ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
91 / 785
第一部 異世界建築士と獣人の少女

第84話:引き寄せたもの

しおりを挟む
「……じゃあ、図面が出来上がったら、今度はわたしに、お時間をいただけますか?」

 なんだろう、目をそらしたまま、しかし、かすかに肩が震えているように見える。寒いのは寒いが、それとは違う感じがする。

「ああ、いいよ。もちろんだ」
「……本当に?」
「なんだ、信じてくれないのか?」
「それは――」

 言いかけて、言い淀む。
 少しためらったようだが、口を開いた。

「……ムラタさん。ムラタさんは、今回のこと、として引き受けられているんですよね?」

 少し、意外な質問だった。
 仕事――そう、仕事として受けている。自分の将来性を、広くアピールするための。

「ええと、一応、そのつもりだけど?」
「ムラタさんは、これから、お家づくりの仕事を、されていくんですか?」

 先程までの不安げな顔や、その前のいたずらっぽい微笑みでもない。
 真っ直ぐ俺の目を見つめる、とても真剣な表情。

「……ああ、そのつもりだよ」

 こちらも、真剣に受け止めていることを伝える。なにせ、ペリシャさんには昨夜、リトリィが世話になったようだし。
 あのとき、リトリィ自身は泣いていた理由を教えてくれなかったが、ペリシャさんは彼女の味方になってくれたみたいだし、その恩にも応えなくちゃな。

 そう思っていたのだが、リトリィの考えは違っていたようだ。

「……じゃあ、ムラタさんは、これから、この街で、お仕事をされていくってことですか……?」
「この街で?」

 ……それは違う。

「こんな、リトリィにとって住みづらそうな街で仕事はしたくないな」
「じゃ、じゃあ、お仕事は……?」
城内街ここでなくて、門外街なら考えてもいいけどね」

 ある程度大きな街でないと、建築士としての出番は多くないからな。本当は、獣人にとっても暮らしやすい、そんな街がほかにあればいいんだけど。

「じゃあ、ペリシャさんのお仕事が終わっても、お仕事、ずっと続けていくってことですね?」

 ……ん? ひょっとして、リトリィは、俺があの山の家を出ていくことを心配しているのだろうか?

「……ああ、続けてはいきたいが、まだどこでかとか、そういう――」
「お仕事として、お家づくりを続けていくんですよね?」

 んん……?
 家を出るとかじゃなくて、なんか、俺がを確認されている?
 家を出ることを心配している、とかじゃなくて?

「リトリィ、俺が家を出ることを心配しているのか?」
「いいえ? どうして、ですか?」

 ――
 じゃあ、何を確認しようとしている?

「ああ、いや、リトリィがそのことを心配してるのかなって思ってさ」
「だって、わたしはもう、あなたのおそばにずっといるって決めましたから。あなたの居場所が、私の居場所です」

 んん……!?
 いまなんか、すごいこと聞いた気がするぞ!?
「リトリィ……。それ、つまり、どういうことだ?」
「そのままの意味ですが、なにか、おかしなことを言いましたか?」
「い、いや、いい、リトリィがそれでいいなら……」

 これはあれか?
 俺のためなら、鍛冶師の仕事を投げ出してもいいと、そう言っているのか……?
 それはまずい、それじゃ彼女の大きな可能性を潰してしまうことになるんじゃないか――?

 とかなんとか考えていたら、リトリィが、本当に嬉しそうに、とんでもない事を口にした。

「じゃあ、わたし、もうを、んですね! うれしいです!」
「……あか、ちゃん?」

 リトリィの言葉に、俺は目が点になる。
 口が半開きのまま、あとの言葉が続かない。

「だって、お仕事が見つかるまでは、仔は控えようって、そういうお話、されましたよね?」

 ……あー、山を下りるときの、その一泊目だったか?

「うれしいです! こんなに早く、あなたが心を決めてくださるなんて! 明日、ペリシャさんにお礼を言わなきゃ!」

 じゃあ、お仕事のお邪魔をしちゃいけませんから! と、リトリィはすぐさま腕をほどく。
 ベッドから抜け出すと、リトリィは夜着の上からショールを羽織り、

「お茶、入れてきます。下の暖炉は、まだ火が残っているはずですから!」

 そう言って、リトリィは部屋を出て行った。
 足元は軽やかにステップでも踏むように、尻尾をぶんぶんと勢いよく左右に振りながら。

 突然、ぽつんと部屋に取り残され、俺はぽかん、としてしまっていた。

 「もうを、』だって――?

 いったいどういう意味だ?
 産んでとは?

 しばらく自問していて、そして気が付いた。

 俺はあのとき――山での一泊目の夜、『今はまだ仕事を見つけていない』ことを理由にして、その場を凌いだ。
 それに対してリトリィは、『今は諸事情で子作りはしないが、は産んでいい』と解釈していた。

 そのが来るのは、俺はもう少し先の話だと捉えていた。
 そのを引き寄せるために、まず今回の依頼を「仕事」と捉え、今後の安定した仕事をするための足掛かりにするつもりだった。
 いずれ、自信をもって彼女を迎えるために。

 しかし彼女は違った。
 今回の依頼を「仕事」と捉え、「仕事を見つけていないから赤ちゃんを作れないムラタ」が、「仕事を見つけたから赤ちゃんを作れるムラタ」になった、そう考えたのだろう。

 結論をとりあえず先延ばしにしたつもりだったのに、今回の件で、あっさりと「いずれ来る未来」を「現在」に引き寄せてしまったのだ。

 ……というか、なんか、もうこうなるとリトリィにハメられたような気がしてくる。あの、広場でペリシャさんに俺を推したっていうのは、最初からこうなることを狙っていたのだろうか。

 いや、もちろん俺自身、いずれは彼女を妻に迎える気ではいたんだけど、俺がプロポーズする前に、先回りした彼女が事実上の夫婦宣言をしてしまったみたいな。

 いや、彼女に悪気なんてないんだろうけど、なんで彼女はこうも話を急ぐんだろう。彼女は十九、俺だって彼女にいずれ一緒になるって伝えてあるはずだし、そんなに焦る必要はないように思うんだが。

 ……ひょっとして、アレか?
 俺がだいぶ年上なものだから、悠長にしすぎると、子作りしたくなった時に俺のほうが役に立たなくなってしまっているかもしれないってことを恐れている――のか?

 ……ありうる。
 なんせ彼女は、で幼少期を生きてきた女性だ。
 そのなかで、高齢の男性がなかなか立たなかったり、不能だったりするのを見てきたこともあったかもしれない。俺がそうなってしまったら子作りもできなくなる、そう考えていてもおかしくない。

 ……昨日、酔い過ぎて役に立たなかったことも、そうした心配に拍車はくしゃをかけてしまったのかもしれない。

 もちろん、いまさら、王都のストリートで少女娼婦として生きてきたことをとがめる気などさらさらない。そうやってこなければ生きてこれなかったのだろうから。
 そんなことより、俺はまだ二十七歳。さすがに子作りで心配されるような歳じゃない。だから、と、安心させてやらなきゃいけないのかもしれない。

 お互いの意図はなんであれ、今回の依頼は、結果として、俺たちが望む未来を、より手元に引き寄せたといことになるんだろう。
 ……だったら少しでも彼女の不安を取り除いてやりたい。



 あらためて図面を引き始める。
 今の小屋を炊き出しの拠点としてきたのだから、建て替えるにしてもやはり炊き出しを始め、さまざまなことに使いやすい建物にしたい。

 だれもが気安く使えて、出入りも簡便な方がいいとなると、思い切って通常のドアでなく、跳ね上げ式のガレージドアなどはどうだろう。広々とした開放的な出入り口にするのだ。跳ね上げ式にすることで、開いたガレージドアは、そのままひさしにするのもいい。
 もちろん、簡便な出入りのために、通常の出入り口も欲しい。いちいち重い扉を持ち上げるなんて、大変だからだ。

 ……そうだ、その扉をガレージドアに接するように通常のドアも設置すればどうだろう。普段使いはドア、人を集めるときにはすべてオープンにして、さらに広い出入口にすることも可能にできる。
 人が住む家、と考えずに、誰もが使える作業場といった感じなら、それもありな気がする。
 ただそうすると、耐力壁に使える壁が減るわけだから、別のところで強度を稼ぐ必要がある。どうするか、しばし頭を痛める。

 炊き出しに便利なように、調理場は入り口の近くに設ける。何なら、キッチンの前に窓を設け、そのまま屋台ふうに利用できるようにするのもいいかもしれない。

 いや待てよ……? そうすると、広い窓を確保しなければならない。ますます耐力壁に使える壁が減る。じゃあ、どこで耐震性を確保するか。
 地震に耐えるための耐力壁は、対角線上に確保できないと、耐震性能のバランスが崩れ、かえって構造は弱くなってしまう。

 ああでもない、こうでもない。
 浮かんでくるアイデアと、それを実現するための構造の工夫。
 いつも、このバランス取りが厄介だ。簡単な仕事だと思ったら、意外に難しくなってきた。

 ……だが、それがいい。アイデアと制限のすり合わせ、これが面白いから、だから設計はやめられないのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界カフェ食堂で皿洗いをしますと思ったら日本料理を創造する力が与えられていた!(もふもふ聖獣猫のモフにゃーと楽しく日本料理を創造します)

なかじまあゆこ
ファンタジー
可愛いもふもふ達とアリナは異世界でスローライフをします。 異世界召喚された安莉奈は幼女の姿になっていた。神様に与えられた能力を使い眷属聖獣猫モフにゃーや魔獣のライオン魔獣鳥に魔獣の日焼けとお料理を創造します! 熊元安莉奈(くまもとありな)は黄色のバスに乗せられ異世界召喚された。 そして、なぜだか幼女の姿になっていた。しかも、日本の地球人だったことを忘れていたのだ。 優しいモリーナ夫妻に養子として引き取れた安莉奈はアリナになった。 モリーナ夫妻はカフェ食堂を経営していたが繁盛しておらず貧乏だった。料理が出来ないアリナはお皿洗いなどのお手伝いを小さな体ながらしていたのだけど。 神様から日本料理を創造する力が与えられていた! その力を使うと。 地球では辛い生活を送っていた安莉奈が異世界ではアリナとしてお父さんに激愛され幸せに生きている。 エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...