そんなに妹が好きなら死んであげます。

第一章

第60話：ミネルバ蘇生

　ルーパスが人界に戻ってから半年が経っていた。
　その間ルーパスは人界中を走り回ってミネルバ蘇生の準備をしていた。
　まず最初に大魔王から渡された魔導書に通りの魔法陣を描いた。
　少しでも早くミネルバとオードリーを会わせたくて、今ではルーパス城と呼ばれるようになった場所を中心に描いていた。
　それが完成してから各地に描いた魔力収集魔法陣から魔力を集めた。

「この、役立たず！」

　バッチィーン

　蘇ったミネルバは開口一番全力の平手打ちをルーパスに喰らわせた。
　その破壊力はルーパスが三メートルも吹き飛ばされた事で明白だった。
　以前は大賢者と呼ばれ、今では大陸に君臨する皇帝同然のルーパスが、蘇生させた女性に平手で張り飛ばされる現実に、家臣達は茫然自失となっていた。
　
「貴男はそこで反省していなさい。
　私はオードリーに会ってきます」

「はい、ごめんなさい」

　グレアムを筆頭に城で働くルーパスの家臣達は口を大きく開けて固まっていた。
　ルーパスが最愛の妻を蘇生させようとしているのは全員が知っていた。
　その女性が勇者を庇って亡くなった大聖女だという事も知っていた。
　当然イメージでは優しく思いやりのある聖女様です。

　勇者の身代わりになって亡くなったのですから、行動力があるとは思っていたでしょうが、蘇生直後にルーパスを張り倒すとは微塵も思っていませんでした。
　しかも張り飛ばされたルーパスが文句も言わにその場に正座するなんて、今までのルーパスを見ていた家臣達に想像できるはずがありません。

「貴女がフリデリカですね。
　貴女の事は守護石が教えてくれましたよ。
　いつもオードリーのお世話をしてくれてありがとう。
　私はオードリーの母親ミネルバです。
　直ぐにオードリーの所に案内してください」

　ミネルバが蘇生一番にルーパスの失敗を知っていて平手打ちを喰らわせた理由、それはオードリーの守護石だったのだ。
　ミネルバの身体を再生して魂を呼び寄せる事はとても時間がかかる事だった。
　その時間の間にオードリーの守護石がこれまでの事をミネルバに教えていたのだ。
　ミネルバが戸惑わないように親切で教えたと考える事もできる。
　だが実際にはオードリーを不幸にしたルーパスの大失敗を、ミネルバに告げ口したというのが正確な表現だろう。

「ご案内させていただきます、奥方様」

　フリデリカは内心の動揺を全く表に出すことなくミネルバを案内した。
　フリデリカはルーパスがミネルバを案内してやってくると思い込んでいた。
　ずっとオードリーの控えの間にいたので、ルーパスが平手打ちを喰らった事も知らなかったが、異常事態が起きた事は理解していた。
　何よりも培われた危険を見極める能力が、逆らうなと言っていたのだ。