悪役令嬢の妹を助けたい、ただそれだけなんだ。

克全

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第一章

第28話:聖旅・リアナ視点

 私はとても不幸です。
 私ほど不幸な貴族令嬢はどこを探してもいないと思います。
 貴族に政略結婚はつきものですが、父や兄弟が屑なら、政略結婚の相手が同じような屑でも、見劣りするという事はありません。
 ですが私の兄は、聖者も英雄もはだしで逃げ出すような貴公子なのです。
 そんな兄を幼い頃から間近で見続けたら、並の貴族公子は塵芥も同然です。

「兄上様、私だけでこの一行を宰領するのですか」

 私は思わず確認してしまいました。
 王都の平民人口は一万人を少し上回る程度です。
 王家直属の騎士や徒士を入れれば、三万人を超える時もありますが、彼らは領地と王都を移動するので、季節によって増減が激しいのです。
 今は民の暴動直後で領地から強制動員されていて、その分領主軍の下級兵による暴行強姦略奪が横行していて、我が家に助けを求めてきた平民が多かったのです。
 そんな平民を移民として受け入れ、ロスリン侯爵領まで無事に連れて行くのです。

「大丈夫だよ、王都屋敷に勤めていた家臣達と、雇った傭兵団と冒険者を全員付けるから、なんの心配もいらないよ。
 万が一の事を考えて、リアナを護る傀儡を作ったから、王家が命じてても側から離してはいけないよ。
 眠る時も入浴する時も一緒にいるんだ」

「ミャアアアア」

 兄上様が創り出したと言われる巨大なバロンが、姿形にそぐわない可愛い声で鳴いて身体を摺り寄せてきます。
 本当に信じられない規格外の兄です。
 いくら妹が可愛いからといって、魔晶石と魔皮と魔樹を組み合わせて、一晩で伝説の魔獣を十体も創り出しますか。
 こんな兄と比べてしまったら、カミーユ王太子など塵屑同然です。

「よしよし、お前は可愛いね。
 この子の名前は何というのですか、兄上様」

「名前か、名前は考えていなかった、さて、どうしようか。
 一頭だけ名前を付けてしまったら、他の子に可哀想だしな。
 だからといってホイホイと名前など思い浮かばんし。
 仕方がない、今はリアナの側を離れない子の名前だけ付けておこう。
 この子はタマだ、タマと呼んであげなさい」

 唯一兄の弱点は、ファッションとネーミングのセンスがない事です。
 伝説の聖獣に、意味もないタマなどという名前を付けるの兄だけで、他の者なら思い入れたっぷりの名前を付ける事でしょう。
 いえ、それ以前に、王都の民を救う旅を自分で差配しています。
 タマ達がいれば、王家も有力貴族も手出しできません。
 王都一万の民のうち七千人も救ったら、聖者の名声を得て王を宣言してもおかしいくないのに、そんな欲望などひとかけらもないのです。

 全ての名声を私にくださるのです。
 こんな兄の姿を幼い頃から見続けてきては、他の男性と結婚などできません。
 せめて父か母が別だったら、異父婚や異母婚を認める国に臣従してくださいとお願いできたのに、父も母も同じだなんて不幸過ぎます。
 私が結婚したくないと言ったら、許してくださるでしょうか。
 せめて一生兄の側にいられたら……
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