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征東大将軍

第139話:一八三五年、同盟と傭兵と内乱

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 俺は軍師役達に相談しながら、シベリア戦線でロシア軍と戦う現地の若党隊組長や組長達を指揮する千騎長に、同盟締結や家臣採用までの大きな権限を与えた。
 コーカンド・ハン国、ブハラ・ハン国、ヒヴァ・ハン国との同盟や開戦までの権限を与える事で、ロシアとの戦争を有利に運ぼうとした。
 そこまでやったのは、トルコ方面とポーランド方面でロシアが優勢になり、このままではロシア主力軍がシベリア方面に派遣される恐れがあったからだ。

 ヒヴァ・ハン国は、カスピ海の東方、アラル海の南半分を覆うような一体、アラル海に注ぐアムダリヤ川の下流及び中流地域を支配する国だ。
 テュルク系のイスラム王朝なのだが、一八〇〇年頃までは北方に居住するチンギス・ハーンの子孫をハンとして傀儡にしていた。
 だがイルテュゼルという者が、アブル・ガーズィー五世を廃位して自らの王朝を開いたために、内乱と周辺国との争いが起こり、周辺国共々国力を衰退させていた。
 そこを強大な軍事力を背景にしたロシアに突かれ、属国なるかならないかの瀬戸際に追い込まれていたのだ。

 ブハラ・ハン国は、現在のカザフスタン共和国の辺りを支配する国だ。
 ヌル・アタ山地とカザフ高原を含む、ゼラフシャン川流域からアム川流域にまで及ぶ広大な地域で栄えた諸テュルク系イスラム王朝だ。
 シャイバーニー朝とジャーン朝の間はチンギス・カンの男系男子の系統だったのでハン国を名乗っていた。
 だがムハンマド・ラヒームがアブル・ガーズィーを廃してマンギト朝を開いてからは、チンギス・カンの男系男子の系統ではなくなったので、ハンを名乗ったりアミールを名乗ったりしていたが、今はアミールを名乗っている。
 だが、ハン連合を組んでロシアと戦ってもらう心算なので、ブハラ・アミール国ではなくブハラ・ハン国として遇する。
 この国も周辺国との争いで国力を衰退させロシアに圧迫されていた。

 コーカンド・ハン国は、フェルガナ盆地を中心にウズベキスタン共和国東部からキルギス共和国、タジキスタン共和国に広がる地域を支配しているのだが、石油や天然ガスを埋蔵しているので、できれば同盟ではなく支配下に置きたい国だ。
 当初は清国の属国として朝貢関係を結んでいたコーカンド・ハン国だが、今では北はバルハシ湖から西はシル川流域にまで勢力を広げていた。
 一八二六年には、ジハーンギールを支援して新疆で清国に叛乱を起こさせ、一八三〇年には清国と講和を結び、新疆で特権を得ていた。
 こう言う状態だから、清国と話をしてコーカンド・ハン国を松前藩が討伐する可能性を秘めている事にもなる。
 対外的には繁栄しているコーカンド・ハン国だが、重臣達の内部対立は激しく、カザフとキルギスの遊牧民たちの叛乱も絶え間なく起こっている。
 何よりハン国を名乗っているにもかかわらず、建国当主からチンギス・カンの男系男子の系統ではないのだ。
 卑怯ではあるが、討伐支配の可能性を探りつつ友好関係を結んでいく。

 後はガージャール朝ペルシャ、カザフ・ハン国、クリミア・ハン国をどうするか。
 特に敗勢著しいクリミア・ハン国の処遇をどうすべきかだが。
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