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第四部 異世界建築士と幸せの鐘塔
第402話:イベントはまとめてやって来る
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小料理屋を出るころには辺りはすっかり真っ暗になっていた。冬の空を、星々が美しく彩っている。
「ムラタさんって、本当にお人好しなんだから」
マイセルが口をとがらせるが、マレットさんは「それがお前の選んだ男の良さなんだろ?」と笑った。
「はい。だんなさまのいいところは、謙虚なところと、ひとを受け入れて許せるおやさしさだと思います」
リトリィが微笑む。「だからマイセルちゃん、これからもだんなさまのおやさしさに、いっぱい甘えましょうね?」
「でも、私、やっぱり許せません。思い出したら腹が立ってきちゃった」
小料理屋を出る前だった、リファルが涙をこぼしながら俺に謝ったのは。
「お、オレ、こんなことになるなんて、思わなかったんだ……。あのとき、オレが、あんなこと、しなければ……」
あの、俺が最初に図面を届けに行った、あの時のことを言っているのだろう。
あの時、リファルの妨害によって図面は散逸した。その一枚――渾身の一枚が、よりにもよって俺を陥れる材料になってしまった。
リファルは、それを知ってからずっと悔いていたという。
「すまねえ……すまねえ、ムラタ……!」
「いいさ。もう。おかげで俺は、一つ別の仕事ができた。今ここにいるのも、そのおかげだ」
「別の、仕事……?」
「結局、中途半端になっちまったけどな」
そう。
あの、集合住宅の仕事。
「確かに苦しかったけどな。あの時のことを思えば、今ここで何発ぶん殴ったって足りないだろう」
俺の言葉に、リファルがびくりと背筋を伸ばす。
けれど俺は、笑って続けた。
「でもな……振り返ってみれば、得られたものも多いんだ」
レンガ造りの家に携わったのはいい経験になったし、なによりあの現場を通して、リトリィが鉄工職人になる、その道を切り開くことができたんだ。
カラビナの開発を通して俺の知る現場に安全帯を広めることができたし、スポーツドリンクもどきも開発できた。日本の流儀を広めることができたのだ。
「……だから、お前には感謝すらしてるんだ、リファル。今だからそう言えるようになった、というだけなんだがな」
「む、ムラタ、お、お前ってヤツは……」
小料理屋の前で声を放って泣き崩れたリファル。
ああも恥も外聞もなくリファルが泣くとは思わなかった。
あれほど、俺を「ニセ大工」と呼び、頑なに認めてこようとしなかった奴が。
「何発かぶん殴ってもよかったと思うがな。俺にとっちゃ、娘も、娘の婿も苦しめた元凶だ」
「マレットさん。俺はもう、こりごりですよ。人をぶん殴ると、自分の拳も痛いんですから」
どつき合いなんてもう、うんざりだ。そんなことをする暇があったら、リトリィをもふもふして癒されたい。ここしばらく、肉体的にも精神的にも疲れたんだ。とにかく幸せを堪能したい。
「もふもふしたいですか? いいですよ? いましてください。わたしもだんなさまに、もふもふされたいです」
「ああっ、おねえさまずるいです! じゃあムラタさん、私もいっぱいなでなでしてください! なでなでされたいです!」
二人に両サイドからしがみつかれ、バランスを崩して転びかける。
「がっはっは、まるで俺の若いころみたいだな。女房二人に取り合いされていた頃の俺みたいによ」
「え? お母さまたち、お父さんを取り合ってたの?」
「そりゃ、今夜はどっちと寝るかって……ああ、いや、なんでもねえ」
さすがに、思い出話とはいえ夫婦の夜の寝室事情を娘に話すことができるほど、マレットさんもスレてはいなかったらしい。……息子さんになら、言っていただろうか?
でも、そうするとマレットさんの家では、二人で交代制だったようだな。俺たちのように一つのベッドで三人、愛し合うのも三人でいっしょに、というわけではなかったみたいだ。
……うん、きっとそれが普通なんだよな。多夫多妻が容認されているといっても。
「ところでムラタさんよ。あんた、今後どうするんだ? 例の塔の設計はあんたのものだって、フェクトール公もギルド長も認めた。となれば、現場についてもあんたのものになりそうなものだが」
「いえ、すでに工事は進んでいますし、いまの監督をクビにしてそこに俺が収まるなんて真似もできないでしょう。俺は、設計者の名誉を取り返した――それだけでもう、十分ですよ」
「……本当にあんたは、人が好いやつだな。大事なメシの種だろうに」
「……本音を言うと、クレーンをあそこまで派手にぶっ壊して荒らした現場に、今さら入りたくないだけです」
そう言うと、マレットさんの目が点になった。
そして、ようやく思い出したような顔をして、大笑いした。
「違いない! 本当に暴れたもんなあ、俺たちもよ! 貴族の屋敷を解体作業でなしにぶっ壊すなんて真似、後にも先にもあんたしかやらねえだろうなあ!」
「ちょっ――こ、声が大きいですよマレットさん!」
「事実なんだ、仕方ねえだろう」
「そ、それはそうなんですが!」
貴族の館をぶっ壊した大工、なんて噂が広まったら、仕事が来なくなるに決まっているじゃないか!
「なにを今さら。女房のためなら奴隷商人もぶっ潰す、そんな男っつう噂がとっくの昔に広まってるだろ? それに貴族の館が加わるだけだ、武勇伝だ、胸を張れ」
「ただの大工っていうか、建築士に武勇伝なんていりませんよ!」
「オトコの箔だ、あって困るもんじゃねえ」
そう言って俺の背中をバシバシとぶっ叩く。いつものことだが、痛い!
「これからきっと、あんたには仕事がいろいろ舞い込んでくるはずだ。良くも悪くも有名になったんだからな。施主が知らなくとも、引き受けた大工達は、あんたのことをよく知っていることになる。そうすると、あんたにもお呼びがかかるって寸法だ。でかい仕事ほどな?」
下手をすると、嫁を可愛がる時間も無くなるほど忙しくなるぞ――マレットさんは笑いながら、たどり着いた家の扉を開ける。
「おーい、帰ったぞ! 婿殿も一緒だ、水をくれ水!」
上機嫌で家に入っていくマレットさんに、マイセルが呆れたように笑いながらそっと耳打ちをする。
「お酒を飲んで帰るとお母さんからお小言があるんですけど、お客さんがいるとそれがないからなんですよ」
――なるほど。だから今夜はうちで泊まっていけ、と言ったわけか。
ただ、マレットさんの家で、……その、子作りをするのは、毎度のことのながら、やっぱりいつもと違って遠慮してしまうからなあ……。
「だめですよ? お母さんたちを安心させてあげてください。ちゃんと子作りしてるんだって――娘は、ちゃんとだんなさまに可愛がられているんだって、思ってもらえるように」
いたずらっぽく微笑みながら見上げるマイセルに、俺は観念した。妻――リトリィにも、そしてマイセルにも、俺は敵わない。
三人で小さく笑い合って、そして家に入ろうとしたら、マレットさんの素っ頓狂な声が聞こえてきた。
「ええっ!? お、お兄ちゃんに恋人⁉」
「……いて悪いか」
「え、だって、お兄ちゃんがそんな人つくるなんて、そんな……嘘!」
マレットさんの素っ頓狂な声の元凶に、マイセルが目を見開く。
ハマーの隣には、穏やかな微笑みを浮かべる、一人の女性がいた。
「お前、ほんとに失礼な奴だな……」
「だってお兄ちゃん、モテたことないじゃない!」
「ほんとに失礼な奴だな!」
「あ、あの! 兄に騙されてませんか? なにか弱みを握られているんじゃないんですか!?」
「失礼極まる奴だな!!」
ハマーが目を剥くが、俺も驚いていた。あのハマーが、くそ生意気小僧のハマーが、彼女を連れてきているなんて。
女性は、名をシィルブリュークというらしい。シィルさんと呼べばいいようだ。ダークブラウンのセミロングの艶やかな髪、同じ色の瞳が印象的だ。
噛みつき屋のハマーと違っておっとりとした、落ち着いた大人の女性という感じがする。実際、ハマーよりも二つ年上だった。ということは、リトリィとほぼ同じ歳ということになる。
二人並んでソファに座っているが、明らかにハマーより背が高い。いや、ハマーは決して背が高い方ではないとはいえ、それでも女性より背が低いというのは、プライドの高そうな彼にはなかなかやりづらそうなのに。
落ち着いているシィルさんとソワソワしているハマーとの組み合わせは、身長差も相まって、できた姉と落ち着かない弟という雰囲気を作り出してしまう。こみあげてくる笑いをこらえるのに、俺は必死だった。
聞けば、夏の間に知り合ったのだとか。なんでも、橋の修理の現場で働いていた時に熱中症でハマーが倒れたのを、橋の近くに住んでいた彼女が介抱したのが縁だったのだとか。
「……情けない出会いだな?」
「うるさい」
顔を真っ赤にしているが、まあ、怒りではないだろう。
で、しばらくしてからこっそり交際を始めて、それで今日、初めて連れてきたのだとか。
「い、いや、ホントはそんなつもりなかったんだけど! 親父は今日、アンタについてどっか行っちまってたから、ちょうど逢引……っと、ちょっと会って、それで、いろいろあって――」
しどろもどろになるハマーに対して、ポッと頬を染めて視線を外すシィルさん。
リトリィがふんふんと鼻を鳴らし、そして俺に対して意味ありげに微笑んでみせる。
……ああ、一線を越えたわけね? なるほど。
獣人族はヒトよりもずっと鼻が利くからな、なるほど。
「うれしいわあ。これでやっと安心できるわね、あなた」
ハマーの実母であるネイジェルさんが笑えば、マイセルの実母であるクラムさんも相槌を打つ。
「マイセルの方が先にお嫁にいっちゃったものだから、すこし寂しかったんですけど。あとは孫が生まれれば、またにぎやかになるわね。楽しみだわ」
そして、二人とも意味ありげにシィルさんに向かって微笑みかける。シィルさんの方も頬を染めてうつむいてしまった。
「ま、孫って! お袋たち、気が早すぎるだろ! まだ結婚だって――」
「あら、結婚なんてただの手続きなんだから。早く産んでもらえるなら、それに越したことはないでしょう?」
「大丈夫よ? できたときにはいつでも言ってね? このおバカさんが何を言おうと、ふん縛ってでもあなたのいいようにしてあげるから」
イベントというモノは、一度にまとめてやって来るものらしい。
不幸も、面倒くさいことも、――そして、幸せも。
「ムラタさんって、本当にお人好しなんだから」
マイセルが口をとがらせるが、マレットさんは「それがお前の選んだ男の良さなんだろ?」と笑った。
「はい。だんなさまのいいところは、謙虚なところと、ひとを受け入れて許せるおやさしさだと思います」
リトリィが微笑む。「だからマイセルちゃん、これからもだんなさまのおやさしさに、いっぱい甘えましょうね?」
「でも、私、やっぱり許せません。思い出したら腹が立ってきちゃった」
小料理屋を出る前だった、リファルが涙をこぼしながら俺に謝ったのは。
「お、オレ、こんなことになるなんて、思わなかったんだ……。あのとき、オレが、あんなこと、しなければ……」
あの、俺が最初に図面を届けに行った、あの時のことを言っているのだろう。
あの時、リファルの妨害によって図面は散逸した。その一枚――渾身の一枚が、よりにもよって俺を陥れる材料になってしまった。
リファルは、それを知ってからずっと悔いていたという。
「すまねえ……すまねえ、ムラタ……!」
「いいさ。もう。おかげで俺は、一つ別の仕事ができた。今ここにいるのも、そのおかげだ」
「別の、仕事……?」
「結局、中途半端になっちまったけどな」
そう。
あの、集合住宅の仕事。
「確かに苦しかったけどな。あの時のことを思えば、今ここで何発ぶん殴ったって足りないだろう」
俺の言葉に、リファルがびくりと背筋を伸ばす。
けれど俺は、笑って続けた。
「でもな……振り返ってみれば、得られたものも多いんだ」
レンガ造りの家に携わったのはいい経験になったし、なによりあの現場を通して、リトリィが鉄工職人になる、その道を切り開くことができたんだ。
カラビナの開発を通して俺の知る現場に安全帯を広めることができたし、スポーツドリンクもどきも開発できた。日本の流儀を広めることができたのだ。
「……だから、お前には感謝すらしてるんだ、リファル。今だからそう言えるようになった、というだけなんだがな」
「む、ムラタ、お、お前ってヤツは……」
小料理屋の前で声を放って泣き崩れたリファル。
ああも恥も外聞もなくリファルが泣くとは思わなかった。
あれほど、俺を「ニセ大工」と呼び、頑なに認めてこようとしなかった奴が。
「何発かぶん殴ってもよかったと思うがな。俺にとっちゃ、娘も、娘の婿も苦しめた元凶だ」
「マレットさん。俺はもう、こりごりですよ。人をぶん殴ると、自分の拳も痛いんですから」
どつき合いなんてもう、うんざりだ。そんなことをする暇があったら、リトリィをもふもふして癒されたい。ここしばらく、肉体的にも精神的にも疲れたんだ。とにかく幸せを堪能したい。
「もふもふしたいですか? いいですよ? いましてください。わたしもだんなさまに、もふもふされたいです」
「ああっ、おねえさまずるいです! じゃあムラタさん、私もいっぱいなでなでしてください! なでなでされたいです!」
二人に両サイドからしがみつかれ、バランスを崩して転びかける。
「がっはっは、まるで俺の若いころみたいだな。女房二人に取り合いされていた頃の俺みたいによ」
「え? お母さまたち、お父さんを取り合ってたの?」
「そりゃ、今夜はどっちと寝るかって……ああ、いや、なんでもねえ」
さすがに、思い出話とはいえ夫婦の夜の寝室事情を娘に話すことができるほど、マレットさんもスレてはいなかったらしい。……息子さんになら、言っていただろうか?
でも、そうするとマレットさんの家では、二人で交代制だったようだな。俺たちのように一つのベッドで三人、愛し合うのも三人でいっしょに、というわけではなかったみたいだ。
……うん、きっとそれが普通なんだよな。多夫多妻が容認されているといっても。
「ところでムラタさんよ。あんた、今後どうするんだ? 例の塔の設計はあんたのものだって、フェクトール公もギルド長も認めた。となれば、現場についてもあんたのものになりそうなものだが」
「いえ、すでに工事は進んでいますし、いまの監督をクビにしてそこに俺が収まるなんて真似もできないでしょう。俺は、設計者の名誉を取り返した――それだけでもう、十分ですよ」
「……本当にあんたは、人が好いやつだな。大事なメシの種だろうに」
「……本音を言うと、クレーンをあそこまで派手にぶっ壊して荒らした現場に、今さら入りたくないだけです」
そう言うと、マレットさんの目が点になった。
そして、ようやく思い出したような顔をして、大笑いした。
「違いない! 本当に暴れたもんなあ、俺たちもよ! 貴族の屋敷を解体作業でなしにぶっ壊すなんて真似、後にも先にもあんたしかやらねえだろうなあ!」
「ちょっ――こ、声が大きいですよマレットさん!」
「事実なんだ、仕方ねえだろう」
「そ、それはそうなんですが!」
貴族の館をぶっ壊した大工、なんて噂が広まったら、仕事が来なくなるに決まっているじゃないか!
「なにを今さら。女房のためなら奴隷商人もぶっ潰す、そんな男っつう噂がとっくの昔に広まってるだろ? それに貴族の館が加わるだけだ、武勇伝だ、胸を張れ」
「ただの大工っていうか、建築士に武勇伝なんていりませんよ!」
「オトコの箔だ、あって困るもんじゃねえ」
そう言って俺の背中をバシバシとぶっ叩く。いつものことだが、痛い!
「これからきっと、あんたには仕事がいろいろ舞い込んでくるはずだ。良くも悪くも有名になったんだからな。施主が知らなくとも、引き受けた大工達は、あんたのことをよく知っていることになる。そうすると、あんたにもお呼びがかかるって寸法だ。でかい仕事ほどな?」
下手をすると、嫁を可愛がる時間も無くなるほど忙しくなるぞ――マレットさんは笑いながら、たどり着いた家の扉を開ける。
「おーい、帰ったぞ! 婿殿も一緒だ、水をくれ水!」
上機嫌で家に入っていくマレットさんに、マイセルが呆れたように笑いながらそっと耳打ちをする。
「お酒を飲んで帰るとお母さんからお小言があるんですけど、お客さんがいるとそれがないからなんですよ」
――なるほど。だから今夜はうちで泊まっていけ、と言ったわけか。
ただ、マレットさんの家で、……その、子作りをするのは、毎度のことのながら、やっぱりいつもと違って遠慮してしまうからなあ……。
「だめですよ? お母さんたちを安心させてあげてください。ちゃんと子作りしてるんだって――娘は、ちゃんとだんなさまに可愛がられているんだって、思ってもらえるように」
いたずらっぽく微笑みながら見上げるマイセルに、俺は観念した。妻――リトリィにも、そしてマイセルにも、俺は敵わない。
三人で小さく笑い合って、そして家に入ろうとしたら、マレットさんの素っ頓狂な声が聞こえてきた。
「ええっ!? お、お兄ちゃんに恋人⁉」
「……いて悪いか」
「え、だって、お兄ちゃんがそんな人つくるなんて、そんな……嘘!」
マレットさんの素っ頓狂な声の元凶に、マイセルが目を見開く。
ハマーの隣には、穏やかな微笑みを浮かべる、一人の女性がいた。
「お前、ほんとに失礼な奴だな……」
「だってお兄ちゃん、モテたことないじゃない!」
「ほんとに失礼な奴だな!」
「あ、あの! 兄に騙されてませんか? なにか弱みを握られているんじゃないんですか!?」
「失礼極まる奴だな!!」
ハマーが目を剥くが、俺も驚いていた。あのハマーが、くそ生意気小僧のハマーが、彼女を連れてきているなんて。
女性は、名をシィルブリュークというらしい。シィルさんと呼べばいいようだ。ダークブラウンのセミロングの艶やかな髪、同じ色の瞳が印象的だ。
噛みつき屋のハマーと違っておっとりとした、落ち着いた大人の女性という感じがする。実際、ハマーよりも二つ年上だった。ということは、リトリィとほぼ同じ歳ということになる。
二人並んでソファに座っているが、明らかにハマーより背が高い。いや、ハマーは決して背が高い方ではないとはいえ、それでも女性より背が低いというのは、プライドの高そうな彼にはなかなかやりづらそうなのに。
落ち着いているシィルさんとソワソワしているハマーとの組み合わせは、身長差も相まって、できた姉と落ち着かない弟という雰囲気を作り出してしまう。こみあげてくる笑いをこらえるのに、俺は必死だった。
聞けば、夏の間に知り合ったのだとか。なんでも、橋の修理の現場で働いていた時に熱中症でハマーが倒れたのを、橋の近くに住んでいた彼女が介抱したのが縁だったのだとか。
「……情けない出会いだな?」
「うるさい」
顔を真っ赤にしているが、まあ、怒りではないだろう。
で、しばらくしてからこっそり交際を始めて、それで今日、初めて連れてきたのだとか。
「い、いや、ホントはそんなつもりなかったんだけど! 親父は今日、アンタについてどっか行っちまってたから、ちょうど逢引……っと、ちょっと会って、それで、いろいろあって――」
しどろもどろになるハマーに対して、ポッと頬を染めて視線を外すシィルさん。
リトリィがふんふんと鼻を鳴らし、そして俺に対して意味ありげに微笑んでみせる。
……ああ、一線を越えたわけね? なるほど。
獣人族はヒトよりもずっと鼻が利くからな、なるほど。
「うれしいわあ。これでやっと安心できるわね、あなた」
ハマーの実母であるネイジェルさんが笑えば、マイセルの実母であるクラムさんも相槌を打つ。
「マイセルの方が先にお嫁にいっちゃったものだから、すこし寂しかったんですけど。あとは孫が生まれれば、またにぎやかになるわね。楽しみだわ」
そして、二人とも意味ありげにシィルさんに向かって微笑みかける。シィルさんの方も頬を染めてうつむいてしまった。
「ま、孫って! お袋たち、気が早すぎるだろ! まだ結婚だって――」
「あら、結婚なんてただの手続きなんだから。早く産んでもらえるなら、それに越したことはないでしょう?」
「大丈夫よ? できたときにはいつでも言ってね? このおバカさんが何を言おうと、ふん縛ってでもあなたのいいようにしてあげるから」
イベントというモノは、一度にまとめてやって来るものらしい。
不幸も、面倒くさいことも、――そして、幸せも。
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