異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全

文字の大きさ
21 / 94
第一章

第20話:母の嘆願

しおりを挟む
 皇紀2217年・王歴221年・春・エレンバラ王国男爵領

「ハリー殿、このような事を御願いするのがとても不敬なのは分かっています。
 ですがこのまま皇帝陛下が崩御なされるような事があれば、葬儀を行う費用もなく、先々代陛下の時のように四十日以上も葬儀が遅れてしまうかもしれません。
 実家の日記では、御遺体が傷んで酷い状態になったと書いてありました。
 周囲を敵に囲まれて大変な時だとは分かっていますが、少しでも皇家に献金をしてもらえないでしょうか」

 母上が必死で俺に頼んで来るが、皇家の財政はそんなに酷い状態なのか。
 長年にわたる王家と宰相家の家督争いと、それに伴う内乱で国中が疲弊している。
 皇家は母が言う先々代から数えて、更に二代も代替わりしている。
 そう考えても当時よりも更に貧しくなっているだろう。
 まして本来のスポンサーである王家がこの地方に亡命しているくらいだ。
 だが俺に費用を負担してくれと言われても、ない袖は振れない。

「母上様、私も母上様のたっての願いですから、叶えたいと心から思っております。
 ですがあまりに高額では、とても負担できません。
 皇帝陛下の葬式には幾らかかるのですか。
 母上は葬式に必要な費用をご存じなのですか」

「実家の日記で読んだ事がありますから、だいたいの費用は分かっています。
 ハリーに金貨千枚もの負担ができるとは思っていません。
 百枚でも五十枚でもいいのです。
 ハリーが僅かでも負担してくれるなら、それを理由にハリーに皇国貴族の爵位を与えることができます。
 そうすれば、周囲の敵も多少は封鎖を緩めるかもしれません」

 はあああああ、たった金貨千枚だって、それくらいなら直ぐに献金できるぞ。
 周囲の貴族家は自分達の領内に多くの関所をもうけて、我が領地に出入りする者を厳しく取り締まり、我が家が王都や商都に商品を送れないようにしている。
 母上はその事を気にしているようだが、我が家には裏のルートがある。
 イシュタム衆を利用すれば、険しい山に分け入ってでも交易をしてくれる。
 アフリマン衆とダエーワ衆が邪魔をしようとしたが、返り討ちにしたそうだ。

 売値に関しては、表の経済封鎖のせいで商品が止められているから、裏で扱う我が家の商品は、他で替えがない事もあって、小売値が暴騰しているのだ。
 イシュタム衆に特別手当を払っても、我が家には莫大な利益が入ってきている。
 商売と情報収集に特化したイシュタム衆は莫大な富を築いている。
 イシュタム衆が、商売と情報収集だけに特化したいと思っている気持ちがよく分かるくらい、濡れ手に粟の大儲けをしているのだ。

 特に高値になっているのが魔晶石で、あれは戦争には欠かせない戦略物資だ。
 特に魔力を込めた魔晶石は奪い合いになっていると聞く。
 貴族家なら、特に負けそうな貴族は家宝を売り払ってでも手に入れようとする。
 昨年までの蓄えが金貨九十万枚だったのが、今では百八十万枚になっている。
 金貨千枚など、我が家の貯蓄から見れば、二千分の一程度の負担でしかない。

「ご安心下さい、大丈夫ですよ、母上。
 千枚程度なら今直ぐにでもご用意できますが、問題は不敬にならないかです。
 このような話をしていては、まるで皇帝陛下の崩御を願っているように、他人には聞こえてします。
 皇帝陛下にも皇国貴族の方々にも、誹りを受けないようにお伝えしなければいけませんが、母上にその方法がおありですか」

「それは任せてください、ハリー殿
 妹が皇太子殿下の妾になっていますから、妹から伝えてもらいます。
 皇太子殿下も皇帝陛下の病状だけでなく、葬儀費用も気にしておられます。
 私に葬儀費用の事を頼んできたのは、実家の父や兄ではなく、妹なのです」

 ああ、そうだった、そうだった、金がないから形式や儀式にお金が必要な皇妃も側妃も置けなくて、皇帝も皇太子も金のかからない妾しかいないんだった。
 皇帝でも子供を産んだ妾が七人、皇太子で三人だが、全員が皇国の女官扱いだ。
 皇国の経費を使わなければ妾も養えない、情けない状況なのが今の皇家だ。
 しかも皇帝の妾七人のうち三人は、下級女官扱いにしなければいけないくらい貧しいのだから、とてもハーレムなんて言えない状態だ。

「分かりました、全ては母上と叔母上にお任せします。
 お金の運搬は、特別な者を使いますのでご安心ください。
 ただそのお金をお渡しするのは、あくまでも皇帝陛下が崩御されてからです。
 今からお渡しする事は絶対にありません」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

処理中です...