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第一章
第53話:棲み分け
皇紀2222年・王歴226年・早春・ロスリン城
俺は満十三歳、当年とって十四歳になって、ようやく一息付けた。
王国で一番力を持つカンリフ公爵が、俺を王国侯爵に強く推薦したのだ。
推薦したというのは言葉を飾っているだけで、実際には、俺を陞爵する事を拒んだ馬鹿王に兵を差し向けて脅迫したというのが真実だ。
その結果、俺はバーリー、キャメロン、フェアファクスの三つの地方の支配者だと正式に王国から認められたのだ。
「「「「「おめでとうございます」」」」」
エレンバラ家に仕えている主だった家臣が一斉に祝いの言葉をかけてくれる。
その家臣の中には祖父や大叔父、叔父達と言った一門衆がいる。
俺は僅か八千人しか領民がいなかったエレンバラ家を、領民五十二万人もいる三つの地方の支配者にした立役者なのだ。
八千人時代に分家した子弟が、俺の一族だと偉そうにできる状況ではない。
だが俺の名声と権力が絶大だと言う事は、俺が死ねば終わりだと言う事でもある。
「祝ってくれてありがとう、俺からの礼だ、今日は思う存分喰って飲んでくれ」
ずっと苦しい状況が続いてきたのだ、ひと息つけた時くらい気を緩めてもいい。
勿論この言葉はここにいる家臣だけに言った言葉で、俺自身は常在戦場の精神を忘れていないから、酒を飲んだりはしない。
それに、一族衆や重臣達はここで羽目を外しているが、領境を護る者達や、情報収集と警戒に当たっている影衆は、今も敵と対峙しているのだ。
奇襲や暗殺に備えて常に正気を保っている事が、領主の義務であり責任なのだ。
「「「「「はい」」」」」
大叔父の孫達や叔父達の子供達も今日の祝宴に参加している。
酒を飲めない幼い子もいるが、料理がとても美味しいから喜んでくれている。
俺は人質を取らない主義なのだが、大叔父も叔父達も、孫や子供を俺に鍛えて欲しいと言ってきかないので、側近として仕えさせている。
前世の戦国時代で言えば、主君に仕える小姓という立場だろうか。
ヨーロッパの中世なら、正騎士に仕える従騎士かな。
「侯爵閣下、今回のカンリフ公爵からの陞爵にはどういう意味があるのですか」
大叔父の孫、エマの直ぐ下の弟ハーレーが目をキラキラさせて質問してきた。
俺よりも二歳年上の十六歳で、この前の戦いで初陣を済ませて張り切っている。
できればエレンバラ家の支柱に育って欲しい立場の再従兄だ。
本当なら大叔父や従叔父に鍛えて欲しいのだが、俺の側近として出仕しているので、俺が鍛えなければいけないのだろうな。
「俺を取り込もうと言う事だろうな」
「取り込むという事は、家臣になれとう事ですか」
ハーレーの言葉に騒がしく楽し気だった雰囲気が一変した。
緊張と敵意に満ちた雰囲気に変わった事で、質問したハーレーの顔が引きつった。
よく覚えておけハーレー、言葉一つで味方を作れることもあれば、敵を作ってしまう事もあるのだよ、エジンバラ家の支柱になると言う事は、そういう責任も背負うと言う事なのだ、決して忘れるなよ。
「いずれはそうなるかもしれないが、今はまだ違う。
今まで通り、ステュアート王家の貴族として仕えると言う事だ。
ただし、王国の最高権力者は王ではなくカンリフ公爵だがな。
いずれ、ステュアート王家に取って代わってカンリフ家が王家を名乗るような事があれば、我が家もカンリフ家に臣従する事になるかもしれない」
俺の言葉を聞いてハーレーの青かった顔がさらに青くなった。
ある意味、王家が交代すると明言したのだからな。
水を打ったように静かになった宴会の場で、家臣達も聞き耳を立てている。
ここではっきりと言っておいた方がいいな。
「だが、これからまだ一波乱も二波乱もあるだろう。
カンリフ公爵家に逆らう連中はまだまだ多いし、なにより王が諦めない。
西の地方に大きな勢力を持つ、ダウンシャー伯爵家とは激しく争う事になる。
今戦っているフィッツジェラルド宰相家も死に物狂いで抵抗する。
そして何よりも、カンリフ公爵の父親を裏切り、背後から襲って憤死させたアザエル教団がある、いずれは教団と血で血を洗う激しい戦いになるだろう」
俺の言葉を全員が固唾を飲んで聞いている。
我が家だけでなく、カンリフ公爵家や王国の命運を語っているのだから、興味を持つのは当然だし、自分の運命にも関わっているからな。
「私はアザエル教団が大嫌いだし、邪魔だと思っている。
奴らは必ずスティントン地方を制圧してバーリー地方に攻め込んで来るぞ。
その時には、我らの本領南側にある、アザエル教団の自由都市も蜂起するだろう。
その時に、カンリフ公爵家がアザエル教団と戦う決断をすれば、我が家とカンリフ公爵家は棲み分けする事になるだろう」
俺の言葉を聞いた全員が、その意味を理解しようと考えている。
そうだ、よく考えて、自分なりの解釈をして、結論を得るのだ。
そしてその解釈と結論を俺に教えてくれ。
そうしてくれれば、俺の独善による失敗を防ぐことができる。
俺に万が一の事があっても、エジンバラ家を保つことができる。
「侯爵閣下、もし、もしカンリフ公爵家がアザエル教団を攻める決断をしなかったら、どうなるのでしょうか」
ゴクリと唾を飲んでからハーレーが質問してきた。
「その時は、カンリフ公爵家はアザエル教団と手を組んでプランケット地方に攻め込んで来るだろう。
我が家だけでなく、エクセター侯爵家とトリムレストン子爵家を攻め滅ぼして、四つの地方を直轄領とするだろうな」
俺は満十三歳、当年とって十四歳になって、ようやく一息付けた。
王国で一番力を持つカンリフ公爵が、俺を王国侯爵に強く推薦したのだ。
推薦したというのは言葉を飾っているだけで、実際には、俺を陞爵する事を拒んだ馬鹿王に兵を差し向けて脅迫したというのが真実だ。
その結果、俺はバーリー、キャメロン、フェアファクスの三つの地方の支配者だと正式に王国から認められたのだ。
「「「「「おめでとうございます」」」」」
エレンバラ家に仕えている主だった家臣が一斉に祝いの言葉をかけてくれる。
その家臣の中には祖父や大叔父、叔父達と言った一門衆がいる。
俺は僅か八千人しか領民がいなかったエレンバラ家を、領民五十二万人もいる三つの地方の支配者にした立役者なのだ。
八千人時代に分家した子弟が、俺の一族だと偉そうにできる状況ではない。
だが俺の名声と権力が絶大だと言う事は、俺が死ねば終わりだと言う事でもある。
「祝ってくれてありがとう、俺からの礼だ、今日は思う存分喰って飲んでくれ」
ずっと苦しい状況が続いてきたのだ、ひと息つけた時くらい気を緩めてもいい。
勿論この言葉はここにいる家臣だけに言った言葉で、俺自身は常在戦場の精神を忘れていないから、酒を飲んだりはしない。
それに、一族衆や重臣達はここで羽目を外しているが、領境を護る者達や、情報収集と警戒に当たっている影衆は、今も敵と対峙しているのだ。
奇襲や暗殺に備えて常に正気を保っている事が、領主の義務であり責任なのだ。
「「「「「はい」」」」」
大叔父の孫達や叔父達の子供達も今日の祝宴に参加している。
酒を飲めない幼い子もいるが、料理がとても美味しいから喜んでくれている。
俺は人質を取らない主義なのだが、大叔父も叔父達も、孫や子供を俺に鍛えて欲しいと言ってきかないので、側近として仕えさせている。
前世の戦国時代で言えば、主君に仕える小姓という立場だろうか。
ヨーロッパの中世なら、正騎士に仕える従騎士かな。
「侯爵閣下、今回のカンリフ公爵からの陞爵にはどういう意味があるのですか」
大叔父の孫、エマの直ぐ下の弟ハーレーが目をキラキラさせて質問してきた。
俺よりも二歳年上の十六歳で、この前の戦いで初陣を済ませて張り切っている。
できればエレンバラ家の支柱に育って欲しい立場の再従兄だ。
本当なら大叔父や従叔父に鍛えて欲しいのだが、俺の側近として出仕しているので、俺が鍛えなければいけないのだろうな。
「俺を取り込もうと言う事だろうな」
「取り込むという事は、家臣になれとう事ですか」
ハーレーの言葉に騒がしく楽し気だった雰囲気が一変した。
緊張と敵意に満ちた雰囲気に変わった事で、質問したハーレーの顔が引きつった。
よく覚えておけハーレー、言葉一つで味方を作れることもあれば、敵を作ってしまう事もあるのだよ、エジンバラ家の支柱になると言う事は、そういう責任も背負うと言う事なのだ、決して忘れるなよ。
「いずれはそうなるかもしれないが、今はまだ違う。
今まで通り、ステュアート王家の貴族として仕えると言う事だ。
ただし、王国の最高権力者は王ではなくカンリフ公爵だがな。
いずれ、ステュアート王家に取って代わってカンリフ家が王家を名乗るような事があれば、我が家もカンリフ家に臣従する事になるかもしれない」
俺の言葉を聞いてハーレーの青かった顔がさらに青くなった。
ある意味、王家が交代すると明言したのだからな。
水を打ったように静かになった宴会の場で、家臣達も聞き耳を立てている。
ここではっきりと言っておいた方がいいな。
「だが、これからまだ一波乱も二波乱もあるだろう。
カンリフ公爵家に逆らう連中はまだまだ多いし、なにより王が諦めない。
西の地方に大きな勢力を持つ、ダウンシャー伯爵家とは激しく争う事になる。
今戦っているフィッツジェラルド宰相家も死に物狂いで抵抗する。
そして何よりも、カンリフ公爵の父親を裏切り、背後から襲って憤死させたアザエル教団がある、いずれは教団と血で血を洗う激しい戦いになるだろう」
俺の言葉を全員が固唾を飲んで聞いている。
我が家だけでなく、カンリフ公爵家や王国の命運を語っているのだから、興味を持つのは当然だし、自分の運命にも関わっているからな。
「私はアザエル教団が大嫌いだし、邪魔だと思っている。
奴らは必ずスティントン地方を制圧してバーリー地方に攻め込んで来るぞ。
その時には、我らの本領南側にある、アザエル教団の自由都市も蜂起するだろう。
その時に、カンリフ公爵家がアザエル教団と戦う決断をすれば、我が家とカンリフ公爵家は棲み分けする事になるだろう」
俺の言葉を聞いた全員が、その意味を理解しようと考えている。
そうだ、よく考えて、自分なりの解釈をして、結論を得るのだ。
そしてその解釈と結論を俺に教えてくれ。
そうしてくれれば、俺の独善による失敗を防ぐことができる。
俺に万が一の事があっても、エジンバラ家を保つことができる。
「侯爵閣下、もし、もしカンリフ公爵家がアザエル教団を攻める決断をしなかったら、どうなるのでしょうか」
ゴクリと唾を飲んでからハーレーが質問してきた。
「その時は、カンリフ公爵家はアザエル教団と手を組んでプランケット地方に攻め込んで来るだろう。
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