ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

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第一部 異世界建築士と獣人の少女

第77話:英雄

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 半刻ほど炊き出しを手伝い、スープと一緒にドライフルーツを配っていた俺たちは、炊き出し後の後片付けを手伝ったあと、タキイ婦人と話をすることができた。

「まあ、それでは、ムラタ様も“ニホン”から?」
「ええ、まあ……。時代は違いますが」
「やっぱり、あの山はそういう因縁がおありなのですね」

 タキイ婦人は、ペリシャと名乗った。リトリィよりも小さな耳、リトリィよりも薄い体毛、そして鼻以外はほとんど人間と変わらない造作ぞうさくの顔の、猫型の獣人族だった。
 猫属人カーツェリング、というらしい。

 一緒に働いていた獣人の女性は、狐の特徴を持つ女性だった。こちらは狐属人フークスリングというそうだ。
 二人ともしっぽはスカートの下で確認はできなかったが、腰のふくらみから、おそらくしっぽもあるのだろう。

 それにしても驚いた。瀧井氏は、自身を引き留めた女性をと表現した。そのため、てっきりだと思い込んでいたのである。

 ――いや、瀧井氏にしてみれば、愛した女性を一人の「ひと」として扱っていたにすぎないのだろう。さすがは我ら日本人。千年前から動物と会話し動物を嫁にしてきた、千年越しのケモノ好き。

 瀧井氏に、自分と相通ずるものを感じて、変な同志意識が目覚める。早速今夜あたり、飲みに誘ってみよう。あ、そのためにリトリィにお小遣いをもらわないと。

 しかし、瀧井氏は七十台相応の老け具合なのに対して、瀧井夫人はそれほどでもないように見える。獣人族は成長が早いと聞くが、寿命も人間より長いのだろうか。そう思って年齢を聞いて驚いた。

「女の年を聞くものではありませんよ? ――と言いたいところですが、恥ずかしながら五十六になります」

 ――――!?

 ちょっと待って、瀧井氏は七十代だろ!? 奥方が五十六!?
 ――すごい、歳の差は十五を超えるよな? これは……やるねぇ。瀧井氏、あんた英雄だよ。

 この年の差は、リトリィも驚いたようだ。だが、自分も年の差カップルの自覚があるのか、積極的に話を聞きたがる。

 話によると、瀧井夫人はこの街の出身ではないようで、この街からやや離れた村で生まれたそうだ。
 馴れ初めは、日照りで苦しんでいた村に灌漑かんがい指導に来た彼が、村人の戦闘指揮を担って戦ったのを手伝ったときだという。

「……え? 灌漑指導で戦闘指揮? なんでそんなことに?」
「日照りで食べ物が少なかったものですから、野盗がやって来たのでございます」

 はじめは、畑の一角の野菜が盗まれるとか、食用の家畜が盗まれるとかだったそうだ。当初は獣の仕業なのかそれとも泥棒の仕業なのかが分からず、とにかく柵を強化することにしたのだという。

 ところが、その柵を壊され倉庫を襲われて食料をごっそり盗まれ、しかも警備にあたっていた若者が殺されたのだという。
 そこで、当時村に灌漑指導に来ていた瀧井氏が、盗賊団であると断定。冒険者ギルドに、野盗討伐を依頼したのだ。

「冒険者ギルド!!」
 この言葉を聞いて、ゲーム世代の俺が興奮しないはずがない。妙にハイテンションになってしまった俺だが、次の言葉に意気消沈である。

「ですが、どなたも来てくださらなくて」

 出せる報酬が少なかったためか、誰も依頼を受けてくれなかったのだという。
 情報が少なく、野盗の規模もあいまいな表現しかできずとあってか、冒険者達にしてみれば、手を出しかねたというのもあるかもしれない。
 三日待っても、五日待っても、討伐隊は組まれなかったのだそうだ。

 ただでさえ村という小規模の集落で、しかも日照りで作物もろくにとれず、ゆえに蓄えもなく、そのため出せる報酬も少ない。
 おまけに人間相手となるリスク。

「……こういうのって、大抵ゴブリンとかのザコモンスターが相手だもんな、ゲームだと。序盤の依頼の定番だよなあ。しかし、誰も引き受けてくれなかったってのは――」

 現実は厳しいということか。

 そのため、村人たちに灌漑指導をしていた瀧井氏が名乗り出たのだ。放っておくと被害はいずれ必ず村を滅ぼすことになる、自衛するしかないと。

 瀧井氏は、戦いの準備となるものを次々に提案。村の全周にロープを張って鳴子なるこをぶら下げ、どこかで引っかかれば必ず音が鳴るようにして警戒網を設置。
 どこで鳴っても即時対応できるように、村のいくつかの小屋を詰所代わりにしてそこに人員を配置。

 鳴子は村の子供たちが総出で作り、年長者が設置して回ったらしいのだが、その鳴子作りをペリシャさんも手伝ったのだという。

「鳴子作り自体は楽しかったですよ? 鳴り物というものは、子供心に興味を引かれますし。
 実際、この時に作った鳴子をもとにして、今では子供のおもちゃや祭りの踊りに使う鳴り物として、村の特産品になっています」

 実際には想定外の人数の野盗が襲撃に来て、村の若者を中心に幾人もの犠牲者が出たという。

 だが、竹――驚いたが、あるらしい――の先端を斜めに切っただけの槍を装備させて組織し、数日とはいえ瀧井氏によって訓練された自警団は、作戦通り適切に撤退することで野盗どもを誘導。

 村の広場に集まってきた野盗に対して、家と家の間を竹で作った柵や竹で作った置き盾によるバリケードで封鎖。逃走ルートを遮断したうえで、大人、子供関係なく、すべてが全方位から投石を開始。

 石を投げつくしたところで、竹の盾と槍で武装した自警団が、乱れに乱れた野盗どもを包囲殲滅したのだという。

 たとえ命乞いをしようとも、一人も生かして帰さなかったというから恐ろしい。
 だが、村の若者に犠牲が出てしまっていた以上、村人たちの怒りが収まらなかったのだろう。

 それにしても、全方位からの投石か。機関銃で兵士をなぎ倒すようなものだろうか。投石は卑怯な気もするが、考えてみればまともに戦ったら、戦闘訓練など受けていない村人の方に相当な犠牲者が出ていたはずだ。

「彼は、村の英雄でした。犠牲は出ましたが、それ以上に、村を救ったのですから。
 亡くなった方の中には、私によくしてくださった方もいらっしゃいましたから、悲しいことではありました。
 でも、そうした方の犠牲に報いることができたあの夜の戦いは、私たちにとって悲しみと共に、戦う意志の必要性を痛感させてくれたのです」

 ――実際に中国大陸で戦闘を経験し、部隊を指揮してきた瀧井氏だからこそ、そうやって作戦を立て、村人たちを効率よく動かすことができたのだろう。

 しかし、当時四歳だったペリシャさんも石を投げた、というのはやり過ぎなのではないかと思った。

 現代の地球でも、少年兵の問題が取りざたされる。子供を誘拐し、銃を持たせ、戦わせる。そうやって内戦がいつまでも終わらない地域。
 一人でも戦力が欲しいというのは分かるが、子供を戦いに使うというのは、どうにも違和感があるというか、納得しがたいものがあった。

 だが、そんな俺の気持ちを察したように、ペリシャさんは話をしてくれた。

「あの夜は、ただ単純に『悪者をやっつける』という高揚感しかありませんでした。今思えば、恐ろしいことだったと思います。
 ですが、自分たちの村を自分たちで守る――その、当たり前に気づかされた夜だったとも思います。草を食む獣ですら、時には群れを守るために戦うのです。私たち『』が、それをできなくてどうするというのでしょうか」

 その後、もう一度、今度はもう少し大きな規模の集団が襲ってきた。瀧井氏の予想通りの、先の食料目当ての少人数ではなく、復讐に燃えた本隊、その数二十人以上。

 しかしこれも、瀧井氏の想定の範囲内であったそうだ。
 一度目の戦いで自信をつけ、しかし瀧井氏の訓練によって慢心することのなかった自警団の活躍と引き込み戦術、火矢を想定した火消し用の砂の備蓄、そして大量に準備された投石用の石などによって、二度目の大規模襲撃にも耐え抜いたのである。

 やはり犠牲をゼロに抑えることはできなかったが、それでも二十人以上という襲撃者に対して、村人はよく戦い、村を守り切ったのだ。

 確かに、瀧井氏は、救村の英雄だった。
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