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第1章
第20話:お願い・佐藤克也視点
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「勇者王陛下に伏してお願い申し上げます」
この国の王女、シュテファニーという女の子がお願いがあると言って来た。
雨が降って農業ができなくてお城で勉強していると、こういう人がたくさん来る。
ほとんどはイワナガヒメたちが追い返してくれる。
でも、女の子のお願いはできるだけ聞くように言っていた。
特に僕と同じくらいの歳の子のお願いは、できる限り聞くように言っていた。
「なんだい、僕にできる事なら聞いてあげるよ」
女の子には優しくしてあげなさいと言われていた。
なのに、ずっと優しくしてもらってばかりだった。
お母さんにも従姉たちにも優しくしてもらってばかりだった。
看護婦さんも優しかったし、女の子だと思うイワナガヒメたちも優しい。
だから、生まれて初めて女の子からお願されたら、聞いてあげたくなる。
「父王や王族たちの卑怯で愚かな振る舞いを、心から恥ずかしく思っております。
前王家の1人として、名誉を取り戻したいと思っております。
勇者王陛下のお供の方々が魔獣を討伐してくださっているとお聞きしました。
私も同行させてください、お願い申し上げます」
「シュテファニー王女は勘違いしているようだね。
僕のお供たちは魔獣を殺していないよ。
改心するように言い聞かせているだけで、魔獣を殺してはいないよ」
「え、魔獣を殺していないのですか?
殺さずに魔獣を追い払う事ができるのですか?」
「できるよ、魔獣だって痛いのは嫌だしし、殺されたくないよ。
強い相手の言う事は聞いてくれるよ」
「それは、殺さない程度に傷つけると言う事でしょうか?」
「傷つけるのは、どうしても言う事を聞いてくれない時だけだよ。
最初は話し合って、できるだけ言葉で分かってもらうよ。
どうしても分かってもらえない時にだけ、豆をぶつけるんだ。
豆をぶつけて痛い思いをさせて、絶対に勝てないと分かってもらうんだ」
「……本当に……本当に豆をぶつけて、陛下たちが強い事を教えているのですか?」
「ウソなんか言わないよ、僕のいた世界では、悪い鬼に豆をぶつけて追い払ったり、改心させたりする前例がたくさんあるんだ。
この世界で試したら、同じ事ができたんだ。
だから、殺さないように豆まきで改心させているんだ」
「豆まきですか、豆ぶつけではなく、豆まきなのですか?」
「豆まきだよ、最初から豆をぶつけたい訳じゃないよ。
話し合いで改心してくれたら1番良いに決まっているじゃないか」
「では、私に豆をまきの機会を与えてください。
父王たちの愚かな行いを償う機会をお与えください」
「女の子のお願いはできるだけ聞いてあげたいのだけれど……」
「どうかお願いいたします、私に王族の誇りを取り戻させてください」
「イワナガヒメ、どうしたらいいと思う?」
「克也様の好きになされたらいいのです。
私たちがお手伝いさせていただきます、何の心配もありません」
「でも、魔獣の改心は、イワナガヒメたちの家臣たちがやってくれているんだろう?
女の子を守りながらだと、魔獣に負けたりしない?」
「ご心配は無用でございます、この世界の魔獣ごときに後れを取る家臣たちではありません、足手まといのシュテファニー王女が一緒でも、楽に改心させます」
「恐れながら申しあげます。
魔獣への豆まきは、お供の方々がされているのではないのですか?」
「腐りきった憶病で卑怯な王族の分際で、我らお供の力をあなどるな!
この世界の魔獣ごとき、克也様の直臣である我らお供の相手ではない。
それどころか、我らの家臣でも殺すことなく改心させられるのだ!」
「申し訳ありません、思い上がった事を口にしてしまいました。
しかしながら、愚かな父の行いで恥ずかしい立場に追いやられた、娘の苦しい気持ちを分かってください、お願いいたします」
「イワナガヒメ、この子は何を言っているの?」
「克也様が気にされる必要はありません」
「むりだよ、ダメだよ、女の子が泣いているんだよ。
男なら助けてあげないと!
以前の僕は病気だったから、助けてあげたくても助けられなかった。
それどころか、何をするのも誰かに助けてもらわないといけなかった。
でも今は、イワナガヒメたちのお陰で病気が治った。
誰かを助けてあげられるようになった。
女の子が助けて欲しいと言っているんだよ、助けてあげたいよ」
「克也様がこの者を助けたいと言われるのでしたら、助けましょう。
ですが、この子だけです、悪い事をした王や王族は助けられません。
多くの人を苦しめ殺した王や王族は助けられません」
「え、この子は王や王族を助けて欲しいと言っているの?」
「はい、直接言っている訳ではありませんが、遠まわしに言っています。
『前王家の1人として名誉を取り戻したい』『王族の誇りを取り戻させてください』と言うのは、働きしだいで父王と王族を許して欲しい、王国を返して欲しいと言う事でございます」
「王や王族は、許してはいけないんだよね?」
「はい、あの王や王族を許したら、必ずまた同じ事をします。
克也様が地球に戻られたら、必ずまた同じ事をします。
殺した方が良いとは申しませんが、あの者たちを解放するのは、自分が直接手を下さずに多くの民を殺すのと同じでございます」
「じゃあ、僕はこの子を助けてあげられないの?
ダメだと言って追い返さないといけないの?」
この国の王女、シュテファニーという女の子がお願いがあると言って来た。
雨が降って農業ができなくてお城で勉強していると、こういう人がたくさん来る。
ほとんどはイワナガヒメたちが追い返してくれる。
でも、女の子のお願いはできるだけ聞くように言っていた。
特に僕と同じくらいの歳の子のお願いは、できる限り聞くように言っていた。
「なんだい、僕にできる事なら聞いてあげるよ」
女の子には優しくしてあげなさいと言われていた。
なのに、ずっと優しくしてもらってばかりだった。
お母さんにも従姉たちにも優しくしてもらってばかりだった。
看護婦さんも優しかったし、女の子だと思うイワナガヒメたちも優しい。
だから、生まれて初めて女の子からお願されたら、聞いてあげたくなる。
「父王や王族たちの卑怯で愚かな振る舞いを、心から恥ずかしく思っております。
前王家の1人として、名誉を取り戻したいと思っております。
勇者王陛下のお供の方々が魔獣を討伐してくださっているとお聞きしました。
私も同行させてください、お願い申し上げます」
「シュテファニー王女は勘違いしているようだね。
僕のお供たちは魔獣を殺していないよ。
改心するように言い聞かせているだけで、魔獣を殺してはいないよ」
「え、魔獣を殺していないのですか?
殺さずに魔獣を追い払う事ができるのですか?」
「できるよ、魔獣だって痛いのは嫌だしし、殺されたくないよ。
強い相手の言う事は聞いてくれるよ」
「それは、殺さない程度に傷つけると言う事でしょうか?」
「傷つけるのは、どうしても言う事を聞いてくれない時だけだよ。
最初は話し合って、できるだけ言葉で分かってもらうよ。
どうしても分かってもらえない時にだけ、豆をぶつけるんだ。
豆をぶつけて痛い思いをさせて、絶対に勝てないと分かってもらうんだ」
「……本当に……本当に豆をぶつけて、陛下たちが強い事を教えているのですか?」
「ウソなんか言わないよ、僕のいた世界では、悪い鬼に豆をぶつけて追い払ったり、改心させたりする前例がたくさんあるんだ。
この世界で試したら、同じ事ができたんだ。
だから、殺さないように豆まきで改心させているんだ」
「豆まきですか、豆ぶつけではなく、豆まきなのですか?」
「豆まきだよ、最初から豆をぶつけたい訳じゃないよ。
話し合いで改心してくれたら1番良いに決まっているじゃないか」
「では、私に豆をまきの機会を与えてください。
父王たちの愚かな行いを償う機会をお与えください」
「女の子のお願いはできるだけ聞いてあげたいのだけれど……」
「どうかお願いいたします、私に王族の誇りを取り戻させてください」
「イワナガヒメ、どうしたらいいと思う?」
「克也様の好きになされたらいいのです。
私たちがお手伝いさせていただきます、何の心配もありません」
「でも、魔獣の改心は、イワナガヒメたちの家臣たちがやってくれているんだろう?
女の子を守りながらだと、魔獣に負けたりしない?」
「ご心配は無用でございます、この世界の魔獣ごときに後れを取る家臣たちではありません、足手まといのシュテファニー王女が一緒でも、楽に改心させます」
「恐れながら申しあげます。
魔獣への豆まきは、お供の方々がされているのではないのですか?」
「腐りきった憶病で卑怯な王族の分際で、我らお供の力をあなどるな!
この世界の魔獣ごとき、克也様の直臣である我らお供の相手ではない。
それどころか、我らの家臣でも殺すことなく改心させられるのだ!」
「申し訳ありません、思い上がった事を口にしてしまいました。
しかしながら、愚かな父の行いで恥ずかしい立場に追いやられた、娘の苦しい気持ちを分かってください、お願いいたします」
「イワナガヒメ、この子は何を言っているの?」
「克也様が気にされる必要はありません」
「むりだよ、ダメだよ、女の子が泣いているんだよ。
男なら助けてあげないと!
以前の僕は病気だったから、助けてあげたくても助けられなかった。
それどころか、何をするのも誰かに助けてもらわないといけなかった。
でも今は、イワナガヒメたちのお陰で病気が治った。
誰かを助けてあげられるようになった。
女の子が助けて欲しいと言っているんだよ、助けてあげたいよ」
「克也様がこの者を助けたいと言われるのでしたら、助けましょう。
ですが、この子だけです、悪い事をした王や王族は助けられません。
多くの人を苦しめ殺した王や王族は助けられません」
「え、この子は王や王族を助けて欲しいと言っているの?」
「はい、直接言っている訳ではありませんが、遠まわしに言っています。
『前王家の1人として名誉を取り戻したい』『王族の誇りを取り戻させてください』と言うのは、働きしだいで父王と王族を許して欲しい、王国を返して欲しいと言う事でございます」
「王や王族は、許してはいけないんだよね?」
「はい、あの王や王族を許したら、必ずまた同じ事をします。
克也様が地球に戻られたら、必ずまた同じ事をします。
殺した方が良いとは申しませんが、あの者たちを解放するのは、自分が直接手を下さずに多くの民を殺すのと同じでございます」
「じゃあ、僕はこの子を助けてあげられないの?
ダメだと言って追い返さないといけないの?」
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