ブレイブブレード!~俺は一振りの木刀で世界を変える!もふケモ娘と挑む異世界革命~

狐月 耀藍

文字の大きさ
3 / 135
第一部 異世界転移の異世界剣士

第3話:破邪顕正のチカラを、俺に

しおりを挟む
 ここからは、俺の戦いだ。俺は俺の道を生きるだけだ。野球のバットを持つように垂直に刀を構える「八相の構え」で、俺は怪物と対峙した。

 今度は、すぐには襲い掛かってこないようだ。俺の木刀を警戒しているのだろうか。月に向かって垂直に伸びる木刀が、奴の警戒心をかきたてるのかもしれない。
 このまま奴が逃げてくれたら──そんな願望が湧いてくる。でもそれはきっとありえない。じりじりと、緊張と焦りが嫌な汗を噴き出させる。

 ──動いた!

 様子を見るように左右にうろついていた怪物が、ゆっくりとこちらに向かってくる姿に、脚がふるえてくる。

 ……ふざけんなっ!
 訳の分からない世界に放り出されて、冒険者の集団に捕まったと思ったらこんなデカい熊の怪物に喰われて死ぬだって?

 ──誰だ、こんな理不尽な筋書きを書いた奴は!
 やられてたまるか、俺は絶対に生き延びてやる!

 奴はゆっくりと近づいてくる──と思ったら突然、突進して噛みついてきた! かろうじてかわしたと思ったら、奴は素早くこちらの間合いから離れる。そしてまた噛みついて来てはまた離れて様子を見る。

 ……こいつ! 一撃必殺の突進から、ヒットアンドアウェイ戦法に切り替えやがった! 立ったら3メートルはありそうな図体で、すばしこすぎるだろっ!

「うらあッ! おりゃああッ!」

 せめて気合負けするものか!
 雄叫びと共に、何度も打突を鼻面にぶっ放す!

 だけど、何度目かに奴の爪がシャツに引っかかった瞬間、あっと思う間もなく刹那の浮遊感、そして地面に叩きつけられる衝撃!
 とっさのことで受け身も中途半端になってしまい、痛みをこらえて必死に立ち上がろうとした時には、既に奴が目の前にいた。

 悲鳴を上げる間もなかった。
 世界が妙にスローモーション。
 死ぬ──そう感じた瞬間だった。

「こっち。ケイオスの魔物さん、こっち」

 背後から聞こえたのは、高く澄んだ声だった。
 怪物の目が、俺からそれる。
 奴の視線が追っていたのは──

「……チビ⁉ お前、どうして……!」

 逃げたとばかり思っていた、チビの姿だった。月明かりの下で、ふわふわの毛並みをなびかせるように、チビは俺たちに、背を・・向けて・・・走り出す。

「グルゥオオオゥッ!」

 吠えた怪物が、チビの背を追って走り出す!

「ば、バカ! 背を向けるなって、走るなって言っただろう!」
「こっち、こっち……」

 俺の叫びなど聞こえないかのように、チビは走っていく。時々止まっては、「こっちこっち」なんて言いながら。
 バカ野郎! そんなふらふらした脚で!
 ああ、噛みつかれる! 逃げろ、喰われてちまう! もういい、俺が行く! 逃げろ、逃げるんだ!

 痛む肩を押さえながら、俺は必死でチビのもとに走り出した。あんな無茶なこと、ほっとけるか!

 その時だ。
 離れていたし、月明かりで暗いのに、はっきり分かった。

 チビはこっちを見た。
 見て、首を振ったんだ。
 それは一瞬のことだった。

 チビが奴に追いつかれるまでの、ほんの一瞬。

 小さな体が、黒い腕に薙ぎ払われて、吹っ飛ばされる。
 まるで、スーパースローの動画を見ているみたいだった。

 いったい、何メートル吹き飛ばされたのだろう。金と白の毛玉が、何かの冗談みたいに俺の方まで飛んでくると、地面を大きく一度、そして二度、三度とバウンドし、転がり、動かなくなる。

「……うわああああっ!」

 無我夢中で駆け寄ると、腰のあたりを赤く血で染めたチビが、苦しそうな息遣いで、うつ伏せに倒れていた。

「チビ、おいチビ! しっかりしろ!」

 俺はチビを抱き起こす。
 ふかふかな毛は泥まみれだったが、上半身には目立った外傷は見られなかった。

 でも、チビの腰に、じわじわと赤い染みが広がっていく……!
 声をかけて揺すぶると、チビは薄目を開けた。
 そして、笑ったんだ。
 犬の笑顔なんて知らない。でも──

「にげ、て……。うらみっこ、なし……」

 確かにチビは微笑んだ。
 柔らかな微笑みだった。
 そのまま、目を閉じる……

「グフウウウウウ……!」

 ──怪物のうなり声!
 奴は距離を置きつつも、ゆっくりと歩きながらこちらをにらみつけている。
 砕けんばかりの勢いで歯を食いしばると、俺は素早く立ち上がり、木刀を正眼に構えた。

 チビの馬鹿野郎、なにが「恨みっこ無し」だ。
 ふざけんじゃねえぞ、俺のセリフを横取りするな。
 チビ、お前が初めてなんだぞ。
 この理不尽な世界で、あんな柔らかな微笑みを俺に向けてくれたのは。
 ……ずっと不機嫌で、怯えたり噛みついたりしてきたお前が。

 みんな死んだ、死んでしまった……喉の奥にこみ上げてきた言葉を、無理矢理噛み潰す。

 まだ終わってない!
 あのふかふかの体は、小さくて、軽くて、やわらかくて、温かかった。
 ……温かいなら、まだ死んでなんかいないはずだ!
 死なせてたまるか!
 あの腰の傷だって、手当てすれば絶対なんとかなる!

 にじむ涙をシャツの袖で拭いながら、木刀を強く握りしめたときだった。

『よいか、一真かずま。勉強などできずとも良い。強くなれとも言わん。時には臆病風に吹かれることもあろう』

 不意に、剣術を教えてくれた爺ちゃんの言葉が脳裏をよぎる。
 
『だが、後になって悔いる生き方をするな。己を恥じる卑怯者にだけはなるな。蛮勇は勧めんが、ここ一番というときに踏みとどまり、誰かの為に命を張る勇気を持てる人間ひとになれ』

 木刀に刻まれた、破邪顕正はじゃけんしょうの文字。
 「武道で心身を鍛え、その力を正しい行いに用いるべし」という爺ちゃんの願い。
 鍛えた心身で、人助けに生きる──俺の願い。

 震える脚を、腕を、心の中で叱咤する。

 あんなに俺のことを嫌いだとか何とか言っていた子が、初めて見せた笑顔……
 あいつが走り出さなきゃ、俺はとっくに喰われていた。

 今度は俺だ。俺以外のいったい誰があの子を助けるんだ!
 踏み止まれ、誰かの為に命を張る勇気を持つヒトになれ!

 夜の底を震わせる恐ろしい咆哮と共に、怪物が距離を詰めてくる!
 逃げるなんて選択は無し──全力で地面を蹴り、気合一閃!
 鼻面をぶん殴られた奴は、首を振りながら後ずさりし、一度立ち上がって威嚇をしてみせてから、再び距離を詰めてくる!

 ガリッ──!

 打ち込んだ直後に、奴がパワーショベルのような手でぶん殴ってくる! とっさに盾にした木刀ごと吹き飛ばされたけど、今度は受け身が取れた。この木刀でなかったら、そのままへし折られて俺は死んでいただろう!

 すぐさま響く、すさまじい咆哮! 牙が月明かりにギラリと輝く。

 ──負けられるか! 勇気を振り絞れ!
 上段の構え──木刀を振り上げ、この一撃に賭ける!

「爺ちゃん、チカラを! 破邪はじゃ顕正けんしょうのチカラを、俺にくれ!」

 その瞬間──月明かりの加減だろうか、木刀が青い光に包まれた気がした。
 叫び声と共に飛び掛かってくる怪物を、
 渾身の力をこめて振り下ろした木刀が、
 その真っ黒な鼻面を叩き割る!

 硬い衝撃と共に飛び散る、すさまじい青い火花!

 身のすくむような恐ろしい怪物の叫び声と共に、衝撃で身体が弾き飛ばされる!
 何が起きたのか俺自身わからないまま、それでも受け身を取って立ち上がる!
 ──右手が痺れてうまく握れない!
 けど俺は生きてる……まだ戦える!
 必死に立ち上がって木刀を構えると、鼻面を押さえていた怪物めがけてもう一度、全身全霊の一撃を振り下ろす!

「くらええええっ!」

 ドガガガァァァンッ! のたうつ大蛇のようにほとばしる青い稲妻!

「グギャオオオオオオッ!」

 腹の芯まで響いてくるような、怪物の叫び声!
 またしてもその衝撃に吹き飛ばされる──でも、俺はかろうじて衝撃を受け止めるように受け身を取り、足を踏みしめ木刀を八相に構える!

 だけど怪物の方は、鼻面を押さえるようにして恐ろしい悲鳴を撒き散らしながら、首を振って苦しげに悶えつつ、森の方に逃げていく……!
 姿が消えても恐ろしげな唸り声が響いていたが、しばらくして、辺りは元の静寂を取り戻したようだった。

「……た、たす、かった、のか……?」

 妙に体に力が入らない。
 俺は木刀に寄りかかるようにして、かろうじて体を支えようとした。

 で、飛びついてきたふかふかな何かに押し倒されたのが、記憶の最後だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【短編】子猫をもふもふしませんか?〜転生したら、子猫でした。私が国を救う!

碧井 汐桜香
ファンタジー
子猫の私は、おかあさんと兄弟たちと“かいぬし”に怯えながら、過ごしている。ところが、「柄が悪い」という理由で捨てられ、絶体絶命の大ピンチ。そんなときに、陛下と呼ばれる人間たちに助けられた。連れていかれた先は、王城だった!? 「伝わって! よく見てこれ! 後ろから攻められたら終わるでしょ!?」前世の知識を使って、私は国を救う。 そんなとき、“かいぬし”が猫グッズを売りにきた。絶対に許さないにゃ! 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。 絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」! 畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。 はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。 これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~

草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
ファンタジー
黒き狼の神獣ガルーと契約を交わし、魔人との戦争を勝利に導いた勇者が天寿をまっとうした。 勇者の養女セフィラは悲しみに暮れつつも、婚約者である王国の王子と幸せに生きていくことを誓う。 だが、王子にとってセフィラは勇者に取り入るための道具でしかなかった。 勇者亡き今、王子はセフィラとの婚約を破棄し、新たな神獣の契約者となって力による国民の支配を目論む。 しかし、ガルーと契約を交わしていたのは最初から勇者ではなくセフィラだったのだ! 真実を知って今さら媚びてくる王子に別れを告げ、セフィラはガルーの背に乗ってお城を飛び出す。 これは少女と世話焼き神獣の癒しとグルメに満ちた気ままな旅の物語!

終末世界の解析者~現代ダンジョンに滅ぼされた世界で最強クラフトスキルを駆使して送る、快適楽園スローライフ!~

はむかつ
ファンタジー
目が覚めたら世界が滅んでいた!? 世界中に突如現れた現代ダンジョンにより、世界人口の大半が死滅した。 植物が侵食し都市機能がマヒした世界で、生き延びたわずかな人同士で物資を奪い合うディストピア。 研究施設で目覚めた朝霧ユウトは、そんな終末世界で生き延びるために最適なスキル『解析・修理・復元』が使えるようになっていた。 物資調達に来ていた美人姉妹との出会い。 極悪な集落との決別、新しい拠点づくり。 現代知識を駆使した快適なスローライフ。 次々に増える居住者(ハーレム要素あり) 極悪な元集落へのざまぁ展開。 そしてダンジョンの謎、この世界の行く末は……。 個性豊かなキャラクターとともにサバイバルを生き抜いていく、時にシリアス、時にほのぼのなストーリー、ここに開幕。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました

たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。 「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」 どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。 彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。 幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。 記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。 新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。 この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。 主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。 ※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。

処理中です...