ブレイブブレード!~俺は一振りの木刀で世界を変える!もふケモ娘と挑む異世界革命~

狐月 耀藍

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第三部 異世界剣士と血塗れの聖女

第99話:神の奇蹟と恩寵は誰の為に

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 大聖堂前広場──そこは人でごった返していた。
 もうすぐ新年を祝う降臨祭ベネディクス、その時の女神役の聖女がお披露目されるということで、その姿を少しでも近くで見たい、という人たちが、大聖堂のバルコニーの前に殺到している。
 デリカはどうやら敬虔な女神信者のようで、感激して目を潤ませていたものだから、俺たちはにじり寄るように、バルコニーの近くまでやってきていた。
 押し合いへし合い、大変だけれど、熱気がすごい。これが信仰心って奴か。

「わふう……! すごい、きれい……! あそこに女神さまが立つの?」
「シェリィはなんにも知らないんだな! あそこには聖女さまが立つんだぜ!」

 シェリィが、スカートの下でぶんぶんしっぽを振りながら興奮気味にバルコニーを指せば、したり顔でファーシャが答える。けれどファーシャの方も、ピンと立ったしっぽがゆらゆら揺れている。興奮が隠せないようだ。

 シェリィにもファーシャにも、そしてもちろんデリカにも、フード付きのケープを道中で買った。少しでも、「獣人」として目立たないようにするためだ。特にデリカは、俺よりも若干背が高い上に美しい豹柄が目立つからだ。

「私、このような場に参るのは初めてです。あなたさまのおかげです。ありがとうございます」
「気にするなって。それより、俺の側から離れないようにな」
「……はい! あなたさまのおそばから、決して離れません」

 そう言って身を寄せてきた彼女は、太いしっぽを絡めるようにしてきた。

 昨日や一昨日のようなことにはならないために、俺はあえてマントの上に木刀を背負って、シェリィたちのそばにいる。手を出すとこいつが黙っちゃいないぞ──そんなアピールだ。

「あっ、見ろよ! 聖女様だ!」

 ファーシャが声を上げる。バルコニーの奥のステンドグラスの窓の一部が開き、白い装束に身を包んだ女性の小さな影が出てきた。途端に人々が右手を上げてその手のひらを聖女に向ける。

「聖女様!」
「こっちをみて、聖女様!」

 人々が興奮気味に、口々に叫けぶ。

 バルコニー上に立った聖女の背後に、きらびやかな祭服に身を包んだ神殿の高位神官たちが並ぶ。最後に出てきた、遠目にも金ピカな服を着た神官が、声高らかに話を始めた。その声は、法術で拡散されているのだろうか、バルコニーからの声なのに、はっきりと聞こえてくる。
 女神様のお慈悲がうんぬんかんぬん、聖職者にありがちな、つまらなくも「ありがたーいお言葉」が続く。周りはなにやら涙まで流しながら聞いているお婆さんとかもいたりするが、まあ、聞き流していた。
 そして、その話がようやく終わったかと思ったら、ひときわ声高く、

「これより創世の女神様の恩寵の証として、病める者への、聖女の癒やしが施される!」

 それを受けて、ひときわ大きな歓声が次々に上がる。その声はたちまち広場を飲み込んでいく。

「病める者? ……あれ? 法術では、病気は治せないんじゃなかったのか?」

 俺は首を傾げたが、誰も疑問に思う人はいないようだ。むしろ、「さすが聖女様!」「創世の女神様、万歳!」といった具合に、歓声と共に口々に聖女や女神を称える言葉が上がる。

 すると、神殿騎士の一団が、よろめく人を何人か、支えながらバルコニーの下へとやってきた。バルコニーの前に立った人々は、ひざまずいて何か祈るような仕草をみせた。

「かの者たちは、己の生きる罪を見つめ、神殿にて贖罪にすべてを捧げてきた徳の高い者たちである。女神様は、このように己のすべてを信仰に捧げる者に、より大いなる恩寵を垂れてくださるものである!」

 さっきの神官の声に促されるように、聖女はバルコニーの端までやってくると、ゆっくりと手にした杖をかざした。

「創世の女神がお慈悲とお力をもって、フォスタファエラが命じます。我が手の先に御使いの高貴なる癒しの恵みを与えたまえ──『守護精霊のエンジェラ・癒しの手リーク』!」

 すると、その杖の先の空中に、複雑な紋様が何重にも描かれた、青く輝く巨大な魔法陣みたいなもの──法術ザウバー紋章陣カームが出現した。広場の人々から、感嘆の声が上がる。

「おお、女神様のお慈悲の証だ!」

 青く輝く法術ザウバー紋章陣カームは、しばらく回転するようにそこにあったが、次第に輝きを増し、そして魔法陣から金色の光の柱がその場に出現した。

「おおおお!」
「癒しの奇蹟の光だ!」

 誰もがその光を少しでも浴びようとするかのように、虚空に向かって手を伸ばす。
 光の柱が徐々に明るさを失い、消えた時、そこにいた「病める者たち」が、叫んだ。
「おお……! 見える、見えるぞ! き、奇蹟だ! 目が、目がぁあああっ!」
「い、息ができる! こんな安らかに……! 奇蹟だ……! 女神様、私の信仰のすべてをお受け取りください! ああっ女神様っ!」

 彼らの声も、はっきりと聞こえてくる。やっぱり、声を何かの手段で拾って拡散しているらしい。そうした喜びの声に、広場の人々の興奮もまた、一層高まっていくようだ。

「……法紋ディス術符カーマーを使った符術師カルドミナではない、本物の法術を……聖女様の御業みわざを、この目で見ることができるなんて……! ああ、あなたさま! 私は、私は……!」

 デリカがやたらと感激している。そうか、やっぱり符術ではない法術って、あまり一般的じゃないのかもしれない。まあ、異世界日本出身の俺が使えちゃうくらいなんだから、符術の方がずっと一般的なんだろう。

 それにしても、この熱狂ぶりはすごい。誰も彼もが、聖女の起こした「奇蹟」を目の当たりにして沸いている。

 でも、なんだか俺の心は、周りが涙を流すほど熱狂すればするほど、なにか違和感を覚えていた。

 さっきの光の柱も、実は大して感動したわけじゃなかった。まあ「現実」でその現象が起きたのは確かにすごいと思ったけど、それだけだ。ゲームの魔法のムービーで、巨竜が星を焼き尽くすような派手な演出に見慣れてしまっているからなのかもしれないが。

 それに、あの「奇蹟」を受けることができる人ってのは、神殿で罪を償うために徳を積んだ人、というのも違和感があった。
 なぜなら、法術というのは、女神が残したチカラを体系的に解明して、人間にも使えるようにした「技術」だというのをリィダさんから聞いているからだ。

 つまり、ある「法則」に従って条件を満たせば、コンピュータのプログラムのように使いこなせるチカラということなんだ。だからこそ、リィダさんから学んだことをもとに、日本出身の俺が独力で「必殺技」を編み出したりできたわけで。

 ということは、べつに信心深くなくても、発動条件さえ整えることができれば、誰だってあの奇蹟の恩恵を得ることができるはずなんだ。別に神殿関係者にならなくたって、いつだって、誰だって。

 一度気になり始めると、いろいろと疑問が湧いてきてしまう。純粋に信じている人たちには悪いけど。
 そう、まるでこれは、怪しい新興宗教のような──

 その時だった。

「どうか、どうか聖女様! この子を、この子をお助けくださいまし!」

 悲鳴のような声が上がった。そちらを見ると、胸に何か、白いものを抱いている女性だった。
 よく見ると、犬のような大きな耳を左右に垂らした、獣人の女性だった。胸に抱いているのは、白い布にくるまれた赤ん坊のようだ。

「この子は……この子はつい先日、乳を激しく吐きました! 何日もひどい熱を出して……ようやく熱が引いたと思ったら、眠り続けたまま目を覚まさぬのです! このままでは、この子は……! 聖女様! どうか、どうか女神様の恩寵を、この子にも……!」

 涙ながらの悲痛な訴えに、群衆がざわめき始める。

「ねえ、ご主人さま。かわいそうだよ、あの赤ちゃん。聖女さま、なんとかしてあげられないのかな?」

 シェリィが首をかしげる。ファーシャは「無理に決まってんだろ。こんなところにいる貧乏人に、癒しの奇蹟なんて」と冷めた目だ。

 そして、周りの反応も、おおむねファーシャと同じようなものだった。

「……バカだねえ。司祭様のお話を聞いていなかったのかい。獣人はやっぱりあさましいわねえ」
「女神様から特別な恩寵をいただけるのは、自分の罪を償いつづけた徳の高いヒトだけだというのに。獣人のくせに、自分は徳が高いとでも思っているのかしら」
「女神様の創り損ないが、女神様のお慈悲をいただけると思っているのか?」

 ぼそぼそと聞こえてくる、侮蔑的な言葉。中には同情的な言葉も聞こえてきたけれど、ほとんどは否定的なニュアンスの言葉ばかりだ。それも、主に「獣人」であることを理由に。

 そのときだ。

「獣人のくせに、女神様の恩寵が欲しいだと? 身の程を知らぬ恥知らずな下郎め!」

 奇妙な白装束を身に着けた男を中心に、どこからかやってきた。白装束とはいっても、神殿関係者のような服装ではない。中心の男は白い三角帽子をかぶり、シンプルな白い服を着ている。見ようによっては、頭から足先まで、三角錐のような、奇妙な恰好だった。
 そしてその周りに、まるで取り巻きのような男たちがいる。

 押し合いへし合いのこの広場にあって、彼らの周りには人がいない。よっぽど面倒くさい連中だと嫌われているんだろうか。

「そもそも獣人のごときが、聖女様の足元にいること自体が不敬! お前ら、この汚らわしい不敬な犬をどうすればいい!」

 白装束の男が叫ぶと、周りの男たちが「追い出せ! 広場から追い出せ!」「鞭打ち百じょうにしろ!」「このガキもろとも石打ちにして街から叩き出せ!」などと叫びながら女性を捕らえた。

「ひっ……! や、やめて……! いやあっ! この子に触らないで!」
「ケダモノの穢れた血を引くガキだ! 罪を重ねる前に冥府に送ってやるのが、いっそ慈悲というもの!」
「大聖堂前を血で汚すな、首を折って街の外に捨てろ!」
「やめて、やめてえっ!」

 女性の悲鳴が響く。
 さすがにこれには眉を顰める者もいるみたいだった。けど、誰も動かない……!
 なんでだよ……! こんなムチャクチャな野郎どもを、なんで誰も止めないんだよ!

 気がついたら、前の人間をかき分け、押しのけ、突き飛ばしていた。

「やめろお前らっ! 寄ってたかって弱い者いじめをしやがって、ひととして恥ずかしくないのか!」
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