政の柱であり、もし廃止となれば家を維持する事が出来成るほどの大打撃になる。

 「殿、奴婢の館内への出入り禁止を朝鮮国に申し入れては如何でしょうか?」

 俺達一向に付き従っていた、対馬家の朝鮮方佐役(朝鮮担当部補佐役)雨森芳洲が、主君・対馬伯爵に提言するように見せかけて俺と彩に献策して来た。確かに利益だけを考えればそれでもいいだろう、だがこのような人権無視の制度を他国だからと言って見過ごしてもいいのだろうか。

 「大和次席大臣閣下、見て見ぬ振りは敵と同じでございます。国王陛下や歴代の国王陛下の博愛の精神で始められた王家・王国の奴隷制度を考えますと、我ら2人がこの行状を黙認するだけでなく、手を貸すような真似をする事は絶対許され無い事です。」

 「和館の廃止は全権を預かっているとはいえ、余と添役で決めるのは対馬伯爵が言われるように憚(はばか)られるな。だが競売は大和家個人の事だから2度としない事にしよう。」

 先ほどからの会話が打擲されている両班と奴隷にも聞こえていたのだろう。下劣な両班は俺達に見せつける様に奴婢を激しく打ち据えている。苦痛にうめき泣きわめく奴婢の中に俺達の会話が理解できるのだろうか? 顔に羞恥の感情を浮かべながら、眼に哀願の気持ちを込めて此方を見つめる者がいる。まさか!

 「対馬殿! まさかとは思うが我が国の民が朝鮮の奴婢として売られているのではないな! もしそのような事実が有るのなら対馬家を攻め滅ぼす!」

 矢張り俺の言葉が理解できるのだろう、2人の中年女性の奴婢が驚愕の表情を浮かべ、眼に僅かな期待が籠ったような気がする。

 「大和次席大臣閣下、そのような事実は一切ない! 我が対馬家が奴隷売買に係わった事は一切ない!」

 「殿! それは少々間違いでございます。我が対馬家が奴隷売買に係わった事はありませんが、闇で奴隷売買する密貿易団は存在しております。その為哀しき事ながら少数の和人奴婢が朝鮮に存在致します。」

 雨森芳洲は目の前で打擲されている奴婢の中に、我が国民がいる事に気付いたのだろう。主君・対馬伯爵の言葉を訂正しなければ、対馬家の改易も有り得る咄嗟とっさに会話に割り込んで来た。

 「そちは芳洲と言う名であったな? 朝鮮方佐役であるとも言っていたな? ならば朝鮮の事には詳しいであろう。次席大臣として王国を代表して公式に聞く、朝鮮に売られた我が国民は幾人にいる!」

 俺の抑えきれぬ怒気を含んだ声に周囲が凍り付く、楽しそうに奴婢を打擲していた両班も棒を振り上げた姿勢で固まっている。

 「それは・・・・確かな人数は分かりません。」

 「人数が分からないのに少数と断言したのは何故だ! 王国の全権大臣に嘘偽りを言いだます心算であったか! 返答次第ではこの場で切り捨て対馬家の改易も有ると心得しかと答えよ!」

 俺は最早怒りを抑えきれず、抜き手も見せずに圧縮強化岩製の刀を魔法袋から取り出し芳洲の首に押し当てた。

 「先の全権は新井火石様でございました。貴族家は王家・王国の威光を笠に着た役人に逆らう事は出来ません!」

 「王国の命令でやった事で対馬家に責任は無いと言いたいのか? 国王陛下がそのような愚劣な命令を下すと思ったのか!」

 「王国の財政は火の車でございました。新井火石様は国王陛下の寵臣であられ、王国の財政再建の為に陛下が苦渋の決断を成されたが、この事は絶対諸侯にも民にも知られてはならぬ秘事であり、長崎で行う事が出来ぬ悪行でも有る。対馬家だけに全てを止めて行うようにと命じられては逆らう事など出来ません!」

 芳洲の死を賭した弁明には3つの理が有る。火石が陛下の寵臣であった事は事実だし、異国取引の全権責任者であった事も事実だ。そして貴族家は王家・王国の命には逆らえない。これを無視して対馬家を処分すれば陛下の恥の上塗りに成る、ここは今出来る事をやるしかない。

 「ならば王家・王国の全権大臣として命じる! 朝鮮にいる全ての和人奴婢を買い戻せ! 資金は全て大和家が責任を持つ、しかし奴婢購入に不正が有れば今度こそ対馬家改易して全ての家臣を殺す!」

 先程からの俺と芳洲の舌戦に顔面蒼白となり、何をどうすればいいのかもわからず、唯々狼狽するしかなかった対馬伯爵に命令したが、伯爵は機械仕掛けの人形のように首を立てに上下するだけで、何の言葉も発する事が出来ないでいた

 一方和人であろう奴婢達の顔には喜びの表情が溢れ、眼は期待に満ちていた。ここは即座に行動すべきだろう。

 「芳洲、両班にこの事が知られれば不当に和人奴婢の値を吊り上げるだろう。和人鮮人に係わらず奴婢を購入し、鮮人奴婢だけ再販売して事の露見を防いで和人を取り戻せ。先ずは今ここにいる奴婢を買い取って見せよ!」

 俺の怒りに固まっていた両班が、俺達に見せつける様に奴婢への打擲を再開しだした。俺達が打擲される奴婢を見て、怒りを表したり哀しんだりする姿が嬉しいのか楽しいのか、性根の腐った奴らだ。だが幸いここにいる朝鮮人に俺達の会話を理解できる者はいなかったようだ。

 俺は芳洲に1000万銅貨分の金銀を与えて奴婢の買取を任せた。芳洲は長年和館で朝鮮方佐役を務めただけあって両班とも交流があったのだろう。多少値段交渉で言い争いはあったものの、目の前にいる奴婢を全て買い取ってくれたようだ。

 「大和様全ての奴婢を買い取る事が出来ました。この後はいかが致せば宜しいでしょうか?」

 「鮮人奴婢は対馬家で預かり、購入価格と同貨で再販売する努力を致せ。それまでは対馬家で使役する事を認める。和人奴婢は余の奴隷として国に連れ帰るから、先ずは食事を与え、余と同じ盥空船に乗れるように、入浴させた上で衣服を揃えておけ。」

 俺と彩はまだ側にいる両班に悟られぬように、何食わぬ顔と言うより冷たく蔑むような目で奴婢をねめつけた。

 (彩、朝鮮人の目が届かない所まで行ったら彼女達を安心させてやってくれ。)

 (心得ています、殿様の御決断は素晴らしいと思います。私は何が有っても殿様に付いて行きます。)

 (ありがとう。問題は根本は朝鮮では無い、そもそも国民・領民を売り払う我が国の貴族士族に問題が有るんだ。)

 (そですね、それにこの前助け出した者達の様に、我が国にも闇の中の奴隷が存在します。他国の事を口出しする前に我が国の奴隷達を助け出しましょう。)

 俺と彩は秘かに念話で打ち合わせするが、闇奴隷売買の犠牲になる直前だった彩にとっては他人ごとではないのだろう。朝鮮の和人奴婢は対馬家に任せるとして、俺達は国内の闇奴隷売買一味を炙り出して殲滅する事を優先しよう。 
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