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15話第3者視点

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「国王陛下、このままでは王家が滅んでしまいます。
 ヴィリアーズ伯爵に国を乗っ取られてしまいます。
 ここは断固たる処置をとられるべきです」

「だがな、ヴァルナの強さは人間離れしている。
 近衛騎士を総動員しても勝ち目はない。
 ここは隠忍自重すべきだ」

「何を情けない事を申されるのですか!」
 それでも一国の王ですか!
 貴男は自分の子供を、マッシモを殺されて悔しくないのですか!」

「それは悔しいさ。
 悔しいけれど、現実は直視しなければならない。
 これまでの争いを見れば、ヴァルナに勝てないのは明白だ」

「それはこの国の騎士が弱すぎるからです。
 ラムリー王国の騎士ならば、必ず勝ってくれます」

「そなたの母国に援軍を頼めというのか?」

「はい、このまま滅ぼされるくらいなら、領地を割譲してでも援軍を頼むべきです。
 父上ならそれほど酷い条件は出さないはずです。
 滅ぼした貴族の権利と領地をラムリー王国の貴族に与えるという方法もあります。
 それならこの国の領地が減る事もありません」

 マッテオ国王はキャーラ王妃の提案を苦々しい思いで聞いていた。
 そもそのマッシモ王太子を愚かに育てたのは、王妃ではないかと思っていた。
 だがそれを口にする事はなかった。
 王家が危険な状況である事は理解してしたからだ。

 それにここで正面から反対すれば、ラムリー王国が攻め込んでくるかもしれないと、危機感も持っていた。
 そして小狡い考えもあった。
 圧倒的戦力差がでたデヴァルー王国とラムリー王国の不均衡を、ヴァルナを利用して是正しようと考えたのだ。

 キャーラ王妃の願いを聞いたフラヴィオ王が騎士や兵士を送り込んで来たら、ヴァルナが完膚なきまで叩きのめしてくれるだろう。
 そうなればラムリー王国の戦力を低下させる事ができる。

 もしラムリー王国がヴァルナを殺してくれるような事があれば、僥倖としかいいようがなく、起死回生となる。
 ヴァルナを殺されたら、父親のヴィリアーズ伯爵は激怒してラムリー王国に攻め込むだろうし、助けてもらった遠征軍の面々も同調するだろう。

 もっともそのためには、ヴァルナが決めた遠征軍への褒美を履行しなければならないが、履行しなければ遠征軍の剣はマッテオ国王に向けられる。
 莫大な褒美を与えても、ラムリー王国を併合できるなら安いモノだと考えていた。
 ともに戦力をすり減らしていたら、温存しておいた王家の戦力を投入し、遠征軍もラムリー王国も滅ぼしてしまえばいい。
 そうなれば、デヴァルー王家はラムリー王国を併合し敵性国内貴族を滅ぼした、絶対王政の強大な王家になれると密かに考えていた。
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