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第一章

第25話:舞踏会4

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「エドアルドお義兄様、一曲踊っていただけますか」

 マリアお嬢様が今日三曲目のダンスを誘ってくる。
 これは明らかなマナー違反だ。
 国や地域によって違うが、同じ男性を踊っていい回数には上限がある。
 同じ男性と三回以上踊ってしまったら、相手が独身の場合は婚約が整ったと思われてしまい、既婚男性だと側室や妾になることを承諾したと思われてしまう。
 ここに集まっている王子や公子達は、その誤解を盾にマリアお嬢様との婚約が整ったと主張しかねない連中だ。

 だからこそ、公王陛下や俺が回数を見張っているのだが、今回はマリアお嬢様と公王陛下が組んで、俺を公国に止める策を弄してきた。
 前回に話し合った時から、こうなる可能性は考えていた。
 俺が公国に留まる事に、公王家や公国に全く利がないとは言わない。
 公国の家臣領民が一致団結して敵対する国や貴族に当たれる利はある。
 だが、多少家臣領民が公国を離れる事になっても、マリアお嬢様と俺が婚姻政策を行って、大国と軍事同盟を結ぶ方が利は大きいのだ。

 今はマリアお嬢様と俺という優良な婚姻政策の相手がいるから、大陸中から王族や有力貴族の子女が集まっている。
 マリアお嬢様と俺の婚約者を選ぶために、大陸中の王侯貴族に招待状を送って晩餐会や舞踏会を開催しているからだ。
 だからマリアお嬢様と俺が結婚してしまったら、そんな王族や有力貴族からとても大きな恨みを買う事になる。

『マリアお嬢様と俺を結婚させるのなら、最初からこのような晩餐会や舞踏会を開くな、それでは詐欺だろう』と思われてしまうのだ。
 公王陛下とも思えない失策だと言わざるをえない。
 だが、その気持ちも分からない訳ではない。
 俺だったマリアお嬢様は可愛いし、想い通りにさせて差し上げたい。
 だがそれがマリアお嬢様の名誉を傷つけるような事なら話は別だ。
 まして今回は大恩ある公王陛下の名誉まで傷つけてしまうのだ。

「残念ですが、既に二度踊らせていただいております。
 公太女殿下が、愚かなローマ貴族が味方の領地を襲った事と、フランク王国のダゴベルトに襲われそうになった事で、男性不信になられたのは分かっております。
 だからといって、早急に私を婚約者に選ぶ必要はありません。
 この大陸にいる全ての王侯貴族の子息が下劣で卑怯な訳ではありません。
 立派ない騎士道精神を持った漢もおります。
 しばらくは、例え王子殿下から誘われてもダンスを踊らなくても結構です。
 男性不信が治られるまで、公太女殿下からダンスを誘う必要もありません。
 ですな、皆様方」

「おお、それは当然の事でございます、マリア公太女殿下」
「エドアルド公子殿下の申される通りでございます、マリア公太女殿下」
「ここにいる誰一人、マリア公太女殿下が舞踏会で一度も踊られなくても、誰も誘われなくても、不満に思ったりしません」
「どうか我らに、愚か者共によって傷つかれたマリア公太女殿下の心の傷を癒す機会をお与えください」
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