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第1章
第39話:影武者・佐藤克也視点
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「申し訳ございません、もう2度と厳しい事は申しません。
全て私たちが代わってやらせていただきます!」
イワナガヒメに色々言われた日、僕は胸が痛くなって倒れた。
吐き気が激しくて、食べた者を全部吐いてしまった。
熱を出してベッドから起きられなくなった。
その後の事は分からなかったけれど、氏神様たちが看病してくれたそうだ。
交代しながらずっと側にいてくれたそうだ。
心臓が悪かった時に、お父さんやお母さん、繫一大爺ちゃんと波子大婆ちゃん、光孝大爺ちゃんと絹子大婆ちゃんが交代で見守ってくれていたのと同じだ。
集中治療室の外からだったけれど、ずっと見守ってくれていた。
ただ、氏神様がいても何の役にもたたなかったのは心臓病の時と同じだ。
この世界に来てからは、日本よりも凄い力だった。
間違いなくこの世界の神様たちよりも凄い力だった。
でも強いのは人を傷つける力だけのようだ。
病気を治す力は、日本にいた頃と同じように弱い。
僕が寝込んでいても治せなかった。
氏神様が得意な祝詞や呪文を使っても治せなかった。
この世界の治癒魔術を使っても僕を治せなかった。
「克也様、私がこの国を治めさせていただきます。
全部私が悪かったです、まだ幼い克也様に決めさせようとした私が悪かったです。
もう2度と克也様に決めてくださいとは申しません。
成長していただこうと、無理に経験を積ませないと約束いたします、誓います。
だから苦しまないでください、笑ってください、お願いします」
胸が痛くて、吐き気が激しくて、目も開けられなくて……
誰か分からなかったけれど、謝ってくれていた。
誰が何を言っているのか分からないのだけれど、何を謝っているのか分からなかったけれど、謝っている。
良いよ、だいじょうぶだよ、気にしなくて良いよ。
そう言いたかったけれど、あまりにも胸が痛くて、吐き気が激しくて、頭を上げる事もできなかった。
「克也様、克也様の代わりにこの国を治める者を決めました。
影武者を務める者も決めました、もう2度と克也様に重い責任は背負わせません。
好きな事を好きなだけやっていただきます、だから元気になられてください」
「すまなかった、全部俺が悪いのだ。
嫌がるイワナガヒメに無理矢理言わせたのは俺だ。
もう2度と何も言わないから、元気になってくれ、お願いだ。
このままではイザナミノミコトに滅ぼされてしまう、だから元気になってくれ」
「男神たちの言う事を聞いた私たち女神も悪いのです。
もう2度と男神たちの好き勝手はさせません、だから苦しまないで!」
少しは元気になった今だから、そんな事を言ってくれていたと分かる。
絶対ではなく、たぶんだけど、謝ってくれていたと思う。
胸が痛くて吐き気が激しかった時は、何を言われているのか分からなかった。
何も食べられなかったから、誰かが何かを食べさせてくれた。
意識がなかったから、スープかジュースを飲ませてくれたんだと思う。
「克也様、許してくれなくていいから、これだけ飲んで!
一生恨んでくれて良いから、これだけは飲んだ!
死んでしまうから、何も飲まず何も食べなかったら死んでしまうから!」
誰かが必死で僕に何かを食べさせようとしていた。
だけど、吐き気が激しすぎて食べられなかった。
無理矢理食べさせてもらっても、全部吐いてしまった。
「うげぇえええええ!」
「私が悪かったわ、全部私が悪いの、何でもするから、お願いだから飲んで。
飲んでくれないと、呪文を唱えても魔術を使っても回復しないから」
誰に何と言われても、胸が痛くて吐き気が激しくて飲めなかった。
何も飲み食いしないから、どんどん体重が減っていった。
その時は分からなかったけれど、気が付いた時にもの凄く痩せていた。
気が付く前のもっと悪い時は、気が付いた時よりも体重が減っていたのだと思う。
氏神様たちが交代で看病してくれたのだと思う。
心臓病で死にかけていた時に、看護婦さんたちが交代で看病してくれた時のように、氏神様たちが看病してくれたのだと思う。
祝詞や呪文、この世界の魔術を使って命をつないでくれたのだと思う。
そうでなければ、何を飲ませても吐いていた僕が、今こうして生きていられるはずがない、と思う、恩には感じていないけれど、命をつないでくれたのは確かだ。
1カ月ほど吐き続けて、つきっきりの看病をしてもらっていた、と思う。
看病してくれたのが氏神様たちでなかったら僕は死んでいた、と思う。
苦しかった事以外何も覚えていないから、そうだと思う、恩は感じていないけど。
何がきっかけなのか分からないけれど、少しずつ良くなった。
1カ月ほどして、経口補水液だけ飲めるようになったそうだ。
相変わらずスープや重湯は飲めずに吐いていたそうだけれど、ライムで風味と酸味を加えた経口補水液だけは飲めるようになったそうだ。
そのライム風味の経口補水液が飲めるようになった事で、氏神様たちの回復祝詞や回復呪文、回復魔術が効果をあらわすようになって、徐々に体力がついたそうだ。
骨と皮だけの、スケルトンのようになっていた身体が、徐々に回復していったそうだが、無理にスープや重湯を飲ませようとすると、また激しく吐いたそうだ。
1度吐くと体力が削られるのか、またライム風味の経口補水液も飲めなくなって、いつ死ぬか分からない状態になった。
「死なないで、お願いだから死なないで!
もう成長して欲しいなんて言わないから!
無理に何かさせようなんてしないから、生きていてくれるだけで良いから!
他の神が何を言ってきても耳を貸さないから、お願いだから死なないで!」
何も覚えていない6カ月の闘病生活だけれど、たった1つだけ、イワナガヒメが泣き叫んでいたのだけ覚えている、もう何の感情もないけれど。
全て私たちが代わってやらせていただきます!」
イワナガヒメに色々言われた日、僕は胸が痛くなって倒れた。
吐き気が激しくて、食べた者を全部吐いてしまった。
熱を出してベッドから起きられなくなった。
その後の事は分からなかったけれど、氏神様たちが看病してくれたそうだ。
交代しながらずっと側にいてくれたそうだ。
心臓が悪かった時に、お父さんやお母さん、繫一大爺ちゃんと波子大婆ちゃん、光孝大爺ちゃんと絹子大婆ちゃんが交代で見守ってくれていたのと同じだ。
集中治療室の外からだったけれど、ずっと見守ってくれていた。
ただ、氏神様がいても何の役にもたたなかったのは心臓病の時と同じだ。
この世界に来てからは、日本よりも凄い力だった。
間違いなくこの世界の神様たちよりも凄い力だった。
でも強いのは人を傷つける力だけのようだ。
病気を治す力は、日本にいた頃と同じように弱い。
僕が寝込んでいても治せなかった。
氏神様が得意な祝詞や呪文を使っても治せなかった。
この世界の治癒魔術を使っても僕を治せなかった。
「克也様、私がこの国を治めさせていただきます。
全部私が悪かったです、まだ幼い克也様に決めさせようとした私が悪かったです。
もう2度と克也様に決めてくださいとは申しません。
成長していただこうと、無理に経験を積ませないと約束いたします、誓います。
だから苦しまないでください、笑ってください、お願いします」
胸が痛くて、吐き気が激しくて、目も開けられなくて……
誰か分からなかったけれど、謝ってくれていた。
誰が何を言っているのか分からないのだけれど、何を謝っているのか分からなかったけれど、謝っている。
良いよ、だいじょうぶだよ、気にしなくて良いよ。
そう言いたかったけれど、あまりにも胸が痛くて、吐き気が激しくて、頭を上げる事もできなかった。
「克也様、克也様の代わりにこの国を治める者を決めました。
影武者を務める者も決めました、もう2度と克也様に重い責任は背負わせません。
好きな事を好きなだけやっていただきます、だから元気になられてください」
「すまなかった、全部俺が悪いのだ。
嫌がるイワナガヒメに無理矢理言わせたのは俺だ。
もう2度と何も言わないから、元気になってくれ、お願いだ。
このままではイザナミノミコトに滅ぼされてしまう、だから元気になってくれ」
「男神たちの言う事を聞いた私たち女神も悪いのです。
もう2度と男神たちの好き勝手はさせません、だから苦しまないで!」
少しは元気になった今だから、そんな事を言ってくれていたと分かる。
絶対ではなく、たぶんだけど、謝ってくれていたと思う。
胸が痛くて吐き気が激しかった時は、何を言われているのか分からなかった。
何も食べられなかったから、誰かが何かを食べさせてくれた。
意識がなかったから、スープかジュースを飲ませてくれたんだと思う。
「克也様、許してくれなくていいから、これだけ飲んで!
一生恨んでくれて良いから、これだけは飲んだ!
死んでしまうから、何も飲まず何も食べなかったら死んでしまうから!」
誰かが必死で僕に何かを食べさせようとしていた。
だけど、吐き気が激しすぎて食べられなかった。
無理矢理食べさせてもらっても、全部吐いてしまった。
「うげぇえええええ!」
「私が悪かったわ、全部私が悪いの、何でもするから、お願いだから飲んで。
飲んでくれないと、呪文を唱えても魔術を使っても回復しないから」
誰に何と言われても、胸が痛くて吐き気が激しくて飲めなかった。
何も飲み食いしないから、どんどん体重が減っていった。
その時は分からなかったけれど、気が付いた時にもの凄く痩せていた。
気が付く前のもっと悪い時は、気が付いた時よりも体重が減っていたのだと思う。
氏神様たちが交代で看病してくれたのだと思う。
心臓病で死にかけていた時に、看護婦さんたちが交代で看病してくれた時のように、氏神様たちが看病してくれたのだと思う。
祝詞や呪文、この世界の魔術を使って命をつないでくれたのだと思う。
そうでなければ、何を飲ませても吐いていた僕が、今こうして生きていられるはずがない、と思う、恩には感じていないけれど、命をつないでくれたのは確かだ。
1カ月ほど吐き続けて、つきっきりの看病をしてもらっていた、と思う。
看病してくれたのが氏神様たちでなかったら僕は死んでいた、と思う。
苦しかった事以外何も覚えていないから、そうだと思う、恩は感じていないけど。
何がきっかけなのか分からないけれど、少しずつ良くなった。
1カ月ほどして、経口補水液だけ飲めるようになったそうだ。
相変わらずスープや重湯は飲めずに吐いていたそうだけれど、ライムで風味と酸味を加えた経口補水液だけは飲めるようになったそうだ。
そのライム風味の経口補水液が飲めるようになった事で、氏神様たちの回復祝詞や回復呪文、回復魔術が効果をあらわすようになって、徐々に体力がついたそうだ。
骨と皮だけの、スケルトンのようになっていた身体が、徐々に回復していったそうだが、無理にスープや重湯を飲ませようとすると、また激しく吐いたそうだ。
1度吐くと体力が削られるのか、またライム風味の経口補水液も飲めなくなって、いつ死ぬか分からない状態になった。
「死なないで、お願いだから死なないで!
もう成長して欲しいなんて言わないから!
無理に何かさせようなんてしないから、生きていてくれるだけで良いから!
他の神が何を言ってきても耳を貸さないから、お願いだから死なないで!」
何も覚えていない6カ月の闘病生活だけれど、たった1つだけ、イワナガヒメが泣き叫んでいたのだけ覚えている、もう何の感情もないけれど。
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