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第一章

第5話:競売会

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「兄上、あそこにおられるのはサリー王妃殿下ではありませんか?
 お忍びのようですが、ご挨拶した方がいいのではありませんか?」

 リアナの言う通りだ、ここは密かに声をかけておいた方がいい。
 だがそうなると、サリー王妃殿下が欲しがっている宝石は、優遇して回さなければいけなくなるのだが、そうすると自由な競売ではなくなってしまう。
 他の参加者に遠慮しろと言ってしまうと、談合を認めてしまう事にもなる。
 ここでは競売に従って宝石の売って、次に宝石を創り出す時に、今回の値段を参考にしてサリー王妃殿下に献上した方がいいだろう。

「ああ、そうだな、私も挨拶に行くが、リアナもついてきなさい」

 どれほど効果があるかは分からないが、ここでサリー王妃殿下とリアナが親密になれたら、非常時に庇ってもらえるかもしれない。
 サリー王妃殿下のひと言で、処刑が追放になる可能性もあれば、追放が幽閉になる可能性もあるから、優遇できるところは優遇しておいた方がいい。
 後々献上すると耳打ちしておけば、無理な競い合いをせずにすみ、国庫に負担をかけないで済む可能性もある。
 それとも、王家の信望を落とすために、サリー王妃殿下が愚行を重ねるように仕向けた方がいいのか?

「はい、兄上、ご一緒させていただきます」

 俺が仕向けた事とはいえ、今回の競売は、マルケス商会のオスカーが生き残りをかけて全力を投入している。
 単独では全ての宝石を買い占めることができないと判断して、得意先の貴族に欲しい宝石を原石の状態で手に入れられると声をかけて、全ての宝石を買い占める体制を整えている。
 他の商家に王国一の座を奪われるのがよほど怖いのだろう。

「サリー王妃殿下、ラゼル公爵家のキャメロンとリアナでございます。
 このような場所までご足労いただき感謝の言葉もございません。
 生れて初めて宝石を扱ったので、色々と失敗や無礼があるかもしれませんが、どうかご寛恕願います」

「兄キャメロン同様失敗や無礼があるかもしれませんが、ご寛恕願います」

「まぁまぁまぁ、私はお忍びですから、そんなに気にしないでいいのよ。
 そう、宝石を初めて扱うの、それでは仕方ありませんね。
 では教えておいてあげますから、覚えておきなさい。
 下級貴族が宝石などの高価なモノを扱うと、上級貴族にあれこれと難癖をつけられて、高価な宝石を奪われてしまうのです。
 だから力のないモノは高価なモノを扱わない方がいいのです。
 ラゼル公爵家ならば力づくで奪おうとする者はいないでしょうが、あまりに見事なモノを使うと、それを手に入れられなかった者達の恨み嫉みを買うことになります。
 ほどほどにした方がいいですよ」

「貴重な教えありがとうございます、お陰様で大事に至らなくてすみます。
 御礼とさせていただくには些少過ぎますが、次に宝石が運ばれていた際には、競売前に御見せさせていただきますので、妬み嫉みを受けそうなモノがあればお教えください、献上させていただきます」

「まあ、よく分かっていらっしゃる、流石ラゼル公爵家の跡継ぎですわね」
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