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第一章
第52話:閑話・思慕・アイザック視点
皇紀2221年・王歴225年・冬・プランケット地方の某城
「侯爵閣下、お帰りなさいませ。
御無事のお帰りを心から願い、毎日神と精霊にお祈りしておりました」
「ありがとう、イザベラ。
イザベラのお祈りのお陰で、無事に帰ってくることができたよ」
侯爵閣下が慈愛の表情を浮かべてイザベラに答えておられる。
いや、侯爵閣下はイザベラだけでなく、我らイシュタム族が集めてきた、全ての孤児に対して慈愛の心を持っておられる。
とてもお忙しい、本当にとてもお忙しいお立場なのに、時間の許す限り、孤児達はもちろん老人達にも言葉をかけ健康を気遣ってくださる。
自分の子供を産ますためだけの存在として、孤児を見ておられるのではないのだ。
「神や精霊に対するお祈りで侯爵閣下をお守りできるなんて、本気で思っているわけではありません。
実力で侯爵閣下をお守りできるようになるために、日々精進しております。
アイザック様からはもう十分強くなったと言って頂いております。
どうか、どうか次からは従軍させてください、お願いします、侯爵閣下」
人はこれほど出会いによって変わるモノなのだな。
俺が初めてイザベラと会った時には、彼女は鬼気迫る表情をしていた。
とても六歳の幼女とは思えない、まるで鬼の子のようだった。
両親と兄姉を領主の兵士に惨殺された事で、単に貴族士族だけでなく、武装した者全てを憎んでいたいイザベラは、幼いながらも討伐にくる兵士を皆殺しにしていた。
とても六歳とは思えない魔力を発現させていたのだ。
もしイシュタム族に数百年に渡る魔力と魔術の知識がなければ、イザベラを捕らえる事などできず、逆に皆殺しにされていただろう。
それくらい莫大な魔力を、イザベラは僅か六歳で発現させていたのだ。
正直イシュタム族内でもイザベラの処遇はもめにもめた。
今はまだ何とか抑えられているが、イザベラの魔力の伸びが早ければ、一年程度で抑えが効かなくなってしまう事が予測されたからだ。
「契約魔術で縛っても、主の魔力を遥かに超えるようになってしまったら、主の方が契約魔力の逆流を受けてしまうかもしれない。
ここまで人間を恨むようになってしまったら、もう人間性は取り戻せない。
ここで殺しておく方がいい、いや、殺さなければならん」
そう強硬に主張する者もいたが、侯爵閣下に御相談して本当によかった。
あれほど人間を、いや、貴族士族を憎んでいたイザベラが、閣下を思慕している。
どれほどの愛情を注げばこれほど変わるのだろうか。
侯爵閣下がイザベラを領内に連れてこいと言われた時には、イザベラが閣下を襲う事を危惧して、強く反対するイシュタム族も多かったのだ。
それが、イシュタム族数十人懸かりで抑えていたイザベラを、たった御一人で軽く抑えてしまわれたばかりか、優しく抱きしめて癒してしまわれた。
何をどうされたかは分からないが、抱きしめられたイザベラは、周りを気にする事なく大声で泣いた。
心の中にどす黒く溜まった恨み辛みを全て流すように大泣きした。
それ以来、イザベラは侯爵閣下への想いを隠そうともしない。
ただ一途に侯爵閣下を慕い、御側近くに仕える事だけを願っている。
その為の努力ならば、血の汗を流すほどの努力も笑顔でこなしてしまう。
結構な修羅場をくぐってきたと自負する俺が、心底恐怖を感じてしまうほどだ。
イザベラの想いが叶わなかった時、その想いが逆流してしまわないかと。
「イザベラを従軍させる事は絶対にないよ。
イザベラには、俺が一番大切に思っている母上を護ってもらわなければいけないから、エレンバラ城かロスリン城の奥に入ってもらう事になる。
戦う技だけではなく、奥での行儀作法も頑張ってくれ、いいね」
「侯爵閣下、もう行儀作法は覚えました、だからお側に仕えさせてください」
「間違いないか、アイザック」
「間違いございません、侯爵閣下。
もう十分侍女として仕えられるようになっております」
「アイザック、俺との約束を忘れてしまったのか。
王族や皇族に相応しい魔力を持った孤児の娘が見つかったら、養女にして俺の正室にする約束だっただろう。
イザベラに俺の正室に相応しい行儀作法を覚えさせろ。
それと、養女ではなくアイザックの実の娘だということにしろ。
そのうえで、どこかの皇国貴族か王国貴族の養女にする、分かったな」
「承りました」
「侯爵閣下、お帰りなさいませ。
御無事のお帰りを心から願い、毎日神と精霊にお祈りしておりました」
「ありがとう、イザベラ。
イザベラのお祈りのお陰で、無事に帰ってくることができたよ」
侯爵閣下が慈愛の表情を浮かべてイザベラに答えておられる。
いや、侯爵閣下はイザベラだけでなく、我らイシュタム族が集めてきた、全ての孤児に対して慈愛の心を持っておられる。
とてもお忙しい、本当にとてもお忙しいお立場なのに、時間の許す限り、孤児達はもちろん老人達にも言葉をかけ健康を気遣ってくださる。
自分の子供を産ますためだけの存在として、孤児を見ておられるのではないのだ。
「神や精霊に対するお祈りで侯爵閣下をお守りできるなんて、本気で思っているわけではありません。
実力で侯爵閣下をお守りできるようになるために、日々精進しております。
アイザック様からはもう十分強くなったと言って頂いております。
どうか、どうか次からは従軍させてください、お願いします、侯爵閣下」
人はこれほど出会いによって変わるモノなのだな。
俺が初めてイザベラと会った時には、彼女は鬼気迫る表情をしていた。
とても六歳の幼女とは思えない、まるで鬼の子のようだった。
両親と兄姉を領主の兵士に惨殺された事で、単に貴族士族だけでなく、武装した者全てを憎んでいたいイザベラは、幼いながらも討伐にくる兵士を皆殺しにしていた。
とても六歳とは思えない魔力を発現させていたのだ。
もしイシュタム族に数百年に渡る魔力と魔術の知識がなければ、イザベラを捕らえる事などできず、逆に皆殺しにされていただろう。
それくらい莫大な魔力を、イザベラは僅か六歳で発現させていたのだ。
正直イシュタム族内でもイザベラの処遇はもめにもめた。
今はまだ何とか抑えられているが、イザベラの魔力の伸びが早ければ、一年程度で抑えが効かなくなってしまう事が予測されたからだ。
「契約魔術で縛っても、主の魔力を遥かに超えるようになってしまったら、主の方が契約魔力の逆流を受けてしまうかもしれない。
ここまで人間を恨むようになってしまったら、もう人間性は取り戻せない。
ここで殺しておく方がいい、いや、殺さなければならん」
そう強硬に主張する者もいたが、侯爵閣下に御相談して本当によかった。
あれほど人間を、いや、貴族士族を憎んでいたイザベラが、閣下を思慕している。
どれほどの愛情を注げばこれほど変わるのだろうか。
侯爵閣下がイザベラを領内に連れてこいと言われた時には、イザベラが閣下を襲う事を危惧して、強く反対するイシュタム族も多かったのだ。
それが、イシュタム族数十人懸かりで抑えていたイザベラを、たった御一人で軽く抑えてしまわれたばかりか、優しく抱きしめて癒してしまわれた。
何をどうされたかは分からないが、抱きしめられたイザベラは、周りを気にする事なく大声で泣いた。
心の中にどす黒く溜まった恨み辛みを全て流すように大泣きした。
それ以来、イザベラは侯爵閣下への想いを隠そうともしない。
ただ一途に侯爵閣下を慕い、御側近くに仕える事だけを願っている。
その為の努力ならば、血の汗を流すほどの努力も笑顔でこなしてしまう。
結構な修羅場をくぐってきたと自負する俺が、心底恐怖を感じてしまうほどだ。
イザベラの想いが叶わなかった時、その想いが逆流してしまわないかと。
「イザベラを従軍させる事は絶対にないよ。
イザベラには、俺が一番大切に思っている母上を護ってもらわなければいけないから、エレンバラ城かロスリン城の奥に入ってもらう事になる。
戦う技だけではなく、奥での行儀作法も頑張ってくれ、いいね」
「侯爵閣下、もう行儀作法は覚えました、だからお側に仕えさせてください」
「間違いないか、アイザック」
「間違いございません、侯爵閣下。
もう十分侍女として仕えられるようになっております」
「アイザック、俺との約束を忘れてしまったのか。
王族や皇族に相応しい魔力を持った孤児の娘が見つかったら、養女にして俺の正室にする約束だっただろう。
イザベラに俺の正室に相応しい行儀作法を覚えさせろ。
それと、養女ではなくアイザックの実の娘だということにしろ。
そのうえで、どこかの皇国貴族か王国貴族の養女にする、分かったな」
「承りました」
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