そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全

文字の大きさ
66 / 91
第一章

第66話:オードリー動く

 オードリーにもルーパスとミネルバが苦しんでいるのが分かっていた。
 感情的にはルーパスの事は許せないが、頭では事情を理解していた。
 自分と母のためにルーパスが寝食を忘れて駆け回っているのを見ている。
 母も先頭に立って人界を立て直そうとしている。
 自分だけが何時までも過去の恨みや憎しみに囚われていてはいけないと、頭では理解しているのだ。

「何でもないのよ、オードリー。
 貴女はずっと辛く苦しい思いをしていたのだから、無理をする事はないわ。
 好きでもない人間のために命懸けで戦う必要などないのよ」

 ミネルバが体裁を考えずに本気で話していた。
 以前は命を捨てて無償の愛を与えていたミネルバだが、今は違う。
 愛を与える相手を限定していた。
 ルーパスの自分を捨てたオードリーへの愛と、オードリーの守護石から知らされた現実に、自分の身勝手な愛を心から反省していた。
 自分の強張った愛のためにオードリーがどれほど辛く苦しい思いをしてきたのか、オードリーの守護石に現実を突き付けられていたのだ。

「私も憎い相手の為に命を賭ける気はありません。
 ですが、母上と父上が苦しむのをこれ以上黙ってみてはおられません。
 それに、私にも大切にしたい人はいます。
 ずっと護ってくれていたグレアムと馬達は護りたいと思っています」

 ルーパスの顔が一瞬で強張っていた。
 命懸けでオードリーを護っていたグレアムを認めない訳ではない。
 だが、余りにも愚直過ぎてオードリーを任せるには頼りなさ過ぎるのだ。
 万が一にもオードリーが好きになっては困ると思っていたのだ。
 あまりに不幸な育ちをしたオードリーが、私利私欲の全くない無償で助け続けてくれるグレアムに魅かれる危険性を感じていた。

 その危機感を肯定するかのようなオードリーの発言に、ルーパスの心は大嵐となりその場で反対だと言いたくなっていた。
 なっていたのだが、ミネルバの強い視線に射すくめられていた。
 なぜならミネルバは逆にグレアムがオードリーに相応しと考えていたからだ。
 確かにグレアムは誰が見ても愚直だ。
 だが愚直と言えばミネルバ自身が生前とても愚直だった。

 それに、グレアムがオードリーの護りの全てではない。
 何といってもグレアムには守護石がついてくれている。
 グレアムに足らない所を守護石が助けてくれていた事を聞いている。
 これからも守護石がオードリーを護り、オードリーを護るためにグレアムを護ることが分かっていた。

「分かりました、オードリーの気持ちは受けましょう。
 ですがどこまで使うかは、オードリーの守護石に決めてもらいましょう」
感想 161

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました

明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。 十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。 一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。

【完結】愛されないあたしは全てを諦めようと思います

くろいゆき
恋愛
ネドヴェト侯爵家に生まれた四姉妹の末っ子アマーリエ(エミー)は元気でおしゃまな女の子。 美人で聡明な長女。 利発で活発な次女。 病弱で温和な三女。 兄妹同然に育った第二王子。 時に元気が良すぎて、怒られるアマーリエは誰からも愛されている。 誰もがそう思っていました。 サブタイトルが台詞ぽい時はアマーリエの一人称視点。 客観的なサブタイトル名の時は三人称視点やその他の視点になります。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」