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第一章

第6話:転移魔術

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 俺はここでも小説やアニメで覚えた策を実行した。
 転移魔法の制限には色々な設定があるが、一つは知っている場所にしか転移できないという制限だった。
 もう一つの制限は、転移魔法陣同士の間でしか転移できないという制限だ。
 俺はすでに知っている場所に転移する実験を成功させていた。
 問題は転移できる距離と魔力量の関係だが、たぶん大丈夫だろう。

「すみません、ここに家を建てて住みたいのですが、いいでしょうか?」

 俺はルイビス王国最南端という村に拠点を定めることにした。
 拠点とはいっても、大魔境で危険に陥った時に逃げるための場所でしかない。
 一気に大魔境を飛び越えることができるのなら、戻る必要などない。
 あくまでも最悪の状況に供えた保険でしかない。
 だがその保険をかけておくかどうかで、生死が分かれる可能性が高い。

「ああ、構わんよ、どうせ俺達はこの村を捨てる心算だった。
 俺達が逃げた後なら、この家を自由に使ってくれていい。
 ボロボロでよければ、ここを逃げて行った住民の家を今直ぐ使ってくれていい」

 俺は村人の言葉に甘えて空き家を使わせてもらうことにした。
 とはいっても、ボロボロのまま使うつもりはない。
 追手の目を逃れるために、外観は廃屋のままがいいのだが、内部は強固にしたい。
 想像力を駆使して、圧縮強化岩盤の小屋を廃屋の中に創り出した。
 俺の知る範囲のルイビス王国の騎士や魔術士、集団勇者召喚された生徒達の攻撃に耐えられるくらい強固な小屋にした。

「これはお礼です、食べてくください」

 俺は逃亡途中で御礼用に狩った大鼠を魔法袋から取り出して渡した。
 体重五〇キロくらいの食べ応えのある大鼠だ。
 自分では食べる気がしないが、この国の貧民には御馳走だと聞いていた。
 大猪や大牛は自分が食べるように残しているが、大鼠はいらない。

「いいのか、本当にいいのか、遠慮しないぞ」

 男は震える声で聞き返してくる。
 家を捨てる決断をするくらいだから、本当に追い込まれているのだろう。
 ここ最近は何も食べていないのかもしれない。
 ボロボロの家の中から、痩せ細った子供達が飢えた目で見ている。

「ええ、色々教えて頂いた御礼ですから、遠慮しないでください。
 お陰で間違って大魔境に入らずにすみましたか」

「ありがとう、ほんとうにありがとう、これでここから逃げる体力がつく」

 男はそう言うと、宝物のように大鼠を抱えて家に入って行った。
 子供達と一緒に食べるのだろう、ここを出て行く前にもう三頭ほど渡そう。
 大魔境に挑む前に、拠点小屋の周囲に監視カメラのように使える眼を置く。
 飯を喰ったら大魔境突破に挑む、絶対に逃げきってやる!
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