ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
266 / 785
第三部 異世界建築士と思い出の家

第245話:染め直す

しおりを挟む
 目が覚めたら夜だった。
 彼女を背後から抱きしめるようにして、いつの間にか眠っていたようだ。
 結局、夕食をとることもなく。

 買い物から戻って来たとき――家に一歩入ったその瞬間、リトリィは買い物の全てを放り出して飛びついてきて、号泣した。

 ごめんなさい、と。
 ただただ、それを繰り返して。

 泣きじゃくりながら求めてきた彼女を、俺は力いっぱい抱きしめ、そして、狂ったように抱いた。

 彼女が求めたのだ。
 染め直してください、と。
 もう一度やり直しましょう、と。



 彼女のいた部屋にたどり着いた、あの夜。
 あの時――部屋に突入した時、奴隷商人の親玉は、すでに死んでいた。
 あれは、ガルフが殺したのだという。

 例の馬車の護衛任務から戻ってきたガルフは、部屋に入るなり、「約束が違う」と静かに言ったのだそうだ。
 そして、リトリィに言い寄っていた奴隷商人を彼女から引きはがすと、牢から引きずり出し、喉を一撃したのだとか。
 出入り口付近までわざわざ引きずっていってから殺したのは、多分、リトリィを血で汚したくなかったんだろう。

 リトリィは、こちらが聞いたわけでもないのに、包み隠さず話してくれた。
 泣きながら、謝りながら。
 彼女のせいでもなんでもないのに、どうか抱いてほしい――そう、訴えながら。

 だから俺は抱いた。抱き続けた。彼女を上に乗せなどしなかった。
 彼女に任せるのではなく、全て俺自身が、俺の意思で注ぎ込んだ。
 君が望み、求める幸せは、俺が作ってやるんだ。他の誰でもない――この俺が!



 彼女のぬくもりに包まれたまま、俺はまどろんでいたことを自覚する。

 リトリィも、自分の中で硬度をとりもどしたモノの存在に気づいたのか、身じろぎしたあと、腰を押し付けてくる。寝ぼけていたか無意識なのか、でもそれがあまりにも愛おしくて、ついその腹に腕を回して一気に突き込むと、可愛らしい悲鳴を上げて目を覚ました。

「む……ムラタさん?」

 首だけこちらに向けてきた彼女の口を、俺はすこし体を起こして、己の唇でふさぐ。
 何をされたのかいまいち分かっていないような、とろけた目。

 それがまたそそるものだから、唇をこじ開け舌を差し込むと、ようやく何をされているかを理解したようだ。たちまち彼女の舌の反撃によって、俺の口内は蹂躙されてしまう。
 舌の長さが圧倒的なんだよ、彼女は!

「……おさん、また、お元気になられたんですね?」

 嬉しそうに微笑む彼女に応えるべく、俺は身を起こすと、彼女の上に改めて覆いかぶさった。すぐに彼女は、全身でしがみついてくる。

「……これじゃ、動けないよ」
「いいんです。これで。ずっと、このままでいてください」

 夜明けまでだっていいですよ? そう言って顔を舐めてくる彼女。

「できるだけ長いあいだ、あなたを感じていたいから」

 そうか、と、俺も微笑んでみせて、そして、彼女の首に腕を回す。

「ムラタさん……。わたしは、あなたにとって、よいおんなですか? ぐあいのいいおんなですか……?」
「いいよ、すごく」
「……よかった、あなたにそう言ってもらえるなら……」

 何の気なしに、正直に答えた俺の言葉に、俺自身が疑問を持つ。
 彼女は、そんなこと、今まで、聞いてきたことが、あっただろうか。

「……リトリィ、なぜ、そんなことを?」

 俺の質問に、リトリィは、首を振って、答えなかった。

 再び沸き起こる、えぐみのある感情のままに、俺は身を起こし、彼女の中に己を突き込んだ。
 彼女のはらの支配権は自分にあるのだという、どす黒い情念を、醜い独占欲を、彼女の中に吐き出すために。

 ああ、最低だ。
 俺は。
 それなのに。
 ああ、それなのに。

 彼女は、ただただ、幸せそうだった。
 俺を抱きしめて、ずっと、されるがままになって。

 藍月の夜まで、あとわずか。
 過ぎたことを悔やんでも戻らない。
 繰り返し注ぎ込み、押し流し、染め直す。

 俺にできるのは、それだけだ。



「ムラタさん、何をしているんですか?」
「うわぁあっ!?」

 背後からマイセルに声を掛けられ、俺は慌てて目の前の紙切れに辞書を叩きつけた。マイセルの奴、朝っぱらから「ケーキを焼いてきたんです!」とやって来たはいいが、ずっとリトリィとべったりだったのに。

「い、いいいやなんんでもないいっ!」
「そんなに声を上ずらせて、なんでもないなんてこと、ないでしょう?」
「ほほほんとになんでもないからっ!」

 首をかしげるマイセルに、俺は彼女を机に近づけまいと、必死で訴える。

「ほんとうに、なんでもないんですか?」
「なんでもない、なんでもないったら!」

 盛んに首を伸ばしてくるマイセル。いや、たしかに君はそーいうキャラだけど、今はダメなんだ!
 しばらくその攻防が続く、とおもいきや、マイセルはそのまま、あっさりと引き下がった。ほっと溜息を突こうとしたとき、くりくりの目をキラキラと輝かせ、彼女は言った。

「ムラタさん、その書き方だと、リトリィお姉さまが、『尊敬するリトリィおばさん』になってますよ? 身内ならもっと軽く――」

 足元に落ちていた紙に、さらさらっと、綺麗な字で書きつける。

「『愛するリトリィお嬢さん』――こうかな? ふふっ、がんばってくださいね」
「な……お、おい! 読んだのか!?」
「ふふ、だって、今日は、でしょ?
 ちらっと目に入っただけですけど、だいたいは。だってそのお手紙、修辞句が少なくて言葉がすごく易しかったから」



 まったく、マイセルは、本当に心臓に悪い登場の仕方をする。
 今朝だって、ケーキ片手に唐突にやってきて、「お姉さま、いらっしゃいますよね?」だ。

 昨夜、散々体を重ねたうえに入れたまま寝ていたものだから、体を起こすだけであふれてきてしまう状態だったらしく、リトリィのやつ、マイセルの前に出るに出られなくて、半泣きで時間稼ぎを要求する始末だった。

 で、やっとのことでリトリィの身支度が済んだと思ったら、すぐにリトリィを捕まえて、俺など目もくれず二人でレース編み。俺はなんとも居心地が悪い思いをすることになったんだ。

 いや、きっと、マイセルは、昨日までにひどい目に遭ったリトリィを気遣ってくれて来てくれたのだ。それは分かる。分かるけど、リトリィを独り占めされたような気がして、どうにも落ち着かない。

 結果、俺はさっきまで外をぶらつき、ペリシャさんにつかまって、今日という日の価値をこんこんと諭される羽目になったんだがな。

 いや、説教のことは抜きにしても、実は、とてもありがたかったんだけどな。

 ペリシャさん曰く、今日は「ヴァン・サレンティフスを讃える日」――男女を問わず、大切な人へ、ちょっとしたプレゼントにメッセージカードを添えて、普段の感謝を伝える日、なのだそうだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界カフェ食堂で皿洗いをしますと思ったら日本料理を創造する力が与えられていた!(もふもふ聖獣猫のモフにゃーと楽しく日本料理を創造します)

なかじまあゆこ
ファンタジー
可愛いもふもふ達とアリナは異世界でスローライフをします。 異世界召喚された安莉奈は幼女の姿になっていた。神様に与えられた能力を使い眷属聖獣猫モフにゃーや魔獣のライオン魔獣鳥に魔獣の日焼けとお料理を創造します! 熊元安莉奈(くまもとありな)は黄色のバスに乗せられ異世界召喚された。 そして、なぜだか幼女の姿になっていた。しかも、日本の地球人だったことを忘れていたのだ。 優しいモリーナ夫妻に養子として引き取れた安莉奈はアリナになった。 モリーナ夫妻はカフェ食堂を経営していたが繁盛しておらず貧乏だった。料理が出来ないアリナはお皿洗いなどのお手伝いを小さな体ながらしていたのだけど。 神様から日本料理を創造する力が与えられていた! その力を使うと。 地球では辛い生活を送っていた安莉奈が異世界ではアリナとしてお父さんに激愛され幸せに生きている。 エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...