一度目は悪役令嬢、二度目は鍼灸師、三度目はもう一度悪役令嬢、今度は聖女に陥れられたりしません。

克全

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4話

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「やあ、アイリス。
 今日もとても奇麗だよ」

「お褒めいただいてうれしいですわ、王太子殿下」

「なにを他人行儀な。
 私たちは婚約者ではないか。
 ネイサンと呼んでくれ」

「そうはいきませんわ、王太子殿下。
 婚約者とはいえ、私が軽々しい口調で話してしまうと、他の者も同じように口調を使ってしまうかもしれません。
 それでは王家の権威を低下させてしまいます」

「アイリスは相変わらず生真面目だね。
 まあいい。
 許可だけは与えておくから、使いたくなったら使ってくれ」

「ありがたき幸せでございます」

 別にアイリスは王家の事もネイサンの事もどうでもよかった。
 二度目の人生では、身分のない世界で百年の生きたのだが。
 わずか十八年で死んだ一度目の人生よりも、二度目の人生の方が記憶が強いのだ。
 だから本当は公爵家からも逃げ出したかった。
 身分差の激しいこの世界で、平民として生きるのはとても厳しいかもしれない。
 だがそれでも、貴族として社交界で生きるよりも幸せそうに思えた。

 だから着々と準備をしていた。
 冒険者ギルドに登録して、秘孔術研究で手に入れた獣を売って、貯金していた。
 公爵家令嬢の使うお金に比べれば、微々たる金額だ。
 それでも非常時には役に立つかもしれない。
 それに、毎夜の狩りである程度の自信がついた。
 少なくとも冒険者や狩人として生きて行けると思っていた。

「王太子殿下、アイリス様。
 お初にお目にかかります。
 ゴア騎士家のゾーイと申します。
 よろしくお引き回しのほど、お願いし申し上げます」

「無礼者!
 騎士家風情の娘が、自分から王太子殿下に話しかけるとは何事か!
 不敬罪で叩き斬ってやる。
 そこに直れ!」

 王太子殿下の護衛の一人が、失敗を糊塗しようと怒っています。
 まあ、当然ですね。
 そもそも、王太子殿下に自分から話しかけてはいけません。
 それは不敬になります。
 婚約者の私でも、そんな事はしません。

 普通なら、話しかける前に護衛が間に入って防ぎます。
 今回はなにもありませんでしたが、ゾーイが刺客だったら、王太子は殺されていました。
 明らかに護衛の失態です。
 ですが、ゾーイはこんなに強かったでしょうか?
 そもそも、こんな出会い方はしなかったはずです。

「まあ、許してやりなさい。
 何も知らない女子供のやることだ。
 ゴア騎士家といえば、最近家督を売ったと聞いている。
 どこかの商人が買ったのであろう。
 元が商人の娘なら、貴族の常識、礼儀作法を知らないのも当然だ。
 ゾーイと言ったね?
 これからは気をつけなさい。
 それから、貴族の常識を学ぶまでは、王宮に来てはいけないよ。
 晩餐会や舞踏会にも来ないように。
 次は庇わないから、確実に殺されるよ」

 ゾーイが下を向いて震えています。
 これは、内心の怒りを押し殺しているのかもしれません。
 ゾーイは怖い女ですから、何をしでかすか分かったものではありません。
 この流れは、私を陥れるよりも、王太子を殺そうとするのでしょうか?
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