ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
363 / 785
第四部 異世界建築士と幸せの鐘塔

第339話:コンペ用二案と無邪気なリトリィ

しおりを挟む
「マイセル、見てくれ。こいつらをどう思う?」
「どうって……」

 マイセルは、いくつかの案を見て、戸惑った。

「すごくすてきです、だんな様! まるい塔をまるい柱がぐるっと囲むように立っているのが、なんだかかわいらしいですね」

 目をきらきら、しっぽをぱたぱたさせているリトリィは、その万倍も可愛いけどな!
 そんなリトリィと対照的なのが、感嘆のため息を漏らしつつ難しい顔をしているマイセルだ。

「素敵ですけど……ムラタさん、本当にこんなもの、建てられるんですか?」

 俺が見せたのは、ピサの斜塔をリスペクトした円筒型の塔。現役の塔が真四角ならば、円筒型の塔はそれなりにインパクトがあるだろう、という狙いだ。

 先日、何度か行った「写生会」で、あえて「この街では見ない建築様式」を主軸に据えた、斬新さを感じさせるデザイン。

 ドームを作るわけでもないので、技術的にはなんの問題もないだろう。マイセルも、そんなことを言いたいわけじゃあるまい。
 ずらりと立ち並ぶ円柱で覆われたこのデザインだ、間違いなく手間がかかる。見た目の良し悪しはともかく、費用も時間もかかるに違いない。

 それは、最後まで計画通りに進められなくなる恐れがある、ということだ。だが、予算も工期も聞いていないからな。こっちはあくまでも、できそうなデザインを提示するだけだ。

 ほかにも、ゴシック様式をリスペクトした尖塔をいくつももつ塔とか、曲線的なモダン建築をリスペクトしたねじりん棒のような塔とかも合わせて描いてみたが、こちらはまあ、なかばダミーみたいなものだ。できないことはないが、天文学的な予算を要求してやる。

「だんなさま、こちらの四角い塔は……?」

 リトリィが手にしているのは、もう一つの案だ。今の塔を修理、補強するもの。
 アーチ構造を多用した外装をまとわせることで装飾を加えつつ補強。内部も、鉄骨による支柱で補強する。
 近くで見れば意匠の変化に気づくだろうが、遠くから見たシルエットは、今ある塔とほとんど変わらないようにしてある。

 前者の円筒形の塔は完全に一からの作り直しなのに対して、後者の方はあくまでも補修と強化。今ある塔を解体したうえで一から作るよりも、間違いなく早いうえに安くできるだろう。

 鉄骨の接合はリベットかボルトを想定しているが、技術的にどうしても難しいのであれば、木製の支柱もありだ。木は濡れさえしなければ、千年だってもつ建材だからな。

 ところで、なぜ補強をするかというと、今、空いている穴のせいだ。
 話によると、風の強い日には、まるで塔がすすり泣いているかのような風切り音が鳴るのだという。それ自体はさして問題ないのだろうが、問題は内部に侵入した雨だ。

 俺がこの街に来てからしばらくは、雨や雪に困ることはあまりなかった。しかし、それでも結婚から三カ月の間には、それなりにまとまった雨が降ったこともあった。

 先日、塔を上ったときにも、雨が直接当たったり雨水が流れたりする場所の木材はやはり腐食していたし、石材はともかく、接着剤たるモルタルもだいぶ傷んでいるのが分かった。

 そして、露店のおっちゃんの話だ。

『風の強い日にゃあ、すすり泣くような音を立てて身を震わせるありさまになっちまいやがって』

 すすり泣くような、は風切り音として、身を震わせる、という点だ。塔に空いた穴が、完全にカラッポな塔の内部で共鳴して音が鳴る、はいい。だが、木造ならともかく、石造の塔が「身を震わせる」というのは問題だ。

 おそらく、長年の風雨の影響だと思うが、石の塔が揺れる「ようになった」、というのは強度上、問題がありそうだ。接合部のひび割れクラックを調査したわけでもないけれど、少なくともいい傾向ではないだろう。

 ただでさえ、四方は薄い石材の壁、それを途中で支える柱もなく、モルタルの接着だけが頼りというこの塔を活かしたまま利用するならば、鉄骨や木骨での補強は絶対条件だと思われる。

「ムラタさんは、今の塔を活かしたいんですか? それとも、壊してしまいたいんですか?」
「できれば活かしたい。が、そもそもアイデア募集主は、そんなことを考えてもいないかもしれない。だからこそ、事実上、この二つの案だ」

 ひとつは、この街にない斬新、かつ枯れた技術を生かせる円柱塔の案。
 そしてもう一つは、あまり個性的な外観に走らず、街の人々がおそらく見慣れているであろう様式を取り入れつつ、今ある資産を活かす案。できれば、この補修・改良案が通るといいと思っている。

 街と共に「生きてきた」塔なのだ。街の人の愛着も、特に年配の方々にはそれなりにあるようだし、わざわざ壊すまでもない。できるだけ活かしたこの案が採用されると、嬉しいのだが。

 ――という俺の意図を知っているはずなのに、リトリィが俺をソファに押し倒す。

「わたし、この丸い塔、気に入りました! だんなさま、これ建てましょう! こんな可愛い塔なら、わたし、毎日だって上っちゃいます」

 わふわふと頬を舐めてきながらねだるリトリィが、なんだか妙に新鮮だ。こんな幼い仕草をみせるなんて、今までにあっただろうか。マイセルもなんだか苦笑いしている。

「そうだ、だんなさま! 署名入れましょう、署名! だんなさまが描いたって分かるように! わたしたちも、ほら、たとえば剣身の柄にかくれるところに、自分の署名を彫り込んだりしますから!」
「署名?」
「そうですよ! この塔が建てられたら、この図面だってきっとだいじな資料になるんですよ? 何百年たっても、ムラタさんだってわかる、そんな署名をどこかに書いておくんですよ!」

 じつに嬉しそうに提案するリトリィに、マイセルも「それなら……」と妙に乗り気になる。捕らぬ狸の皮算用ってやつか。でも盛り上がる二人を見ていると、それだけ俺に期待をかけてくれているのが分かって、照れくさくもあるが、嬉しい。

「いや、決めるのはコンペの主だからな? まあ、このデザインが気に入ってもらえたら、今ある塔を壊して、これを建てることになるんだろう」
「じゃあ、気に入ってもらえるように、もっと可愛らしくできますか?」
「装飾を増やすと、それだけ時間もカネもかかる塔になるんだがなあ」
「だいじょうぶですよ! お貴族さまなんですから、お金はきっと、いっぱいありますから」

 しぼりとってあげましょう、とニコニコして言うリトリィに、こんなにも無邪気な彼女は初めて見たと、俺もついに苦笑するしかなくなった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...