悪役令嬢の妹を助けたい、ただそれだけなんだ。

克全

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第一章

第29話:食糧生産・リアナ視点

 多くの王侯貴族や代理の者が、私の一挙手一投足を見ています。
 緊張で足が震え嫌な汗が背中を流れます。
 表情に不安と恐怖を浮かべずに笑みを浮かべられるのは、長年の鍛錬です。
 貴族としての矜持だけではなく、生き延びるための技として兄に教わりました。
 だからこそ、今こうして立って話すことができるのです。

「お忙しい中集まってくださった事、心からお礼申し上げます。
 今から行うのは、穀物を早く成長させて収穫量も増やす魔術です。
 莫大な魔力を必要としますが、これがあれば食糧問題が解決します。
 今マライーニ王国は食糧不足で困っておりますが、私が食糧を増産して問題を解決しようと思います」

 多くの王侯貴族とその代理人が、疑いの目で私を見ています。
 他の誰かが同じ言葉を口にしたら、私も疑いの目を向けたでしょう。
 何か詐欺を仕掛けようとしていると思った事でしょう。
 ですが私はもう知っているのです、兄なら一日で種から収穫まで促成することを。
 今から私がやる事は、兄から比べれば児戯に等しい事を。
 だから失敗の恐れなど微塵もありません。

 私が驚いているのは、目の前に広がる広大な水田です。
 昨日までこんなモノはありませんでしたから、兄が一晩で作りだしたのです。
 田一枚の広さで、男性が一年間生きていけるだけの収穫があります。
 その田が二万枚もあるのですから、これだけで二万人が生きていけるのです。
 それは二万人の兵士を養えるという事でもあります。
 食糧生産力は軍事力に直結するのです。

「では、始めさせていただきます」

 私は兄から教えられた呪文を唱えます。
 兄の教えでは呪文など不要なのですが、王侯貴族と代理人に見せつけるための演技なので、無駄を承知で唱えるのです。
 田に植えられた目の前の苗が信じられない速さで成長していきます。

 同時に莫大な魔力が身体から流れ出しますが、直ぐに魔晶石から補充されます。
 魔法袋には、兄が魔力を込めてくれた巨大な魔宝石ははいっているのです。
 このような巨大で美しい魔宝石など初めて見ました。
 こんな魔宝石を持つ存在など、古代竜しかいないと思うのですが、兄は古代竜を斃してこれを手に入れたのでしょうか。

「おおおおお、なんという事だ、もう実り出したではないか。
 これでは毎日収穫ができるではないか」

 王侯貴族の一人が驚嘆していますが、流石にそれは無理です。
 種蒔きや苗を植えるのはもちろん、収穫や天日干し、地力を回復させるのに結構な日数がかかります。
 でも、それを考えて、一度に全部の田を同時に成長させるのではなく、農民の労働力にあわせて少しずつ成長させれば、年に五回程度の収穫は可能でしょう。
 この行動は、あくまでマライーニ王国の食糧高騰対策です。
 この噂が大陸中に流れれば、買い占めしていた悪徳商人達も、穀物価格の暴落を恐れて、急いで穀物を売ろうとするだろうと、兄が言っていました。
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